アイリー・コルセリート誘拐される2
アイリーが誘拐されて沈みきっているコルセリート家に一通の封書が届いた。
封書の中身を確かめたメイドの一人が、慌ててオルダンの執務室に駆け込んだ。
封書には国中に出回っている何の変哲もない便箋が入っており、便箋に書かれた内容にオルダンはすぐさまカティアとハルヤを呼び寄せた。
当主からの招集に、カティアとハルヤは日課のトレーニングを切り上げて馳せ参じた。
オルダンは封書を届けたメイドを退出させてから二人に対する
「ミカグレから身代金の要求だ。二人にはまずこの通達を読んでほしい」
簡潔に告げるとハルヤへ便箋を渡した。
ハルヤが便箋を受け取り、カティアと肩を寄せ合って便箋の文章を読む。
便箋には政府役人十年分の給料に相当する額の身代金を要求する旨と、身代金の受け渡し場所がタイプライターで打刻されていた。
二人が便箋を読み終えてからオルダンは再び口を開く。
「身代金に関してはすぐに用意するつもりだ。だが俺はミカグレについて詳しく知らない。ぜひとも二人の意見を聞かせてほしい」
「かしこまりました」
ハルヤがすぐさま承知した。
カティアは何か言いたそうに唇を開きかけたが、ハルヤの邪魔をしては悪いと思ったのか口を噤んだ。
「自分の知るミカグレは誘拐などしません」
まずは一言、ハルヤは言い切った。
オルダンは理解しがたい顔つきになる。
「ふむ。それではこの便箋の送り主は本当のミカグレではないのか?」
当主の疑問にハルヤは難しそうに表情を歪める。
「正直に申しますと、今回アイリー様を誘拐したのはミカグレであってミカグレではない集団の仕業でしょう」
過去にミカグレの所属していたハルヤの陳述をオルダンは静かに耳を傾けている。
ハルヤはなおも苦い顔で続ける。
「話すと長くなりますが、自分が所属していた頃のミカグレは二つの派閥が分裂していました。ミカグレの美学と伝統を重んじる保守派と、従来のやり方を嫌った革新派です。自分とカティアが所属していた保守派は誘拐のような人道に悖る行為はご法度でした。そのため今回の誘拐はミカグレの革新派の仕業でしょう」
「ありがとう。おおよそ状況が把握できた」
説明したハルヤにオルダンが礼を述べる。
会話が途切れた途端、ここまで黙っていたカティアが挙手した。
オルダンに目顔で促されてから覚悟の籠った瞳を向ける。
「準備はできています。アイリー様の救出を許可してください」
抑えていた気持ちに歯止めが利かなくなっていた。
オルダンはカティアを落ち着かせようと掌を床に向けながら、ハルヤに話を振る。
「革新派というのは人質に狼藉を働くかね?」
「身代金を用意したとしても五体満足で返してくれる保証はありません。むしろ何をするか我々にも予測できないです」
「ですからオルダン様。一刻も早くアイリー様の救出に向かう必要があります。お願いします」
ハルヤの言に便乗してカティアが頭を下げて懇願する。
「自分の方からもお願いします」
カティアの熱意が乗り移ったようにハルヤも姿勢を正してからオルダンへ頭を下げた。
オルダンは数舜二人を見つめてから重々しく頷いた。
「いいだろう。二人は今すぐに身代金引き渡しの場所へ向かいなさい。お金は容易でき次第、遣いの者に運んでもらう」
オルダンの許しが下りると、ハルヤとカティアは頭を上げた。
二人の瞳は殺意に似た瞋恚を孕んだ底冷えのする光を放っていた。
「かしこまりました、オルダン様」
「お嬢様の救出はお任せください」
二人はそれぞれ返事をして執務室から飛び出していった。
執務室に一人残ったオルダンが緊張を解くように太い息を吐く。
「アイリーはよくあの二人を従えていたものだ。裏切られていたら命がないぞ」
ハルヤとカティアの瞳から感じた隠しきれない憤怒にオルダンは肩を震わせた。
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