第7話

チュンチュン…チチチ

「ん…。」


暖かい木漏れ日に包まれながら目を覚ます。

鳥たちの歌声をしばらくの間聞いてから、一気に昨夜の出来事が脳内に流れ込んできた。


バッ!

体を起こして辺りを見渡すが、俺が助けた鳥の姿が見当たらない。


「…っ」


ウルフの攻撃によって負わされた傷が痛む。

あのあと…どうなったっけ。

考えながら自分の腹に目をやると、何者かによって傷口には手当てが施されていた。

「………。」

布が巻き付けられ雑な手当てであったが、血が固まったような気持ち悪さはなくきちんと洗い流してから止血されたことがわかる。

ステータスを確認するとひとしきりMPは回復していた。

ここはひとまず治癒魔法でも使いたいところだが残念ながら俺はまだ習得していない。


「腹…減ったな。」

昨夜は野営の準備に取り掛かっていた最中だったこともあり、まだ何も口にしていなかった。

皮肉な事に、今となっては病院食のような独房での食事が恋しくなる。

動く気力もなく、もう一度大地に背中を預けて横になる俺。

昨夜のことは夢だったのではなかろうか、と傷の事も忘れて現実逃避を始めたころ。



「…あ!お兄さん…目が覚めたんですね!」

仰向けになったまま上を見上げると、逆さまになった視界の向こうにこちらに駆けてくる一人の少女が映っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



少女は慣れない手つきで、今しがた摘んできたであろう野草や木の実を大きな葉っぱの上に並べてこちらに差し出す。

そして、「あ」と何かを思い出したようにすぐにその手を引っ込めてしまった。


「そっか、そのままじゃだめか…」


…?

なにやら考えたあとにトテテテっと小走りで木の枝を拾い始める少女。

またトテテテっと戻ってきてそれらを一箇所に集める。


「あの、火って起こせますか…?」

申し訳なさそうに上目遣いでこちらに視線を投げかける。

「あ、ああ。簡単なものなら。」

よくわからないが恐らく火をつけてほしいんだろうと思い木の枝に向かってフレアを放ち火を起こす。


少女は満足そうに頷いたあと、またどこかに行ってしまった。



「……ふぅ。」

何が何だかわからない俺はその場に腰を下ろし、何を考えるでもなくゆらゆらと揺れる炎を眺める。

そして先程MPを確認した時にMP上限が上がっていたことを思い出し、ステータスウィンドウを呼び出す。


……よし。

習得可能スキルが増えてるな。


【習得可能スキル】

ヒール

ライトニング


昨夜の出来事を思い返すと、もっと火力のあるスキルを覚えときたいところ。

しかし、治癒魔法も捨て難い。

今俺が習得している3つの【水系】【炎系】【風系】だが、イメージさえすればMP消費は増加するものの派生スキルとして、火力をあげることはできる。


どうしたものか、そう考えているとパタパタと先程の少女が戻ってきた。


そして手にしてきた平らな石を火の上に乗せて、そこに丸い虫を乗せた。


「それは?」

「これはアブラムシです!体の中に油を蓄えていて熱を感じるとその油を外に出してくれるんです♪」


ふーん。

この世界は知らない事ばかりだな。

少女は油を頂戴した虫に木の実を与えると、アブラムシは喜んでいるような素振りを見せてからどこかへ飛んで行った。


「お兄さんは人間だから、生で食べるのは美味しくないかなって…」

「え?」

俺は…ってどういうことだ?





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