Prologue

1881年、アメリカ合衆国ニューハンバーグ州。

海崖かいがいの上で一人、水平線に立っているかのように佇む女がいた。

女は母性を感じつつも逞しい背中で大西洋を臨んでいた。

女の後頭部に向かって拳銃を突きつけた。


「お前らの時代は終わりだ……何か遺す言葉はあるか?」


女はゆっくりと紫煙しえんを吐いた。


「……フーッ……アンタ、アメリカ中に言ってやってよっ!」

「もうあんたに振り回されるのはごめんだ」


俺が断ると女は痰を地面に吐き捨てた。


「……けっ! 釣れないねぇ……これから『始まる』ってのに……」


俺は銃を握り直した。


には慎ましく平穏に生きてほしかった、なぜあんなことをした?」


女はとぼけた声を出しながら紫煙を吐く。


「……アタイとあの子の問題に、アンタが関係あるかい?」


……ああ、この女はどこまでもクズなんだ。

ミシミシと悲鳴が上がるほど握り潰されるグリップ。

胃が針に突き刺されたようにズキズキと痛む。体が慄然わなわなと震える。

頭も痛い。何かが込み上がってくる。


「俺はなぁっ! お、俺は……」


俺が震えた声で喚くと、女は一つに結ばれた髪を縄のように振り回して振り返った。

滲む視界に凛とした真っ直ぐな碧眼へきがんの彼女がいた。

その綽々しゃくしゃくとした様は、今から眉間に銃弾をぶち込まれる顔とは

思えない。

途端、女は目を丸くして「おやっ」と呟いた。


「……その震えた手、アンタの初めての時を思い出すよ」


彼女は手銃を作って自身の顳顬こめかみに向け、不敵に笑った。

しかしその笑みは母親のように温かく、慈愛に満ちているような気もした。


「……随分とイイ男になったじゃないか、しっかり狙いな!」

「うわああああっ!!」


俺は絶叫の中、引き金を引いた。


パァーン!


その訃報はアメリカ中に轟いた。

それは『西部開拓時代ワイルドウェスト』改め、『争奪戦時代アメリカンスクランブル』の始まりの合図だった。

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