第27話 小説はまるで誰かの人生

 友子が帰ったあと、理は改めて小説について調べてみることにした。過去に何冊か小説を読んだことはあったが、書くのは初めて。わからないことばかりだ。ネットで小説について調べると、すぐにいくつかの「小説投稿サイト」というものを見つけた。


 ――なるほど、みんなこういうものを使って、小説を投稿してるんだな


 早速、理はサイトの中を確認してみる。そこには無数の小説が投稿されていて、幅広いジャンルがあることも知った。


「へぇ~」


 あまりの投稿数の多さに思わず声が出る理。小説をネット上に投稿している人は多いのだ。


 ――この中で読んでもらえるようなものを書くのは並大抵のことではないな


 そう思うと、改めて小説家として生計を立てている人のすごさを感じる。それは本当にすごいことだ。その一方で、思った以上に多くの人たちが小説を書いているのを知り、どこか背中を押されたような気持ちにもなった。そこには自分の内側にあるものを小説という作品にしようと考え、行動した人たちばかりだったから。


 ――みんなも初めて小説を書くときはドキドキしたんだろうな


 理は小説投稿サイトを閉じると、今度は再び小説の書き方について調べてみた。小説を書くには、まず最初に色々と決めておかないといけないことがある。小説のテーマやジャンル、それに登場人物と世界観。素人目に見ても、そのどれもが物語にとって大切なものであることは、よくわかった。


 さらに彼は調べていくと、「プロット」というものがあるのを知った。プロットとはいわば「小説の骨組み」だ。どういう風に物語を進めていくのか、それを先に決めておくのだ。


「webライターで言えば、記事の構成みたいなものか」


 理は自分の仕事と照らし合わせ、記事構成と同じようなものだと感じた。彼が普段やってる仕事も、記事にしたいテーマから構成を作り、ライターがそれに沿った形で記事を書き上げる。もちろん小説のほうが、圧倒的に構成の中身や文字数は多いが、それでも大まかな流れは似ていると感じたのだ。


 ――これなら本当に書けるかもしれないな


 自身の仕事に似てる部分があることを知り、これまで以上に小説に魅力を感じる理。そう思うと、居ても立っても居られなくなり、まずは物語のテーマやジャンルから考えてみることにした。


 ――どんなテーマやジャンルで書いてみようかな


 理は自分がこれまで見てきた映画やドラマ、アニメなどを思い出しながら、まずは自分の好きなものから考えてみることにした。


「ノート使うか」


 テーブルに置かれていたノートを広げると、自分の好きなジャンルを書き出してみる。そこには「アクション」、「サスペンス」、「SF」、「ヒューマンドラマ」など、色々と出てきた。


 どれも理の好きなジャンルばかりだったが、風呂敷を広げすぎたようだ。「これじゃあ書きたいものが定まらない」と感じ、続いてこれまでに自分の心に残った作品を挙げていくことにした。


 そうすると、ある程度書いたところで、理は気付いたことがあった。


 ――主人公はいつも何か目的を果たすために頑張っているのか


 理は自分なりに物語というものを感じ取っていく。どんな作品にも主人公がいて、それぞれの世界の中で、何かをするために生きている。


 ――まるで誰かの人生を描いているような感じだな


「!?」

「そういうことか」

「誰かの人生を描けばいいのか」


 小説のテーマやジャンルを決めようと考えていたところ、彼は思いついてしまった。「誰かの人生を描けばいいんだ」と。


 ――誰かの人生の一部または全部を描けば、それが物語になる


 理はそう考えた。小説の作り方は人それぞれだ。彼は彼のやり方で作ればいい。静かに淡々と進む人生やぶっ飛んだ出来事を描いたもの、色んな作品があるが、それらはすべて作者が自分の自由に描いたものだ。そして、その作品の中で生きている人たちがいる。彼は少しだけ小説がわかった気がした。


「よーし!やってみるか!」


 ―――それから一時間が経った頃、


 理はまだ何も生み出せていなかった。何を書けばいいのか、さっぱり思いつかないのだ。さっきまでは「誰かの人生を描けばいいんだ」と思っていたが、考えても考えても、何を書けばいいのか定まらない。


「う~ん」


 頭を抱えながら、タバコを口にくわえ、ノートとにらめっこをしている理。


 ――自分の人生を物語にするんならなんとか書けそうなんだけどなぁ


 そう思いながらもとくに波乱万丈な人生を生きてきたわけではない彼にとって、自分の人生をネタとして描くのは退屈だと感じていた。


「人生かぁ…」

「あっ!?」

「自分の経験なら活かせるかも」


 理はまたもひらめいた。彼は自分が人生で経験した何かを物語に使えないかと考えたのだ。そこですぐに思いついたことがひとつだけあった。山岡から教えてもらったことだ。


 彼は山岡から「自分の答えを出す」ということを教わり、「考える」ということを知った。そして、「深く掘り下げていく」ということも。これは今の彼にとっては、とても大切なものだ。


「よし!決めた!」


 理は自分が初めて書く小説のテーマを「自分の答えを出す」というものに決めた。まだ、テーマ以外は何も決まっていないが、ひとつ進んだことに喜びを感じる。


 ――どんなものが書けるだろう


 そう思うと、彼はワクワクした。すると、主人公像が自然と頭にほんやり浮かんでくる。


 ――僕によく似た主人公がいいな


 理は小説の主人公を自分によく似たキャラクターに設定した。人生がなかなか上手くいかず、苦悩している人物だ。


 ――悪くなさそうだぞ


 主人公像が浮かぶと今度は、物語の大筋まで見えてくる。人生に苦悩している主人公が、『自分の答えを出す』ということを知り、その答えを軸に生き方を変えていくというものだ。


「これじゃあまるで僕自身の人生だな」


 理はひとりつぶやき、静かに笑った。

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