第7話 ルクブティムの三妃
言葉遣いを直せと言われて真桜と一緒に過ごすようになってから他の妃について色々聞いたが私とは違って妃は勉強するでもなく花よ蝶よと愛でられて美しくあることをなによりとしているらしい。
「朱里姫は文字を読めるんですか!?」
あまりにもすることがなくて読み書きの続きをしようとしてみれば驚かれるので少し自慢げに文字を黒い石にサラサラっと書いて見せれば楽しそうにしてくれるので調子に乗ってそのまま色んな文字を見せながらどう読むか説明もしていく。
「私はあんまり詳しくないんだけど、昔の巫女は読み書きできなかったの?」
「いえ?そういう話しは聞きませんでしたが…あ、他の姫巫女様と文通をしていたとは聞いたことがあります!」
やがてそう言うこともしなければならないのかと思うと億劫になるが、喋るよりも文字の方が気楽だから交流というのを文通のみにしてもらえたらなんて考える。ばあさんが許すとは思えないが。
文字で遊ぶのも飽きてきたところで真桜と会話をしようと思うが、話題なんて持ち合わせてはいないので必然と真桜の話しを聞くくらいしか思いつかない。
「真桜はさ、前は誰の侍女だったんだ?」
「あ…えっと。灯花様…灯花妃の侍女として仕えていました」
「とうふぁ?」
「あれですよ?その呼び捨てにはされないようにしてくださいね?」
真桜がわざわざ言い直したってことは灯花妃と呼べばいいのか?噛みそうな名前な上に気の抜けるような感じでなんとも言えない気分になる。本人を前にしてちゃんと呼べるだろうか?
「灯花妃は短気なの?真桜が私の言い付けで掃除できなかったにしてもばあさんを助けるためだったとかばあさんが助け船出してくれたりしたんじゃねえの?」
「私からはなんとも言えませんが…私が気に入られた理由でもあるんですが、誰の物でもない人を好んで傍付きにするお方だと周りの方が仰ってました」
つまり独占欲が強いとかそんなんだろうか?後宮ってただでさえ皇帝が選り好みして動いてるんだろうと思ったが。
それとも皇帝に対しては独占したいと思える相手ではないとか?
「なんとも面倒そうな奴だっていうのは分かったぜ」
「朱里姫は凄いですね…そんなはっきりと仰るなんて」
「むしろ真桜はそう思わねえの?別に私に対してもさ侍女だのどうのと気にしなくていいんだよ。好きな時に好きなことを思って正直に話してダチになれるかどうかなんてその後さ」
「……格好いいです。私も思ったことは言えるように頑張りますね!」
まぁ、私の場合は立場を利用してるようなものだし。一度は死んだようなものだから言えることでもあるが、私の侍女って言うんなら巫女の侍女という立場で頑張ってほしいもんだ。
「それでは早速なんですが…言葉遣いについてなんですが…?」
「あれだろ?真桜みたいに話せばいいんだろ?参考が目の前にいるなら余裕だって」
「いえいえ…!私みたいに話されては妃の方々から下に見られてしまいますよ!?」
別にそれでも構わないんだが。ただ働けとか言われるのは嫌だから真桜の話しを真面目に聞いてみることにする。
「現在後宮におられる妃の方々は次代の后妃に選ばれるために皇帝の気を引くのにかなり力をいれてらっしゃるんです」
后妃はたしか正妻だったか?権力が欲しいと言う意味合いだと生々しいが、後宮にいるくらいだから側室でいることを甘んじて受けているもんだと思ったが、手に入れれるものは手に入れたくなる気持ちは分からないことはない。
「だからってなんで私が下に見られたらいけないんだ?」
「朱里姫も后妃候補に入っておられるからですよ?」
「ん?なんで?巫女になったとは思ったが妃になったつもりはないんだけど」
「たしかに妃とは違うんですが…姫巫女様は相手をある程度選べる権利をお持ちなので妃に加わることは可能なんです」
というとあれか?私が権力欲しさに皇帝に色目を使う可能性を他の妃が考えてるってことか。
それにしたってあまりにも突飛な発想すぎるだろ。私が巫女になって間もないっていうのに。
「じゃあ私が皇帝に全く興味ないことを伝えることができれば恨みを買うことはないってことでいいのか?」
「それは…そうですね?争いからはそれで離れれると思いますが、でもでも朱里姫が婚姻相手をもう見つけたと言わないといけませんよ!?」
「真桜とはだめなん?」
「冗談はよしてください!」
さすがに同性だと根本的な解決にはならないか。
表向き真桜と仲良くしていても裏でどうたらと噂されればそれこそ毒でも盛られるかもしれん。
仮面夫婦みたいなものにでもなれればいいんだが、それはそれで男性が重婚しないと満足する結果にはならんだろうし。
「ルクブティムって婚姻関係ってどんな風になってんの?」
「というと?」
「重婚って一般人でも可能なの?」
「一般人では無理でしょうね。武官や文官の方でもよほどの地位な方ならいらっしゃいますが…もしくは炎刃将の方なら許されていますね」
どこかで聞いたことあるような気がするけどあまり記憶に残ってないな。
「炎刃将ってのは?」
「ルクブティムの巫女を守る精鋭のことです。東紅老師から聞きませんでした?それぞれ皇都では巫女様を守るべく私兵として、また皇帝にではなく姫巫女様にのみ忠誠を誓う唯一無二の将兵です!」
将というからにはそれなりに強いんだろうけど、私にそんな忠誠を誓う存在なんていたのかと思うと後宮なんかに留まってないで下町まで散歩するくらいの権利ももらえそうな気がする。
「私の炎刃将はどこにいるんだ?」
「いませんよ?まだお決めになってないじゃないですか?」
「あ、それも私が決めるの?それなら一番強い奴誘ったらなるかな?」
「それは難しいかもしれません…あくまで朱里姫に忠誠を誓う者を選ばないといけないので皇帝直属の将達は頷かないでしょうし、適当に選べば他国の間者が混ざり暗殺されてしまいます」
具体的に話すものだから詳しいことに驚いたが、それよりもさっきから私殺される心配しかされてないな。
巫女ってもっと大切に扱われるものなんじゃないのか?
