第3話 この先は?
なんの心の準備も無く受けた告白に、その後の部活はボロボロ。自分でもビックリするくらい間違えた。ずっと落ち着かなくて、先輩の告白が頭の中でぐるぐる回って集中できない。そもそも告白されるって初めてだから、どうしていいのか分からないよー!
結局、考えすぎて具合が悪くなってきたので、部活を早退することにした。
早めに家に帰ると、キッチンでお料理をしていたお母さんが、私の顔を見たて驚いた。
「亜沙美?なんか顔が赤いけど大丈夫?ちょっと熱があるんじゃない?」
「…え?」
お母さんは私をリビングのソファに座らせると、慌てて体温計を持ってきてくれた。体温を測ると、なんと37.8℃!これが知恵熱??
「あら、やっぱり少し熱があるね。晩御飯までちょっと寝てなさい。」
お母さんに言われるがまま、自分の部屋に上がるとすぐにベッドに横になる。
告白されて知恵熱が出るなんて情けないな。でも、付き合うってなんだろう?
都築先輩は私の憧れだけど、そういう好きなのかな?舞い上がった勢いで…なんてできないよ。
どのくらい経ったのか、考え事をしているうちに寝てしまったようだ。
何時…?
時計を見ようと壁の方に目を向けると、ベッドの横にひなたが座っていた。
「あ、亜沙美!おはよー。…大丈夫?」
「ひなた…?どうしたの?」
本を読んでいたひなたは、持っていた本を閉じると、私に向かってビニール袋を差し出した。
「はい、お見舞い。紅茶、好きだろ?亜沙美、部活を早退したみたいだったから様子を見に来たら、お母さんが熱があるって言うからさ。もう大丈夫?」
そっか。わざわざ買いに行ってくれたんだ。私が上半身だけ体を起こすと、ひなたが紅茶のペットボトルの蓋を開けて私に差し出す。
「ありがとう。具合が悪いわけじゃないよ。なんか、考え事し過ぎて頭が疲れちゃっただけ。」
ちょっと寝たらスッキリしたし、もう熱も無さそう。冷たい紅茶がとても美味しくて、体に染み込んでいく。
「考え事?熱を出すくらい、何を考えてたの?」
ひなたがきょとんとして聞く。
ひなたなら良いかな?誰かに話を聞いてもらって、少し頭を整理したいし。
「あのね、今日…告白されてね。どうしたらいいのか…。」
「えっ?…誰に?」
ひなたは少し驚いて、ちょっと食い気味に聞いてくる。
「3年の都築先輩に、付き合ってほしいって言われて…。」
なんかこういう話をするのも初めてだから緊張するな…。相手はひなたなのに。
なんだか恥ずかしくて、私は紅茶のペットボトルを見つめたまま言った。
「ああ、それで、付き合うの?」
「まだ、考える時間をもらってる。都築先輩には憧れてたし嬉しかったんだけど、付き合うってどういうことか分からなくて。ひなた、分かる?」
そう言って、ひなたの方を見ると、ひなたは手で口元を覆って下を向いていた。表情はよく分からないけど、その瞳が悲しそうにも、怒っているようにも見える。
その姿に、いつものように明るく答えをもらえると思っていた私は、ちょっと不安になる。
「ああ、そうだな。付き合ったら一緒に登下校したり、放課後や休日にデートしたりして、まずはお互いの事をもっと知ろうとするんじゃないかな?」
ひなたが淡々と答える。ひなたなりに真剣に考えてくれてるのかな?
でも、なるほど…。付き合ってからお互いの事を知れば良いんだ。そう思ったら少し心が軽くなった。初めから100%の好きじゃなくても良いってことかな?
友達だって、最初から全部を知らなくてもだんだん仲良くなるし、そんな感じ?
「ありがとう、ひなた。初めてだからちょっと深刻に考えすぎてたかも?ちょっと楽になったよ。」
私がそう言うと、下を向いていたひなたが顔を上げて、ふわっと柔らかく笑う。
「ふはっ、亜沙美は真面目だからなー。…亜沙美、お茶がこぼれないように蓋をしておこうか。」
「えっ?ああ、うん。」
ひなたは私の手からペットボトルを取り上げると、しっかりと蓋を閉めてテーブルの上に置いた。
「これで良し!」
ひなたが笑顔になって、こっちを振り返る。良かった、いつものひなただ。…と思ったのだけど、次の瞬間、ひなたはひらりとベットに上がって来て、私はあっという間にひなたに押し倒されてしまった。
直接当たらない様に、ひなたは肘と膝で自分の身体を支えているけど、ところどころにひなたの体温や筋肉の固さを感じる。ひなたの両肘が私の顔の横にあり、手のひらで優しく私の頭を包み込んでいるこの体制は、お互いの鼻と鼻がくっつきそうなほど顔が近くにある。
「あの…ひなた?」
恐る恐る口を開くと、なぜか余計にひなたを近くに感じてしまう。
「亜沙美…、付き合うとこういう事もするけど、どう?都築先輩とこの先のこと、出来そう?」
囁くようなひなたの声。この先のことって…?
そういえば、ひなたは幼馴染だから考えたこと無かったけど、密室に男女が2人っきりっていうこの状況は?
身長差があるから、私の体はひなたの中にすっぽりと収まっている。
ひなたの匂いや、真っすぐに見つめる目、心臓の音が直接伝わってくるみたい。
そう思ったら、急に自分の顔が赤くなってきたのが分かる。あ、また熱が出るかも?
「ぷはっ。また熱が出てきたかな?ごめんごめん。」
そんな私を見て、真剣な顔をしていたひなたが堪りかねて笑い出す。それからゆっくりと体を私から離すと、私の手を引っ張って起こしてくれた。
「もー!またからかって!ビックリしたよー!」
いつものひなたのイタズラだと分かって安心したけど、内心はまだドキドキしてる。でも、ひなたが伝えたいことは何となく分かった。
男の人の体って、私とは全然違う。力ずくで抑えられていたわけじゃないのに、力強さを感じて、全く抵抗できない。だからこそ、こういう事を自分が自然に受け入れられる相手じゃないとダメってことだね。
「そろそろ、ご飯できるんじゃない?良い匂いがするし。俺も帰るよ。お大事にね。」
そう言って、ひなたはニコニコしながら帰って行った。ありがとう、ひなた。
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