第8話
「お前は違うのか?」
疑問に思った俺がそう聞くと、少女はきょとんとした顔を向けてきた。
「私、昨夜助けていただいたのですが…覚えていませんか?」
は?
いやいや、ちょっと待てよ。
俺は確かに鳥は助けたけど、こんな少女は助けた覚えないぞ。
………。
魔法なんてものがあるとんでも世界だから信じるしかないが…。
まじかよ。
「どっちが本当の姿なんだ?」
とりあえず受け入れて疑問をぶつける。
「えっと、私はフェアリーエルフです。なので今の姿が本当の姿です。精霊の力を借りて、昨日は鳥になっていたんです!」
どうしてまた…。
「昼は妖精達も活発なのですけど、日没からは皆さんおやすみになって力を借りることが出来ないのです。だから、いつも日が暮れる前にほかの姿に擬態して夜を過ごしています。だけど…昨日は木の上で夜を過ごしていたら私の嫌いな蛇が現れてビックリして下に落っこちちゃって…」
なるほどね。
それでウルフ達に狙われて追いかけられてたわけか。
「事情は分かった。」
俺が頷くと少女は嬉しそうに手を組んで一緒に頷く。
「そういえば、傷は大丈夫か?昨夜は動けないくらい痛んでたようだが。」
「精霊たちの力を借りて少しずつですが今は回復しています。完治するまでは時間がかかりますが…」
そういう使い方もできるのか。
「どれくらいで治るんだ?」
「あと3日くらい…ですかね」
…。
ちょっと時間かかりすぎじゃないのそれ。
あと数日これからどうすんのよ。
「分かった」
よっこらせと俺は立ち上がってからステータスウィンドウを呼び出す。
【スキル習得】
ーヒールを習得しましたー
さすがに怪我した少女をそのまま置いてく訳にはいかないだろ。
まぁ、いい機会だしちょうど良かったわ。
少女の怪我をしている足に意識を集中する。
「我が命により神の加護をこの者に。ーヒール。」
こんなセリフ必要かどうか知らんけど。
ちょっとカッコつけたいじゃん。
映画とかで言いそうなセリフを添えてヒールを使用する。
少女の周りを暖かい光が包み込み、キラキラと光り出す。
「すごい…。」
少女は驚いているがただのヒールだからなこれ。
俺もこんな派手に光るとは思わなかったけども。
まあこれで大丈夫だろう。
「飯、ごっそさん。手当てもありがとうな。もう襲われないように気を付けるんだぞ。」
俺は頼りになる年上のお兄さんを演じながらその場を去ろうと踵を返す。
ここでのんびりしてる訳にもいかんしな。
日が暮れる前に森は抜けておきたいし。
ー数歩足を進めたところでストップがかかる。
「ま、待ってください!」
振り返ると少女が俯きもじもじしながら続ける。
「私も…私も一緒に連れていってください!」
今度は俺がきょとんとする番だった。
何をいきなり言い出すんだ、と。
「旅の邪魔にならないようにしますから!お願いします…!……ダメでしょうか。」
旅って。
魔王退治の旅だぞ。
分かってるのかね君は。
「……。」
まあ、いたいけな少女をこんなところに放置していくのも気が引ける。
街まで着いて別れたとして今は重荷になることもないだろう。
「分かった。危ないマネはするなよ。守れるのも限度があるからな。」
「はいっ!!」
少女は俯いてた顔を上げて満面の笑みで駆けてくる。
ソロの時ほど気楽に、とはいかないが話し相手くらいにはなるだろう。
小さなパーティメンバーの嬉しそうにニコニコしている顔を横目で見ながら、俺たちはその場を後にした。
魔王退治の旅は、まだ始まったばかりだ。
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