「妃には説得するために婚姻相手が必要で、炎刃将とやらも私に忠誠を誓うような奴が必要って…私のやること多くないか?」
「先代の巫女様に仕えていた炎刃将に声をかけると言うのがいいかもしれませんが…あまり好意的ではないと思われます…」
「ほえー?なんで?」
「東紅老師が朱里姫を正式な姫巫女であると認めているのと同時に次代の巫女を選別するように取り計らっているからですね。私も何故かは分かりませんが次代の巫女が選ばれるのであれば朱里姫よりも次代の巫女へ武勲を示して炎刃将になりたがっている者が多いと聞きます」
真桜は何故か分からないと言ってるが、私には身に覚えしかない。
ちゃんと私の要望通りばあさんは頑張ってくれているんだと思うとばあさんと婚姻結べばよくないかとも思うが、そしたら別の意味で怒られそうだ。
怠いにもほどがある。
ばあさんが上手くやってくれているのに、自分のことくらいは自分でしなきゃいけないのは分かるが。真桜の話しだと私の巫女としての価値がほとんどない。どうせ巫女じゃなくなる可能性があるなら忠誠を誓おうと思う奴なんて早々いないだろう。
先に婚姻問題を片づける方がいいだろうが、そしたら名前も顔も知らない不安だらけの男に媚びを売らなきゃいけないことになる。
「ところで真桜ってそういう話しどこで知ったの?」
「お友達から聞きましたよ?小間働きが多いと色んな下女の方々と関わりましたし、侍女として傍付きにしてもらったときも灯花妃の侍女頭や侍女の方もとても優しくしてくださったので!」
それはむしろ友達から離れさせて申し訳ないことをしてしまったか?ばあさんの話しだと給金が高いとか言ってたから真桜の金銭事情では案外余計なことをしたかもしれないな。
今更辞めさせるつもりは全くないが。
「うぅむ。あれだな。真桜に選んでもらった方が良い気がしてきた」
「…へっ?」
「炎刃将に関して私に忠誠を誓ってくれて強そうな奴とかだよ。私より詳しいだろ?」
「いいえいえいえ!話しに聞く程度であって武官の方や文官の方と直接関わったことはないですから!?」
「そうなん?ばあさんが後宮にわりと男衆連れ回っていたりするから知り合いになる機会とかあるのかと思ったよ」
それだとしたら大人しくばあさんに頼むか。仕事増やすようで悪いが一時的になんとかすれば炎刃将なら重婚ありなんだからそいつもなんとかするだろう。
そんなすぐに決めれる内容では無いし、大人しく妃の顔色を伺ってから皇帝に興味ないことや権力にも興味ないことを示さないといけない。
「そうだ!真桜が私の言葉遣いの教育係になってるなら、真桜が許可してくれれば後宮内であれば歩き回ってもいいのか?」
「そ、そしたら私が東紅老師に叱られてしまいます!?」
「ばあさんはなんだかんだ言って甘いから大丈夫だと思うがなぁ?」
「少なくとも皇帝の寵愛を最も授かってる三妃のお名前を覚えていただかないと…!」
最初に教えてもらった妃の名前も忘れてしまいそうになってしまったが、確かに灯花妃は早めに真桜の件を謝っておかないといけないか。
「三人でいいの?」
「そうですね…現在三妃の派閥に分かれていると思われます。友達の話しではそもそも后妃となる予定だった先代の巫女様がお亡くなりになってから分解した者もいるとは思いますが…」
予定だったってことはなにかあったんだろうか?まぁ亡くなったのなら仕方ないとは思うが。后妃にいざなるって相手がいなくなってから妃達が争い合っていたら皇帝は嫌な気分にならないのか?
