幕間3話
「ハハハッ。ハーッ、ハッハッハッハッハッハッ!!! 妖精!? 合体!? 興味深い、大変興味深いですねえアレは!!! まだ世界にあのような未知が存在していようとは!!! まさか偶然出向いた場所でこんな出会いに恵まれるなんて!!!」
人体改造
ボスが討伐され、ダンジョンからただの病院へと戻ったクヌギハラ病院。を一望出来る廃墟ビルの中で、ボクは溢れ出す興奮のままに笑っていました。
「彼らは何処から来たのでしょうか? どうやって来たのでしょうか? 元々この世界にいたのでしょうか? もしや別の世界からやって来たのでしょうか? あぁ気になる! 凄く気になる!! 気になって気になって夜も眠れそうにない!!!」
今すぐにでも彼らを攫って調べたい! 調べ尽くしたい!!!
どれだけの未知が得られるでしょう。どれだけの知識が手に入るでしょう。あるいは既知の情報しかなくとも構わない。あれだけ姿形が違い通常の人間からは考えられない特異な力を発揮しながら既知の情報しか出てこないなら、それは逆説的にボクが全ての既知を調べ尽くせていないという事だからだ。それは素晴らしく未知だ。
あぁ。彼らと会って直接話がしたい。どうにかならないでしょうか?
「宗樹様。では接触を図りますか? 今ならダンジョンを攻略したばかり。周囲に余計な人間はおらず、誰にも邪魔される事なく彼らと言葉を交わす事も可能ですが」
「素晴らしい提案です、幸代ちゃん。けど遠慮しておきましょう。ボクはこれでも試練派の幹部ですからね。仮にも仕事でここへ来ている訳ですから、私情を優先して彼らに会うのはナンセンスです。ここはグッと堪え、次の機会を待つ事にしますよ」
本当に、心の底から素晴らしい提案だと思ってはいるのですけどね?
ボクも真っ当な一社会人ですから、その辺りの道理は守りませんと。
しかし流石は幸代ちゃん。秘書経験が長いだけの事はありますね。口に出してはいないのに、ボクが望む事をピンポイントで言い当ててくるとは。仕事で成果を出した訳ではありませんが、個人的に彼女へ特別なボーナスを出してあげたい気分です。
「では代替案として、近々行われる緋龍第一ダンジョン学園高校でのデモンストレーションの際に接触を図るのは如何でしょうか? 彼らがパーティーの一員として連れ歩いているのはあそこの学生です。学園祭に訪れる可能性は十分にあります」
「それは――それはなんて素晴らしいっ!!! つまりその日であれば仕事をしつつ彼らと会話する機会も得られると? 依頼してきたのは確か運命派でしたか。請け負った当時はつまらない依頼だと嘆いたものですが……とんだ勘違いでした!!!」
あれこそがボクにとっての天啓だった、という事ですね!?
日頃から運命などと訳の分からない事を宣う彼らを、頭の可笑しい電波系だと実は馬鹿にしていたのですが。馬鹿なのは彼らではなくボクの方だったようです。これは反省し、悔い改めなくては。彼らへの認識も大幅に変える必要がありそうです。
この機会を与えてくれた彼女――愛華ちゃんにも感謝をしなくては。
彼女は何故かやたらボクを食事に誘っていましたが、これだけの恩を与えてくれた相手の誘いを袖にし続けるのは失礼ですね。今度時間を作っておきましょうか。
「宗樹様。一年分の予定は既に埋まっていますので、あの女との予定は今後もキャンセルして頂く事になるかと。スケジュール管理が拙くて申し訳ありませんが」
「そ、そうなんですか? でもまったく動かせない事はないでしょう? これまでも必要があれば都度予定を組み替えてきたじゃないですか。今回も以前と同じようにすればいいはず。どこか一日くらい、予定が動いても問題ない日があるのでは……」
「いえ。――まったく!!! ありません宗樹様。申し訳ありませんが。はい」
そ、そうですか。幸代ちゃんが断言するほど余裕がないんですね。
つまりボクは今後、幸代ちゃんが予定を組み替える隙もないハードスケジュールを一年間にも渡って熟さなければならない、という事に……? ――この想像はやめておきましょう。あまりにも残酷な自身の未来図に、絶望して現実逃避しそうです。
しかし今から楽しみですね。彼らと接触し、直接会話する日が。
彼らは一体どんな性格をしているのでしょうね? 真面目でしょうか? 不真面目でしょうか? 自信家でしょうか? 謙虚でしょうか? 社交的でしょうか? 引っ込み思案でしょうか? 怒りっぽいでしょうか? 優しいでしょうか?
彼らの性格を想像するだけでこんなに楽しい。やはり未知はいいですね。
人の中にある未知。世界の中にある未知。未知にも色々と種類はありますが、……はてさて。彼らが抱えている未知は、一体どのようなものでしょうかね?
