第5話

晴れて囚人の身から解放された俺は、まだ月明かりが綺麗な森の中にいた。

「…この辺りでいいか。」


さすがに夜も更けてるこの時間帯に森の中をうろちょろするのは危険すぎるからな。

とりあえず野営することにした。

戦闘が得意な連中ならまだしも俺はソロで、それに戦闘力が高いわけでもない。

ここは安全にいきたいところ。


頼りになりそうな例の幼女とはもう別れてしまった。

魔王退治に付き合ってくれないのか聞いてみればよかったな。


「フレア。」

さきほど拾い集めた木の枝にちょっとした炎魔法を加えて簡易的な焚き火の出来上がりである。

ちょうどいい高さの切り株に腰を下ろす。

俺も男児だからな。いくつになってもこういう雰囲気には心をくすぐられる。

あとはダンディにコーヒーでも啜りたいところだが、流石に今はない。


魔王退治・・・ね。

まずはどうするかよりも現状の確認からか。

俺は目の前に少し意識を集中し、ステータスウィンドウを表示させる。

ブン・・・とそれは現れた。


ーステータスー

【体力:25】

【筋力:49】

【魔力:35】

【運:2】

【固有スキル:ギルティラック、ビギナーズラック】

【習得スキル:ウォーター、フレア、ウィンド】


なんとまぁ、弱いね。誰が見てもね。

これで魔王退治なんか夢のまた夢なんだよなぁ。

有名タレントと仲良くなってあわよくばお楽しみするのと同じくらい無謀である。

それにしても・・・運が2しかないって絶望的じゃないか?

俺の唯一の武器だろそれは。

どうしたものか、と己の不甲斐ないステータスと向かい合っていると背後のほうから気配がした。


「……。」

嫌な予感がする。

決まってこういうときの悪い勘って当たるんだよな。


ガサガサッ!

それらは一気に姿を現した。

が、思っていたのとは違って狙いは俺ではなかったらしい。


「キュゥ・・・キュキュッ・・・」


なんともまぁ可愛らしい丸っこくて白い鳥が怪我をしたであろう足を引きずりながら、追跡者たちから逃げている様子。

このままだと間違いなく今夜のメインディッシュになってしまうだろうな。

今のところ俺には何もメリットはないが、助ける方針で意思を固める。

ほら、やっぱこういうのってさ。見逃すと後味悪いしさ。

それに助ければ何かいいことあるかもって思っちゃうのもあるしさ。


「ちっ・・・ウルフにナハナハか」

その白い鳥を狙っているのは、狼っぽい見た目のモンスターとツタを伸ばして移動するハイビスカスっぽい見た目の花を生やした肉食植物の二体。

今の俺には同時に相手にするには少し手に余る。

少し工夫して戦う必要がありそうだ。


そうこう考えてるうちに弱肉強食の一部始終が始まりそうなところまできていた。

「くそ。おい!!こっちだクソ野郎!!」

俺は勢いよく焚き火を蹴り上げ、一瞬だが火花を散らす。

火が苦手なウルフもナハナハも驚いてこちらに意識を移してきた。

よし。

丸っこい白い鳥はもう歩くこともできないらしく、ぷるぷる震えながら自分の体に顔を埋めて震えていた。

このままでは逃がすことができない。

となると…二体を倒す他に助ける方法はない。


完全に敵意をこちらに向けるために叫びながら二体に向かって走り出す。

ウルフのほうが動きが早い。

そっちから倒すほうが利口か。


ダンッ!!

俺は子供の頃体育の授業でやった走り幅跳びをイメージしながら勢いよく飛び上がる。とりあえずこのままコイツの顔面に気持ちいい一撃、ドロップキックをかましてやる所存である。


「喰らえやぁああああああ!!」


このまま行けばクリティカルヒット待ったなしの状況だったが、そう上手くはいかないのが人生である。


「うぉっ?!」

くそ!うかつだった!そういう使い方もできるのかよ!

ナハナハのツタが宙に浮いた俺の足を絡め取り、上に引っ張り上げられてしまった。

これでは俺がメインディッシュになり、かの鳥がデザートになってしまう。

「グァオッ!!」

間髪入れずにウルフが逆さ吊りになった無防備の俺に食らいつこうと飛びついてくる。

「フレアッッ!!」

ナハナハのツタを燃やし切るためにフレアを放つ。

だが、火が弱点とは言えそう簡単にすぐには切れるものではなかった。


グジュゥ!


「ぐぁああああああああッ!」


逆さになった俺の横っ腹にウルフの鋭い牙が突き刺さる。

そして俺の腹を噛みちぎろうとグリグリと顎を捻り出す。

「こんっの…野郎!!」

俺の炎スキル【フレア】は炎系スキルの中でも最下位の魔法で、ファイアボールなどの攻撃スキルとは違い大きなダメージを与えることはできない。

イメージをすれば派生スキルとして使用することはできるが俺にはMPが足りないため無理だ。

だが、フレアでもこの距離なら燃やすことはできる。

「フレアアアアアアアアッッッ!」

俺の腹に噛みついたウルフの顔面にフレアをお見舞いする。

顔が燃えて驚いたウルフは腹から牙を離し、キャンキャンとのたうち回る。

「ウィンドカッタァアア!」

風魔法ウィンドの派生系スキル【ウィンドカッター】をイメージし、足を絡めてるツタを切り離す。


「ぐっ」


ドサリとその場に叩き落された俺の体から少し血が吹き出す。

まずい。非常にまずい。

これでは獲物が増えただけになってしまう。

一か八か。

俺は例のスキル、ギルティラックをナハナハに対して使用する。

【使用対象:ナハナハ】

成功報酬:強制マリオネット

失敗報酬:使用者の死亡、または記憶の喪失

成功確率:75%


こいつは…流石に大丈夫だろッ

てか75%引けねぇんだったら俺はもうどのみち死ぬしかねぇんだ!!


俺は自分の命、そしてどうしても助けてあげたい鳥のために運命の一撃を委ねてスキルを発動した。

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