第19話 自分の答え
「ここまで色々話しておいてなんだけどな」
「はい」
「俺が言ったこと全部信じなくていいぞ」
「はっ?」
理は山岡の突然の手のひら返しに驚く。それはそうだ。自分の心に響くようなことを散々語っていたのだから。
「なんでですか?」
理は不思議そうな表情を浮かべて山岡に聞いた。
「さっきまで話したのは、全部俺のものだからだよ」
「えっ?でも…」
「まぁ、聞け、さっきまで話したのはな、全部俺が自分の人生で出した自分の答えだ」
「髙平くんが出したものじゃない」
「だから、全部が全部信じなくていい、自分で答えを出せばいい」
山岡は長い人生の中で色々と考えることがあり、そうした中で自分なりに答えを出してきたんだなと、理は感じた。
「すごいですね、でもそんな風に『自分の答えを出す』って言われてもどうすればいいかわかんないや」
「だから、今髙平くんがやってるみたいに、自分で考えればいいんだよ」
「へっ?」
「いや、髙平くん今自分で考えてただろ?『どうすればいいかわかんない』って」
「それは『わからない』って答えが出ただけで…」
「でも『わからない』ときって、自分で考えるだろ?」
「まぁ、ある程度は」
「で、その考えた先に自分の答えが出るだろ?」
「あぁ、なるほど、たしかに」
理は山岡の言う「考える」の意味がわからなかったが、「考えた先に自分の答えが出る」と言われてピンときた。
「考えるって答えを出すってことですか?」
「そうだよ」
「でな、考えて答えを出すのに大切なのが『深掘り』なんだよ」
「深掘り?」
「そう、深掘りだ」
「これができたら自分が何をしたいのか、どうしたいのかがよくわかるようになる」
「俺は昔、人から『考えが浅い』って言われたことがあってな、それが無性に腹が立って、深く考えるようになったんだよ」
山岡は自分の経験でしか語らない。どこかで聞いたことがある誰かの言葉なんかは使わない。全部自分の言葉で話してくる。理はそれがよく伝わってきた。
「例えば考えてすぐに出てくるような答えがあるだろ?」
「外が暑いと『暑いなぁ』って思うのと同じで」
「はい」
「その『暑いなぁ』って思ったことに対して『なんで暑いんだろう』って考えるのが深掘りだ」
「はい、わかります」
「『自分の答えを出す』っていうのはこれをやっていくだけ」
「そしたらもうこれ以上深く掘れないってところまでどっかではたどり着くから、それが今の自分にとっての答えだ」
理は山岡の言葉に「う~ん」と考えこむ。山岡はそんな彼を見て質問を始めた。
「髙平くんは以前、仕事に対して『イヤだ』って言ってたろ?」
「それは今も少しあります」
「でも、本当言うと、仕事だけじゃなくて自分の人生そのものがイヤになってるようにも感じます」
山岡は理の本音をドンドン引き出す。
「じゃあ髙平くんが今、自分の人生がイヤになってるってことにしよう」
「それはなんで?」
「上手くいかないことばかりだったからですかね」
「それはなんで?」
「う~ん、失敗ばかりだったから?」
「それはなんで?」
「そうだなぁ、勢いまかせ…だったからかな」
そこまで言うと、山岡は軽く微笑む。
「どう?」
「どうって?あっ?そういうことか!」
「今、髙平くんは自分でドンドン『自分の人生がイヤになってるのはなぜ?』ってことに答えを出していってるんだ」
「なるほど、えっ、でも、それって本当なのかな?」
「なんで?」
「いや、これが本当に自分の答えなのかなって疑問に思っちゃって」
「そうだよな、最初はそんな風に感じるよな」
山岡は疑問に感じている理に「うんうん」と首を縦に振る。
「でもな、それって髙平くんの中から出てきたものだよな」
「そうですね」
「外側から来たものではないよな」
「はい」
「そしたら、それは紛れもなく君が出した答えだよ」
「正しいとか、間違ってるみたいなものはそこにはないんだよ」
「自分で自分に質問して、自分の中から出てきたものなんだから」
「誰のものでもない、自分だけの答えが」
理は山岡の言葉に「なるほど」と納得する。
「深掘りするときはどこまでも自分に正直でいるんだぞ」
「そうしないと、答えなんて出ないから」
「っていうと?」
「例えば自分が出した答えに対して『そうじゃない』とか、『こんなんじゃない』なんて言ってごまかしたりしていると、絶対に自分の答えなんか出せない」
「そんなことってあるんですか?」
「あるよ、意外と思ってもみない答えが出てくるからな」
「へぇ~」
「自分で出した答えに『えっ?そうなの?』って思うぞ」
そう言うと、山岡は立ち上がり、自分の机で何かごそごそしている。理がそれを見ていると、なにやら一冊のノートを取り出し、こちらへ持ってきた。
「髙平くん、これから何かを考えるときはノートを使え」
山岡はノートをテーブルにポンッと投げる。
「ノートですか?」
「あぁ、自分で紙に書くとな、頭で考える以上に、理解が深まる」
「そうなんですね」
「頭の中だけだと、どうしても忘れちゃうしな」
「それと、紙に書いたら、あとから見返すこともできる」
理はどこか「めんどくさい」と感じたが、山岡が言うことも理解はできるため、「まずは試してみよう」と考えた。
「山岡さんは普段からこんなことやってるんですか?」
「もうずっとやってるよ、悩むこと多かったからな」
「最初はわからないから人に相談して、アドバイスを貰おうとするんだよな」
「でも、それだと『なんか違う』、『そうじゃない』って思うことが多くてな」
「そんな頃に人から『考えが浅い』って言われて」
「『じゃあ考えが深ければいいんだ』って思ったのが最初だよ」
山岡は当時を懐かしそうに語る。
「で、そこから自分が気になることを深掘りするようになってな」
「その中で、自分の本音や答えが見えてきて、自分のことを色々と知ることができたよ」
「へぇ~」
「だから、自分がどうしたいのかがよくわかるようになったし、行動に迷いが無くなってくるんだよな」
「なんかわかる気がします」
理は山岡の話を聞き、自分の答えを出すことが人生を生きる上で、どれだけ大切なことなのかを知った。
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