運動しますわ1

 好天に恵まれた行楽日和でのどかな休日だった。

 ハルヤとカティアはランチの時間からしばらく経ったころ、アイリーに部屋まで呼び出された。

 カティアとハルヤが部屋を訪れると、アイリーはベッドに寝転んでいる体勢からおもむろに起き上がり、ベッドの端に腰掛けた。


「アイリーお嬢様。何か御用でしょうか?」


 カティアが尋ねると、アイリーは真面目な顔つきで口を開いた。


「わたくし、ダイエットを始めますわ」


 アイリーの宣言にカティアは優しい笑顔を返す。


「お嬢様はダイエットなど必要ないほどにお美しいですよ。むしろダイエットなどなさっては身体に毒です」


 カティアは本音で言ったのだが、アイリーは従者としての世辞だと思ったらしく、よりいっそう表情を引き締める。


「カティアの言葉は嬉しいけれど、今度ばかりは痩せてみせるわ」


 その口調通りアイリーの瞳には決意が燃えている。

 カティアは言葉ではアイリーを翻意できないと察して、さきほどから口を挟まずにいるハルヤへ目配せする。

 カティアからの視線をハルヤは翻意のバトンタッチだと受け取り、言葉を選んでアイリーに笑い掛ける。


「カティア様の言い分は正しいかと。ご無理をなさるのは良くありません」 


 ハルヤもダイエットへの反対を示したが、アイリーの決意は固く頑として首を横に振った。


「あなた達がわたくしを気遣っているのは知ってるつもりよ。でも今回ばかりは優しさに甘えるつもりはないわ」


 そういうアイリーの声音からは本気が感じられた。

 決意を覆すのは難しいと考えたカティアとハルヤは、確認するように目線を合わせて無言で頷いた。

 従者二人の何気ない合図を傾聴の姿勢だと勘違いしたアイリーは、少し表情を緩めてから話を続ける。


「ダイエットには運動が効くらしいわね。でもわたくし運動は得意ではないの」

ダイエット阻止の検討はひとまず置いて、カティアはアイリーに笑み一つない顔で言葉を返す。

「アイリーお嬢様に失礼を承知で申し上げますが、普段運動をなされないお嬢様が急に運動をされるのは、少々危険かと思われます」


 専属のメイドと執事という立場上、護衛も務め普段から体力作りも厭わないカティアとハルヤからすれば、運動習慣のないアイリーが思い付きで激しい運動をすることに不安を感じないわけがなかった。

 もちろん痩せて欲しくない、という私欲も含まれてはいるのだが。

 アイリーはカティアの指摘も予測していたのか、安心させるように微笑む。


「心配することないわ、カティア。いきなり無理な運動をするつもりはないわ」

「では、すでに運動のメニューなどはお決まりに?」


 カティアの問いかけに残念そうに首を横に振る。


「何も決めてはいないの。だからカティアとハルヤに相談するために呼び出したのよ。二人の助言も含めてわたくしの運動メニューを決めるのよ」


 アイリーの意図にカティアとハルヤは顔を見合わせた。

 自分たちに最低限の意見が持てるならば、お嬢様を痩せないように誘導できるのではないか?

 カティアとハルヤは同意を示すために笑顔で頷いた。


「ぜひとも自分にお嬢様の運動メニューを考えさせてください」

「アイリーお嬢様のお力になれるなら光栄です」


 二人の色好い返答にアイリーも嬉しそうに笑った。


「感謝するわ、二人とも。それでは早速、わたくしのダイエットの運動メニューについて話し合いますわよ」 


 その後、カティアとハルヤはディナーの時間になるまでアイリーの希望を参考にしながら運動メニューを練ったのだった。

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