2.改めて感じたこと~「ざまぁ」が持つ圧倒的カタルシス~



 真生版を改めて観て、やはり感じたのは「終わった後の謎の爽快感」。

 あくまで個人的な感覚ですが、ゲ謎を観た直後というのは「すごくいい温泉かスパを楽しんだ」感がすごい。

「ゲ謎スパめっちゃ気持ち良かった! 来週また行きたい!!」となってしまうのですw

 つまり「何が起こるかもう全部知ってるけど、それでもまた観たい」と思わせる力がある。だからこそリピーターも多いのでしょう。


(「あの部分がよく分からなかったから確認と考察の為にもう一度見る」というパターンの作品も数多いですが、ゲ謎の場合リピートの理由がそれとは若干違う)


 救いのない物語というのは、この世に数多いです。

 そういった物語で名作と呼ばれる作品も、非常に多くあります。

 しかしそういう物語はトラウマとなるものも多く、作品自体は非常に良質なのにあまりリピーターがいない、ファンがつかない……という現象もこれまた多いです。

 自分も「とっても良かった、文句のつけようがない傑作だった、けどもう二度と見たくない!」と思ってしまう作品には何度か出くわしました。

 本当に地獄のような作品とは、「作品の質は最高級だけどマジで二度と見たくなくなってしまうもの」だと思います。

(分かりやすいところだと「火垂るの墓」とか、あとは例えば映画「縞模様のパジャマの少年」とか。「アドルフに告ぐ」を何度も何度も噛みしめ地獄を堪能した自分ですら一発で「無理! 二度と見ない!!」となった逸品。

 それでも人生で一度は是非観てほしい作品でもある)



 特に今は、トラウマを呼び起こすような作品が忌避される時代。

「なろう」などのweb小説サイトでも、上位に入る作品は大概「どうしようもないクズを徹底的にざまぁする」系の話です。どんなにストーリーや文章が良くても、救いのないストレスまみれの話は本当にPVもポイントも伸びない。

 なのに、一体何故この地獄のような物語「鬼太郎誕生」は大ヒットしたのか。


 答えは「救いがなさそうに見えて、実は救いがちゃんとある」からだと自分は思っています。

 または「『ざまぁ』なんて入る余地がなさそうに見えて、実はちゃんと『ざまぁ』があるから」。


 要はあの「あんたつまんねぇなぁ!!!」のカタルシスが、とんでもなく心地いいのです!!



 龍賀一族の真相。

 ゲゲ郎の奥さんや、ヒロインである沙代(さらには無関係に攫われた母娘たち)に起こった悲劇。そして沙代のあまりにあんまりな最期。

 このあたりで観客はもう絶望のどん底です。

 その上無邪気な子供だったはずの時弥までもが時貞の犠牲となり、水木も身体を瘴気に蝕まれ瀕死。このあたりはもう地獄でしかありません。

 ゲゲ郎がようやく妻と再会し、そのお腹に宿した子(=鬼太郎)の存在に気づくシーンは一縷の希望を感じさせますが、それさえも時貞は「その稚児は我が物じゃ」と一瞬で踏みにじる。

 怒りのゲゲ郎も狂骨には叶わず、まんまと捕らえられ……そして時貞の高笑いだけが響くあのシーンは、観客のストレスもヘイトも最高潮だったと思います(改めて白鳥さんスゴイ)



 そこへ来ての斧の音、からの水木復活!

 血まみれのボロボロで階段登ってくる姿だけで、もう最高にカッコイイ。

 すぐに時貞成敗!とは行かず、時貞に「会社を2つ3つ」だのなんだの言われて一瞬斧をおろしかけ、ここまできて揺れるか?揺れてしまうのか!?と思わせる演出がまた憎いというか。

(今でこそ「ここまで徹底的に地獄を見た水木がそんな言葉で惑わされるか! ミスリード狙いすぎw」と思えるけど、初見では本気で不安だった)


 そこからの

「あんたつまんねぇなぁ!!」

「覚悟しやがれ!!」

「ツケは払わなきゃなぁ!!」


 の3連コンボ。これで絶頂しない人間いるだろうかいやいない(断言)

 水木に狂骨リモコンを破壊された直後からの時貞の、それまでとうってかわってとてつもなく情けない狼狽ぶり。この落差がまた溜飲下がる……改めて白鳥さんスゴイ(2回目)




 考えてみればその前にも工場のシーンで一度村田銃ブッパによるカタルシスがあり、

『あの』ラストシーンでも凄まじいカタルシスがある。

 合計で3度も強烈に「おぉ!!」と感情を揺さぶられるシーンがあり、

 そのトリガーとなるのは全て水木。

 二時間足らずで3回も観客を地獄から天国へ絶頂させる男。そりゃ人気出ます。

 二時間足らずで6回ぐらい気絶するけどもw




 正直に言うと自分は、中盤ぐらいまでの水木に関しては「背景知るとすごくいいキャラクターだけど、やっぱり何だかんだで人間だからか、無力なシーンが目立つな……」という印象が強かったです。

(これまでの鬼太郎を見ていても、人間、特に水木のようなサラリーマンが事件に巻き込まれるとひたすら酷い目にしか遭わずに終わる印象が強かった)

 それが大きく変わったのがあの村田銃ブッパ。

 村や龍賀一族の鬼畜ぶりを散々見せつけられ、ゲゲ郎さえもどうすることも出来ない……

 という瞬間のアレ!


