盗んだものはお嬢様の秘密だった3
明くる日の朝、ハルヤは手足を縛られて土の床に座らされた状態で、地上と同じ高さにある格子窓から差し込む陽光で目が覚めた。
ハルヤが目を覚ますと夜間に監視の番に就いていた警備兵が交代のために懲罰部屋から出ていき、入れ替わりにメイドが一人現れた。
陽光の眩しさで細めるハルヤの視界で、懲罰部屋に入ってきたメイドが彼の方まで近づいてくる。
「おはようございます、盗賊野郎」
億劫そうな声音でメイドがハルヤに挨拶した。
ハルヤは段々と眩しさに慣れた目でメイドを見る。
どうやらハルヤに歩み寄ってきたのは、昨夜にメイドとは思えない俊敏な動きとこなれた柔術でハルヤを取り押さえた活動的なショートカットの髪をしたメイドだった。
メイドは貼り付けたような笑顔で口を開く。
「おはようございます、盗賊野郎」
「……」
「おはようございます、盗賊野郎」
「……返事をしないといけないのか?」
同じ文言の繰り返しにハルヤは煩わしくなって反応を示す。
ハルヤよりも高い位置から見下ろすメイドの瞳に有無を言わせぬ苛立ちを浮かべる。
「捕縛された身で主張が通るとお思いで?」
「……おはよう」
話が進まない空気感にハルヤは仕方なく挨拶を返す。
メイドは貼り付けた笑顔のまま懲罰部屋の鉄格子がついた出入り口を振り返り、再びハルヤへ顔を戻した。
「まず一言。あなたはアイリーお嬢様の温情に感謝なさい」
メイドが口にした名前でハルヤは昨夜の騒動を思い返す。
アイリー嬢のクローゼットに侵入して身を隠し、令嬢の意外な事実を知り、愕然としている間に捕まり、今に至る。
あの騒動のどこに令嬢が俺に対して温情を持つ理由があったのだろうか?
ハルヤの考え込む様子を見てメイドは誇らしそうな笑みを浮かべる。
「あれだけのことをしておいて監獄送りにされていないのは、ひとえにアイリーお嬢様のおかげですよ。ここに一晩泊めておくよう私と警備兵達に命を下したのはアイリーお嬢様ですから」
「なぜだ。なぜ俺を泊めた?」
「ご自身で考えてみては?」
訳がわからず尋ねたハルヤに、メイドは試すように聞き返した。
答えてくれなさそうなメイドには頼らず、ハルヤは令嬢が自分を留め置いた理由を推察してみる。
普通ならば邸宅への侵入者は捕縛して監獄へでも送りそうなものだ。もしくは無慈悲にもその場で殺されていたかもしれない。
本当に何故だろうか?
「はい、そこまで。時間切れ」
脳みそを絞っていたハルヤだったが、メイドは返答を打ち切った。
「大変なことをしでかした自覚がないようなので、私の方から答えを言わせていただきます」
「教えてくれるのか?」
「とても大事なことですので。あなた、アイリーお嬢様がプロポーションを誤魔化してることを知ってしまったでしょう?」
メイドの答え合わせは図星であった。
しかしハルヤは正直に頷いていいか判断がつかず、沈黙を返す。
ハルヤの無言にメイドは勝ち誇ったように口角を上げる。
「あなたが認めようが認めまいが、アイリーお嬢様が見られたと意識しているのなら、あなたに選択肢はありません」
「それは横暴だな」
「横暴でけっこう、所詮は盗賊野郎が相手ですから」
嫌味な言い方をされるが、その通りなのでハルヤは返す言葉がなかった。
その時、懲罰部屋へ降りて来るコツコツという硬い靴音が不意に聞こえ、ハルヤの意識は出入り口の格子の外へ向いた。
メイドも格子の外へ振り向き、降りて来る人物がわかったらしく厳格な顔つきになり、格子へ歩み寄る。
どこからか取り出した鍵で格子を開け、靴音が懲罰部屋と同じ高さで鳴り止むと同時にメイドらしく背筋を伸ばした。
格子の外に現れた人物にハルヤは途端に緊張を高める。
懲罰部屋の外に立ったのは、室内着のような落ち着いた色合いのジャンパースカートのドレスに身を包んだアイリー・コルセリートもといアイリー令嬢だった。
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