第12話 いっこ救出作戦2

 最終日の作業終了したよしくんが、道具などの忘れ物チェックを終えて変電所の隅で待機しています。

神池電鉄の社員さんが、押部谷変電所の制御を電力指令所に返します。

 「直接から遠方に切り替え、ヨシ!」

NTTの時報の声、

 「…午前4時ちょうどをお伝えします。プッ、プッ、プッ、ポー」

遮断器の大きな音、

バーンッ!

き電が開始しました。

まもなく、始発電車が押部谷変電所の前を通過します。

 「ご苦労さまでした」

と、神池電鉄の社員さんが言います。

 「ありがとう、ございました」

と、よしくんも笑顔で挨拶します。

何の事故もなく、問題無く全ての作業が終わりました。

こうして、当たり前のように電車は時刻通りに走り、旅客を安全に運びます。

よしくんは、変電所の門扉を出たらレンタカーを返却し、旅館に戻ります。


よしくんは、レンタカー事務所からタクシーで旅館に戻る道すがら、あらゆるいっこが走馬灯のように脳裏に浮かぶのでした。

初めていっこと出逢った夜間薬局や、

ドリンク剤を差し出すいっこ、

いっこの尻尾にびっくりし、

尻尾をいっこに見せるよしくん、

カラオケで楽しそうに歌ういっこや、

窓の外からお月見パーティーを覗く狸、

月見団子を持ってきてくれたいっこ…


いっことは、別れられない。

よしくんは、いっこを連れて東京に帰る決意をして、今からいっこを迎えに行きます。


関西の狸であるいっこが、長年住み慣れた、この緑が丘を離れて関東で暮らすことが出来るのか心配もあります。

それに、よしくんもそうですが、人間に化けての生活より、

いっこが人間になれたら、

よしくんも人間になれたら、

と、所詮、叶わない夢でしょう。

何度も夢見た事です。

人間になること…


贅沢を言ったらきりがないと、よしくんは、思いました。

いっこと一緒になれるのだから、どんなに幸せなことか、分かりません。

よしくんは、タクシーの中から、見慣れた雌岡山、続いて雄岡山を見ながら旅館へ向かいました。

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