第4話
急に何を言い出すんだよこの幼女は。
俺がすでに死んでるってどういう意味だ?
「待て待て、言ってる意味がよく分からないんだが」
幼女は続ける
「うーん。記憶は残ってるはずなんだけどな。」
記憶は残ってる?はず?
本当にわからないんだが。
目の前の幼女は仕方ないなぁという素振りを見せてから語り出す。
「君、利き手は左手じゃなかったの?」
確かに違和感はあった。
けど、良く思い出せない。
「パチンコはハンドルが右についてるから左手が利き手の俺は勝ち組だとか言ってなかった?」
共感はできるが言った覚えがない俺は戸惑っていた。
「君はね、さっきスキルを使用して運に任せてこの場所から脱出しようとしたんだよ。40%の確率でね。」
…。
全く記憶にない。
「だけど失敗した。そして更に50%の確率で死亡フラグを引いた。」
そういうこと、という風にざっくばらんに説明をして頂いたところでひとつ疑問がよぎる。
「ちょっと待ってくれ。ちゃんと説明してくれ。そこまでは分かった。だけど、その話が本当なら俺はなんで生きてるんだよ。」
いい歳したおっさんが幼女に頼み事するのは滑稽に映るかもしれないが、本当にこればっかりは致し方ない。ここは素直に教えてもらうべきだろう。
「仮に今死んでたとして。半々なんだろ、確率は。死亡する確率を引いたとしたんなら、記憶が曖昧なのはおかしいだろ」
そう、おかしな話だ。
俺のスキル、【ギルティラック】の効果は対象に対して確率を提示して運試しをする。成功すればいいが、失敗する確率を引いた場合は最悪なことに更に半々の確率で死亡するか記憶を失うことになっている。
だから、死亡する確率を引いたとしたなら記憶が抜けているのはどうにも納得できない。
「本当に覚えてないんだねぇ。じゃあ教えてあげるけど。君…いや、過去の君がそうしたんだよ。」
「過去の、俺…?」
まぁ魔法なんかがある世界だ。
不可能ではないだろう。
だが、俺にそんなとんでも能力は持ち合わせていない。
「君は…過去の君はスキルを使用して失敗する確率を引いて更に死亡する確率を引いてしまった。だけど、そこで運良く君の固有スキル【ビギナーズラック】が発動した」
「あ…。」
そうだ、忘れていた。
生粋のギャンブラーってのはプライドが高い。
運も実力のうちって言葉があるように、運任せだったとしてもそれを認めたくない気持ちがある。
自分の実力だと。
もちろん俺もそうだ。だから完全に忘れていた。
ビギナーズラックなんてもんは最初のうちは良いかもしれないが、慣れてくると嫌味にしか聞こえなくなるもんだからな。
【ビギナーズラック】…
俺の固有スキル。
初めてギルティラックを使用する対象だった場合に限り、追加で再抽選が行われる。
俗に言う泣きの1回ってやつだ。
ギルティラックの結果が成功だった場合ならもっと良い報酬が、失敗した場合なら最悪の事態が緩和される事になる。
「君は本来死ぬはずだった。だけど、固有スキルが発動したおかげで死亡するはずだった結果が緩和されて死亡フラグに差し替えられた。そして、死亡するまでの猶予が出来た過去の君は死亡フラグに対して更にギルティラックを使用した。死亡フラグを書き換える成功率はたったの5%だったけど、最悪記憶を失う結果に書き換えられればいいと思ったんだろうね。それなら実質君にとっては55%は成功みたいなものだしね。」
何となく話が見えてきた。
「見事、君は回避する5%は引けなかったけど50%である記憶を失うフラグを引いて死亡フラグを上書きしたってわけ。そしてそこから更にもう一度固有スキル【ビギナーズラック】が運良く発動して、失われる記憶が緩和された。だから部分的にしか記憶が抜けてないんだねぇ〜」
ちょっと待てって。
いくらなんでも過去の俺すごすぎだろ。
いや、そりゃ他に方法はなかったかもしれんが。
どんな確率だよって。
「ちなみにビギナーズラックの発動確率はどうなってる」
幼女はおどけながら答える。
「2%。過去の自分に感謝だね〜( ᐛ)パァ」
…。
てことは2回連続で引く確率は0.04%じゃねぇか。
オスイチ確変2日連続で引く様なもんじゃねぇかよ。
※オスイチ確変とは、お座り1発で確変を引くことの略語である。主にパチンコで座った台で一回転目で確率変動大当たりを引いた場合に使われる。
…しばらく運頼みはもういいかな。
普通に怖いし。だって本当ならもう死んでんでしょ俺。それなら普通に魔王退治の旅に出た方がよっぽどマシだわ。
「よく分かった。教えてくれてありがとな。ずっと頭の中で幼女とか罵って悪かった。」
「ん?何か言った?」
「いや、何も。」
さすがに恩人に失礼こくのはサムライ魂が許さない。
レインボーが外れるのと同じくらい許せない。
※パチンコにおいて、虹色演出は大当たり濃厚であると相場が決まっている。
「まあなんだ…一応助けてもらった恩もあるし、元々そういう契約だったからな。やるよ。魔王退治。それによく見たらウリンちゃんみたいに可愛いし水着とか似合うんじゃね?そんな子の頼みを蔑ろにするのは男が廃るしな。」
「はにゃ?!いきなり何を言い出すんだねチミは!ハレンチが過ぎるぞ!あとウリンちゃんって誰だ!」
さっきまでの余裕な態度が一変してあたふたし始める幼女。かわいい。かわいいぞ。
犯罪者になりそうになる欲を理性で抑える。
てか、まだ死にたくないし俺。見た目は幼女とはいえ神様っぽいし。ギルティされたくないし。
「それじゃ…」
今まで座り込んでた重い腰をあげる。
「うむ。」
これでこの場所ともおさらばだ。
―魔王退治。いっちょやったりますか。
独房の窓から射し込む月明かりが俺を祝福してくれているような気がしながらその場を後にした。
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