第33話 反応
理は次の日も朝から自身の小説の反応を見てみる。すると、PV数はまたまた増えていた。少しずつでも読んでもらえていることに喜び、午前中は仕事に打ち込む。今日も仕事の進みはスムーズだ。
お昼前に仕事を終えると、再び小説投稿サイトを開き、PV数の変化を見てみた。
――まだ増えてるな
そう思って安心したのか、その日も午後から映画を楽しむ理。夜も同様にPV数を確認してみたが、また少しだけ増えていたようだ。結局夜もそのまま映画を見てゆっくり過ごすことにした。
―――そして、次の日
理は朝食を済ませると、ノートPCを開き、昨日と同じように投稿した小説のPV数を確認してみた。
「あれっ、増えてないな」
昨日は一日中PV数が増えていたが、今日はまだ一度も読まれていないようだ。
「そんなときもあるか」
理はあまり気にせず、午前中はいつもどおりwebライターの仕事に打ち込む。仕事が終わったあとは小説投稿サイトを開き、再びPV数の変化を確認してみた。
「増えてないな…」
PV数の増加が見られず、不安そうな表情を浮かべる理。一生懸命書いた小説がわずか一日、二日で読んでもらえなくなるのは辛い。だが、彼にはそれをどうすることもできなかった。
――もう少し様子を見てみるか…
午後からは昨日と同様に映画を見て過ごし、夕方になればいつもどおりお風呂に入り、晩御飯を済ませる。食後の一服をしながら理は恐る恐る小説投稿サイトを開いてみた。
「あぁ、ダメか…」
PV数を確認してみるが、またしても増えてはいなかった。なぜ読んでもらえないのか疑問に感じた理は、サイトに投稿したジャンルの一覧から自身の小説を探してみることにした。
一ページ目、二ページ目を見ても自身の小説は見つからない。そして、三ページ目に移ったところで、ようやく見つけた。
――埋もれてたのか
小説投稿サイトには数多くの小説家が、執筆した作品を投稿している。その数は無数にあり、毎日新たな作品が投稿され続けているのだ。理はそんなこととは知らず、投稿すれば読んでもらえると思っていた。
たしかに読んではもらえたが、すぐに新しい作品が投稿されるため、数日あれば、あっという間に自身の小説は埋もれてしまう。検索結果の何ページも先に。これは小説投稿サイトを利用しているすべての小説家が知っていることだ。理を除いては。
「はははっ、なんだこれ」
理は自身の小説があっという間に他の作品に埋もれてしまったことへショックを受けた。それと同時に頑張って書いてきた努力が、報われない気持ちにもなり、怒りがこみあげてくる。
「こんなので、どうやって読んでもらえばいいんだよ!」
「くそっ!」
理は握りこぶしをパソコンデスクの天板目がけて振り下ろした。その衝撃で机の上に飾ってあった動物たちのかわいいフィギュアが床へ落ちる。彼は足元に転がった小さいフィギュアを静かに拾うと、机の上へもう一度飾り直した。
どんな物事も最初から上手くいくなんてことは稀だ。理もそれはわかっていたが、一生懸命書いたものが、こうも簡単に読まれなくなることが悲しかったのだ。そして、腹立たしかった。
――現実はこんなもんか…
理は人生で初めて大きな挫折というものを味わった。一生懸命やっても上手くいかないことはとても多い。その辛さはこれを経験した者でないとわからないだろう。彼はこのとき、初めてそれを知ったのだ。目からは自然と涙がこぼれ落ちる。
もちろん自身の小説を読んでもらうのに、他にもやり方は色々あっただろう。だが、彼は初めて小説を投稿したばかり。そんなことまで気が回らなかったのだ。あまりにも辛かったから。
――どこかでまた読んでくれる人がいるかもしれない
そう思い直した理はソファーへ座り、タバコに火をつける。いつもよりタバコの煙が苦く感じた。その日、彼はなかなか寝付けなかった。
―――その次の日
今日はwebライターの仕事は休みにした。昨日寝るのが遅かったせいか、いつもよりも遅めの起床だ。頭はまだ少しボーっとするが、眠い目をこすりながら、顔を洗い、歯を磨く。
それが終われば、普段なら朝食の用意をするところだが、理はいまいち食欲がなく、朝はコーヒーだけで済ませることにした。
「あったかい…」
ホットコーヒーが体を内側から温めてくれる。それが今の彼にはとても気持ちよかった。まるで傷ついた心が癒されるようだ。どこかホッとする感覚を味わいながらテレビをつける。
その日は夕方までコメディ映画を見て過ごした。笑える作品を見れば、自然と心と体は笑顔になる。そう思ってコメディ映画を選んだのだ。だが、それでも彼がその日、笑顔になることは無かった。
夜になり、もう一度小説投稿サイトで、PV数を確認してみる。
「ダメか…」
時間が経っても彼が投稿した作品が読まれることは無かった。
――また新しい小説でも考えてみるか
気を取り直して理は次なる作品の構想をはじめた。前回はヒューマンドラマだったが、今回は違うジャンルを書いてみたいと思い、自分に何が書けるのかを考えてみる。ノートにいくつか案を書き出してみるが、すぐにいいものは思いつかない。
次の日も、またその次の日も、理は考え続けた。時折、いい案を思いついたりもしたが、それを広げようとしても、なぜか上手くいかない。そんな日が何日も続き、彼はついに手が止まってしまった。
その後は一旦小説から離れ、仕事へ打ち込むことにした。仕事量を増やし、朝から夕方まで普通に仕事をこなす毎日。気が付くと、小説を書く前と同じような生活に戻っていた。
それでもたまにはノートを開いて小説案を練ってみる。だが、物語にできるようなものなかなか生み出せず、ただ時間だけが過ぎていった。それから一カ月、二カ月が経ち、ついに友子がフランスから帰国した。
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