学園パーティーですわ2
アイリーとカナリアがパーティー当日を待つ傍ら、カナリアの父であるセルシオ・コルセリートは娘が寝たのを見計らって自宅の応接間で一人の男と面会した。
お手伝いさえ誰一人として起きていない深夜の応接間に、ソファに挟まれたテーブル上の燭台だけが灯っている。
「本当に上手くいくのかね?」
セルシオは向かいのソファに腰掛ける男へ尋ねた。
男は燭台の灯りを照り返すピンクの髪と白タキシードの奇抜な姿だが、見た目に反してセルシオに真面目な顔を付き合わせている。
「ご心配なく、我々ミカグレにはこのヤップを含め優秀な者しかおりませんので」
ヤップと名乗った男は礼儀を弁えた口調で答えた。
しかし、それでも彼の声にはいささかの自信が滲んでいた。
先ほどの返答だけではセルシオの不安を拭えていないと感じて、今度は意地悪い笑みを浮かべる。
「誰もセルシオさんのことを疑いはしませんよ。アイリー・コルセリートは誘拐されて、正体不明の遺体となって、最後には万民から忘れ去られるんですよ」
「……そこまでして、いいのかね?」
罪悪感に押し潰されそうな声でセルシオは問いかける。
だがヤップは呆れたような顔で見返した。
「おいおい、可愛い娘にコルセリート家の跡継ぎの権利を移譲させたいと熱望したのは誰だ。セルシオさんの願いと我々の利害が一致しただけのことですぜ」
「しかし、殺すには忍びない。あれでも一応……」
「遺体になるのは娘でもいいんですけどね」
ヤップの一言にセルシオは押し黙った。
兄の娘であるアイリー嬢が凄惨な目に遭うのは心が痛むが、カナリアを巻き込むのだけは避けたい。
それに、とセルシオは自分の中に潜む暗部に向き合う。
本家に一切の憎しみがないとは言えない。世間でも分家というだけで偽物の如く扱われ、いつでも名声と尊敬を集めるのは本家だった。
オルダンとは母親が違うだけの兄弟なのに、この歴然たる差は神様の意地悪なのかと思ったこともある。
鬱々とした物思いに沈んでいくセルシオをヤップは愉快さえ感じている哄笑で眺める。
「良心よりも恨みの方が勝つんだろ。俺たちの前でぐらい良い人を演じるのはやめましょうぜ」
「……だが」
「もう動き出した船だ。次の船着き場はアイリー・コルセリートの行方不明か、カナリア・コルセリートの失踪か、どちらかだけだぜ。どちらの方が自分に益するか、賢いセルシオさんなら理解してるはずですがね」
「ええ、まあ」
引き返すことが出来ない策謀に加担してセルシオは罪悪感に吞まれそうになりながらも断固たる態度は取れなかった。
ヤップは依頼主のセルシオを安心させるように自信を覗かせて笑う。
「セルシオさんの役目は簡単なんだ。舞台さえ作ってくれれば、あとは我々が上手くやってみせますから」
「……わかっている」
忸怩たる思いを押し殺しながらセルシオは首肯した。
アイリーやカナリアの知らないところで、彼女たちを巻き込む凶悪犯罪の計画が着々と進められていた。
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