「つまりは巫女が后妃になる可能性が実際にありそうだったからこそ妃は余計にでも私を敵視してくるわけだ?」
「そうですね…。でもでも朱里姫があまりお望みでないかもしれませんが后妃に選ばれるのは良いことだと思います!」
「ほえ?なんでさ?」
「だって后妃ですよ!そしたら好きな暮らしができちゃうかもしれません!」
別に望んでないから気持ちは理解に苦しむが、私としては自由に出来る立場の方が良い。
夢も無くなってしまう話しだが、先代の巫女が亡くなったっていうのも毒殺されてたりとかしたんじゃないのかと思ってるくらいだし。
少なくともそんな危険な立場がとてもではないが自由とは思えない。
「好きな暮らしに関してはわからんが。私としては皇帝がどんなやつかも知らないからなぁ…」
なにより派閥争いがある時点で側室として扱ってもらうのも恐ろしいくらいだ。男女の関係性に関してもそうだが私に利点が一切感じられない。金に関してもばあさんがどうにかするだろうしな。
「いいさ。后妃になりたい奴が勝手になればいいし。それよりも三妃に関して聞いていいか?」
「そうでした!すみません!三妃の方々ですが、先ほども話しましたが灯花妃。それと夏霞妃。そして桃麗妃の三方が后妃に近い妃です」
しあしあ。たおりー。桃麗妃はともかく夏霞妃は呼びづらくてたまらない。
灯花妃と夏霞妃はできれば噛まないように気を付けなければいけない。本人の目の前でやったらとてもではないが舐められてると思われるかもしれん。
「あーその…やっぱりちゃんと呼ばなきゃだめだよな?」
「対等な存在なのですから安心してください!」
そういう心配はしてないんだが。まぁ重要なのは呼びやすさよりも中身だよな。
「灯花妃に関してはなんとなく聞いたからいいんだけど、夏…霞妃はどんなやつなんだ?あと桃麗妃も」
「夏霞妃はお優しい方とは聞いてます。灯花妃に仕えていた時は基本的に他の妃との会話はしませんでしたのであまり詳しくはないので私も詳しいことは分からないんです…すみません」
独占欲強いと相手の名前も聞きたくないくらいになるのか?
分からないなら分からないで仕方ないが、桃麗妃も真桜のことだから優しいという評価くらいしか聞けそうにないかもな。
「別に謝ることじゃないよ。まぁなるようになるだろ!」
「朱里姫はどこまでも明るいんですね…?」
「悩んでもわからんことはどうしようもないしな。それよりも真桜が知ってる灯花妃について分かること教えてくんね?」
「それでしたら大丈夫ですが…灯花妃は派閥としてはわりと大人しいところだと思います?私がいたときは少なくとも皇帝が寝所を一緒にしてるところは見たことありませんし」
「妃なんだよな?幼すぎるとかなのか?」
「いえいえ、今年で十八なのでそんなことはありませんよ。ただ人見知り?なのでしょうか?侍女と話したり医官の方と話すことはあってもそこまで誰かと積極的に話してることもないですね」
医官に関しては単純に薬関係だろうから仕方なくかもしれんな。
真桜の話しをそのまま鵜呑みにするなら人見知りと思っていいだろうが。それはそれで私が失敬を行って恨みを買ってしまっただけで会話するきっかけが無くなる。
手土産の一つでも贈って一緒に飯でも食べて仲直りとかいかんものかね?
「よし、最初の相手は灯花妃だな。真桜の件も謝らなきゃいけねえし」
「私のことはそこまで気にされなくても…」
「奪ったようなもんだろ?周りから見たらさ、さすがにそれだといけないし誤解のないように話し合っておくべきだろ。それだけでもなくて、皇帝に興味無さそうっていうのももしかしたら気が合うかもしれん」
「そうですか…?朱里姫がそう思うならいいんですが…」
不安そうな声を出してるが、もしかしたら誤解を解いたら真桜を返してほしいなんて言われるかもしれないしな。
できれば真桜にはそのまま私の侍女をやっていてほしいが灯花妃の侍女たちの話しをしていた時は楽しそうだったし、真桜の気持ちによっては元の位置に収まってもらうのもありだろう。
本当にできればそのまま私の侍女をやっていてほしいんだけどな!
先に喧嘩を売ったのは私みたいだからその時は仕方ない。
「そうと決まれば作戦会議だな。灯花妃の好きそうな話しとかないか?」
「えーっと…普段話していた内容は食事の事とか…あとは刺繍を良くされていますが…好きというより自分の侍女だというのを周りに分からせるためにやってるような気もします…?」
「本当に独占欲強いんだな…他の妃もそういうことをしてるのか?」
「夏霞妃や桃麗妃もされていますよ?ただ自分でやるというより侍女頭の方がやってるのだと思いますが。それぞれ妃の方々の好きな物を刺繍されてます」
「灯花妃はどんな物だったんだ?」
「それは…日輪草と呼んでいたと思います?お花の刺繍でしたよ」
日輪草か…なるほど日輪草ね!わかんね。
「まだ持ってたりはしないか?」
「すみません!辞めさせられたときに取り上げられたので…!でもでも黄色くて沢山粒があるお花でしたよ!」
色か…。少しは参考になるかもしれんからそのまま灯花妃についてどうするか二人で話し合う。
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