「――ところで宗樹様。この者達は如何しますか?」
「この者達? ……あぁ。不届き者達の事ですか」
教団のローブを被った男性と、装備を身に着けた数人の探索者たち。
「い、軍畑様!? これはどういう状況でしょうか!?」
「あぁん!? ここは何処だ? お前ら何処の誰だ!?」
ローブを被った男性の名は確か新井……でしたか? もしくは御手洗だったかもしれません。正直、ハッキリと覚えてはいませんが。言うまでもなく我らがダンジョン教団の同胞ですね。協力関係にあったボスとの連絡役を任されていた者です。
探索者たちは高遠と呼ばれていた者とその一派。ダンジョン崩壊の間際にボクが目を付けた彼らから隠れるように逃げていたので、ついでに捕まえたのでしたか。
……いけませんね。くだらないモノを目にして心が冷めるのを感じます。
「新井。貴方は教団から“協力関係にあるダンジョンボスとの連絡役”という重要な任務を任されたにも拘わらず、任務の重要性を軽視。ボスと連携が取れなかったばかりか、探索者にボスを攻略される失態を犯しました。責任を取って頂かなくては」
「まっ!? お待ちください軍畑様! 私としてもあれは想定外の事で!? まさか組合の連中があれほど素早くダンジョンを攻略するとは夢にも思わず……!!!」
「いえ。攻略された事自体は問題視していませんよ。ダンジョンである以上、組合に目を付けられるのは時間の問題。確かに攻略されるまでが少々早くはありましたが、それ自体は想定の範囲内。これだけならボクも罰を与えずに済んだのですけどね」
えぇ。ダンジョンが攻略された程度で罰を与える訳がありません。
この世にどれほどダンジョンがあると思っているのですが? 世界中に数え切れない程のダンジョンが存在しているのに、高々一つ攻略された程度で罰を与えたりしませんよ。協力関係にあったボスが失われた事は、とても手痛い失態ですが。
「問題は……あのボスの知識が永久に失われてしまった事です」
「あの者は所詮、『モンスター化薬』の製造を委託した現地協力者の一人でしかないはずでは……!? そんな輩の知識が失われた程度でなんの損失があると!?」
「まさか知らずに任務に就いていたのですか? 彼は薬の発明者ですよ」
「なっ、そんな馬鹿な……!? では私は……っ!!」
「あぁ。その様子だと知らなかったのですね。とはいえ知らなかった程度で貴方の失態が消える事はありませんが。なにせ世紀の発明とも言える『モンスター化薬』の発明者を我々は失ったのですからね。この失態は貴方の命で償ってもらわなければ」
それに彼は『モンスター化薬』以上の薬も開発していたようですし。
『ボスモンスター化薬』、でしたか。凄まじい力を持っていたようですね。まさか通常のモンスターだけでなく、ボスモンスターの力まで得られるようになるとは。あのような素晴らしい薬を生み出せるとは、やはり彼は優秀な研究者でしたね。
あの薬が手に入ればボクらの活動もより行い易くなっていたのですが。
交渉なりなんなりで一つでもあの薬を入手出来ていれば、新井君も教団での昇格間違いなしだったでしょうに。いやはや、優秀な人間が消えるのは悲しい事ですね。
「もういいですよ幸代ちゃん。彼を始末してください」
「はい。お任せください、宗樹様」
「お、お待ちください軍畑様!? この失態は必ず取り戻してみせます! 一ヶ月、いえ10日だけでも猶予を!! そうすれば必ず――ぎ、ぎゃぁあああああ!?」
んー、人間が潰れる音はいつ聞いても好きにはなれませんね?
この音は幸代ちゃんが張り切ってる証拠だとは分かってるんですよ? ボクが仕事を頼むたび、毎度張り切ってくれているのだと思うととても可愛らしい。
しかし好きになれないものは好きになれません。彼女には悪いですが。
今度から、もう少し散らかさない方法で殺すように頼んでみましょう。
「なんだよお前ら!? なんのつもりで俺らを攫ってきた!?」
「は、早く逃げるぞ! 一秒だってこんな場所に居たくねえ!!」
「高遠さん、早く逃げましょう! ここに居るのはマズイ!!」
「あ、あぁ。分かった。い、行くぞお前らっ!!!」
「おっと。そういえば彼らも居たのでしたね。んん、彼らを始末する必要は特にないのですが……まあ、我々の存在を知られてしまいましたからね。彼らから情報が漏れると少し面倒です。運が悪かったという事で、ついでに死んでもらいましょうか」
声を掛ければ幸代ちゃんはまた張り切って仕事をしてくれました。
今度は数人分。音が重なって先程よりも酷い事になっています。
ご飯を食べに行く予定もあるのに、食欲が無くなったらどうしましょう?
「あぁ、しかし楽しみですね。彼らに会いに行く日が! 人間と妖精。タイキとフルミー、でしたか。残念ながらフルネームは分かりませんでしたが。ふ、ふふふ」
会いに行くのは学園祭の日、でしたか。
それまでボクは我慢できるでしょうか?
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