 さらにその直後、時貞との関係を母・乙米に指摘され、この村以外では生きられない現実に狂乱する沙代。そこへ「そうさせたのはお前たちだろ!」と怒りを露わにした水木は、沙代が狂骨に憑かれたとぶちまける。その結果彼女が何をしたかも……

 ここで初見の観客の多くは、水木がそこまでの事実を既に把握していた点に驚くと思います。自分もそうでした。

 それまでの水木はほぼ観客と同じ目線で動いており、観客と同じように動揺したり驚いたり怒ったり慌てたり気絶したり嘔吐したりで、多くの観客は水木に自然と感情移入している状態。

 それが一旦「お前そこまで知ってたの!?」となり、観客は水木というキャラクターを改めて客観的に見直すことになる。ゲゲ郎と出会い、見えないものが見えるようになり、異界の入り口へ半分足を踏み入れてしまった水木を。

 そして分かるのが


「そこまで知っていてもなお、水木は沙代を東京に連れ出そうとした」


 という事実。

 沙代に対する恋愛感情はなくとも、一人の大人として何としてでも彼女をこの地獄の村から救い出したいという水木の想いが非常に強かったと分かる。


 水木と沙代については、後ほどまた語らせていただくとして……

 この直後に起こるのが、恐らく劇中最大の血みどろラッシュ。

 絶望しきった沙代は自分の母・乙米まで巻き込んだ大量殺戮に至り、そして自身も長田と相討ちに近い形となり死亡。

 あまりにも凄絶な光景と沙代の悲惨すぎる最期に、観客は再び地獄に突き落とされます。

 あらゆる悪行をはたらいてきたキャラたちが次々に惨い死を迎えていきますが、背景を考えると「ざまぁ」などとはとても言えない(特に乙米と長田。この二人は一見分かりやすい悪役ですが、彼女たちもまた龍賀の血と時貞によって狂わされた犠牲者でもある)


 真生版ではこのシーン、やはり血の色がかなり分かりやすくなっている気がしました。



 そこから時貞との対決。から明かされる時弥の犠牲、ゲゲ郎の奥さんや幽霊族たちのあまりの惨状……

 そんな中でもゲゲ郎と共に、命がけで奥さんを救出しようとする水木。

 ここでどんどん全身血みどろになっていきフラフラの水木に滅茶苦茶興奮したんですがあくまで個人的趣味の範疇なのでそれは置いといてw



 観客のヘイトが一気に時貞に集中したところでの水木復活&「あんたつまんねぇなぁ!!」

 狂骨の暴走により、見事なまでの天誅が時貞に下される。

 間違いなくこれは一種の「ざまぁ」であり、劇中最大のカタルシスです。

 ヘイトとストレスを溜めに溜めてからの見事な逆転劇。「ツケは払わなきゃなぁ!」と高笑いしながら倒れる水木がとてつもなくカッコよく爽快なのですが、同時に一気に情けなく無力なクズと成り果てる時貞との対比が素晴らしい。改めて白鳥さんスゴイ(3回目)



 しかし狂骨の暴走は最早止まらない。時貞や村に天誅は下されたものの、このままでは国自体も危機に晒される。

 それを止めるべく、ゲゲ郎自身も全ての怨みを背負い自ら犠牲となる。

 そんなゲゲ郎から奥さん(とお腹の子)を託された水木は、自分がゲゲ郎に着せられたちゃんちゃんこを当然の如く奥さんに着せて、その結果狂骨に襲われ記憶を失うことに……



 水木とゲゲ郎、互いが互いに自分を犠牲にして導かれたあまりの結末に、茫然となったのは忘れられません。

 さらにエンディングのスタッフロールで畳みかけられる、水木とゲゲ郎の哀しき再会。

 変わり果てたゲゲ郎を水木は思い出せず、その目の前から逃げ出してしまう。



 ここで、こんな虚しい形で二人の物語は終わってしまうのか。

 そう思った瞬間、遂に生まれてくる鬼太郎。

 その場に居合わせた水木。そして目玉おやじとなったゲゲ郎。

 そして訪れる、最後のカタルシス。


 ――あのラストシーンは最早、伝説と言っても過言ではないでしょう。




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