第7話 いっこの正体

 今夜も作業前にサン薬局です。

よしくんは、いっこが人間なのか、狸なのか、ということばかりが気になっていました。

…いっこが人間では無くて、同じ狸ならいいのに…

よしくんは、二人は、このまま、人間に化けて人間社会で生活し、結婚して暮らすことが出来る、という期待を持っていました。

ピロピロ、ローン

 「いらっしゃいませ」

いっこが、笑顔でよしくんを迎えてくれます。

 「こんばんは」

よしくんが、昨晩と同じように、

 「栄養ドリンクください。 ここで、飲ませてください」

と、言うと、

 「はい、これどうぞ。 安全でありますように」

いっこが、そう言ってカウンターの上にドリンク剤を出してくれます。 

よしくんは、カウンターの中を覗き込みました。


やっぱり、いっこの白衣の下から尻尾が出ているではありませんか!


狸の尻尾です。

間違い有りません。

どういう訳か、いっこは、よしくんを見つめて、にこにこしています。

すかさず、よしくんは、

 「失礼します」

と、言うと、後ろを向いてズボンをずらし、パンツから尻尾を、いっこに出して見せます。

 「ほら、尻尾だよ」

いっこは、別に驚きもしません。

そして、よしくんに、ゆっくりとした口調で言います。

 「いっこは、よしくんを初めて見たときから狸ではないかと、思っていたの」

よしくんは、喜びました。

続けて、いっこが、カウンターの上に置いた自分の指を見つめて話します。

 「お父さんは、人間なんだけど子狸のいっこを雌岡山の麓で拾って育ててくれたの」

よしくんは、黙って、いっこの話しを聞きます。

 「いっこが成長すると、女子大学の薬学部に通わせてくれて薬剤師にしてくれたの」

よしくんは、お父さんの監視が厳しくても、いっこを拾って育ててくれたお父さんに感謝するべきだと思いました。

さらに、いっこは、続けます。

 「いっこのサン薬局のあるサンロード商店街は、兵庫県三木市にある緑が丘ネオポリスで、緑が丘地区・青山地区に開発されたの」

よしくんは、自分の故郷の多摩丘陵を思い出していました。

いっこは、悲しそうな顔で続けます。

 「開発ですみかを追われた、私達狸や狐は、この緑が丘ネオポリスで人間に化けて、人間社会で生活しているの」

よしくんは、嬉しかったので、思わず大きな声を出してしまいました。

 「ありがとう、 いっこ。 教えてくれて。 いっこは、関西の狸なんだね!」

いっこも大きな声で言います。

 「よしくんは、関東の狸ね!」

すると、カウンターの奥でごそごそと音がしました。

いっこは、声を潜めて言います。

 「お父さんが、お水飲みに起きて来たみたい」

昨日と同じです。

よしくんは、代金を支払うと、

 「どうも、また、明日の夜、来ます」

と、言いました。

いっこも、

 「毎度、ありがとうございます。気を付けて、行ってらっしゃい」

と、言ってくれました。

ピロピロ、ローン

よしくんは、スキップで、店を出ました。

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