異世界トラック ~冒険者登録すら出来ない半強制追放の底辺運転手が極振りトラック無双で建国余裕の側室ハーレム。家族を大事にしようとしてたら世界から魔王扱いされててツラい~
第22話 運転中の横顔はなぜかカッコいい
第22話 運転中の横顔はなぜかカッコいい
「おや? お二人とも今日はお出掛けですか?」
運と久遠の元を訪ねて旅館にやって来た五十鈴が言った。
「あ、五十鈴さん! 実は今日から、マケフ領の様子でも見てこようかと思って」
「なるほど。ご商売の拠点探しですね」
「はいっ!」
「そういえば私もフィリーから貰いましたよ試作品。さっそく使ってみましたがとても良い仕上がりでした」
「ですよね~! これで消耗品切れに怯えることもなくなりました~」
「ふふ、私も。これからこんな高品質なものが使えるだなんて夢のようです」
「シャンプーやトリートメントはいかがでした?」
「最高です! 髪もこんなにサラサラに。動くたびに嬉しくなってしまいます。心なしかいい匂いもするような気がしてきて……」
そこで久遠はなにやら怪しい表情を浮かべた。
「あ~すみません。私、今日は鼻が詰まってるんです……。なのでお兄ちゃん、代わりに嗅いでみてあげて?」
「「へ?」」
即座に硬直する運と五十鈴。
「ね? お兄ちゃん。商品の質を確かめなくちゃ。これも仕事だよ?」
「お、おう。……そういうもんか?」
「運殿!? あわわわ……」
「すまんな五十鈴、ちょっと我慢しててくれ」
運は肩まで伸びる五十鈴の髪をすくって匂いを嗅いだ。
「くぅ~っ……」
五十鈴は顔を赤くし目を瞑り、それに耐えていた。
「すごくいい匂いがする」
「良かった~!」
運の反応を見て久遠だけが両手を挙げて嬉しそうにしており、当の五十鈴本人は身を縮めるように硬直していた。
「うう……緊張しました……」
五十鈴は身体中の力が抜けたかのように肩を落とした。
「これだけ品質が良ければ人気も出そうだな」
「うん! バンバンさばくよ~っ!」
試作品の品質に満足そうに両手を合わせてタッチを交わす運と久遠。
「お二人のご商売、私も応援していますね」
「そうだ! 五十鈴さん! 今度は化粧品にも手を出すんですよ~! 楽しみにしていてくださいね!」
「それは素敵ですね! 楽しみにしています」
「あとは洗剤とか……色々考えながら並行してやっていかないとな~」
「久遠、たくましい奴だよ、我が妹ながら」
「スマホって便利だよね~。お兄ちゃんがトラックごと転移して来てくれて本当に助かったよ~」
「それだと俺がオマケみたいじゃないか」
「そんなことないよっ! トラックに乗った王子様だよっ!」
「あんまカッコ良くねぇな、それ」
「そう? 私は大好きだよっ!」
久遠はそう言って定位置になりつつある運の背中に抱きついた。
「そうだっ! 良かったらマケフ領の見学に五十鈴さんも来る?」
「私は……ご一緒したいのも山々なのですが、そろそろ公国の動向も怪しくなってきた頃合ですので……」
「そうですか……大丈夫、私たちもいざというときは必ず戻って参戦しますからね!」
「ありがとうございます。それでは私はここから良い物件が見つかることをお祈りしています」
「ありがと五十鈴さん」
「あ、そうでした。帰り道でしたらドリアードたちが里に辿り着ける手伝いをしてくれるそうですよ。ご心配なく」
「わ。ありがとうございますっ!」
「いえいえ、お気になさらず」
「それじゃ行ってきま~すっ!」
運と久遠は五十鈴に手を振って森をあとにした。
森を出てトラックに乗り換えた二人はマケフ領を目指して走り出した。
「やっぱりトラックの旅も素敵だよね~」
「今回は日帰りも可能な距離だけどな」
「それでもお兄ちゃんと一緒だと嬉しいな~」
「場合によっては次が旅の終着点になるのか? もちろん元の世界と行き来する方法も探すとしてだが」
「安寧の地にはなるかもしれないね。ただ、それにはオクヤの里を守り抜かないと」
「そうだな。生活の糧ってだけでなく、戦争の火種が燻ってるようじゃ安寧とは言えないもんな」
「お兄ちゃんが世界最強になっちゃえばいいのにな~。誰も手が出せないくらいに」
「さすがにそれは俺だけの力でなんとかなるようなもんじゃねーよ」
「ね~。今さっき思いついたんだけど、私もトラックに乗り込んでヒールしながら戦ったら最強じゃない!?」
「いや、俺にはG耐性の専用スキルがあるから全力でブチかませるけど、久遠には無理だろ」
「そっか~、残念」
「でも、俺にできるのは今のところ戦闘くらいだからな、久遠がいなかったら大変だった」
「えへへ~。仲良く助け合っていこうね、お兄ちゃん!」
「おう!」
トラックは旅を楽しむように大地を駆けた。
だが、そんななかでもふと無言になるタイミングがあるとどうしても二人の間には誤魔化しきれない問題が浮かび上がるようだった。
「久遠。……覚悟はしたつもりだけど、やっぱり戦争、怖くないか?」
「そりゃあ怖くないって言えば嘘になるけど、そんな覚悟はもう孤児院を出たときからしてるからね、今さらでしょ?」
「そうか」
「お兄ちゃんは?」
「怖い、と言うか不安だな」
「不安?」
「みんなのことを守れなかったらどうしよう……って」
「そっか……やっぱりお兄ちゃんは勇者さんたちとは違うね」
「そうか? 今にして思えばあの勇者も、五十鈴と戦っていた忍者たちみたいな下衆と違って人々のために戦ってたわけだし、帝国の立場から見たら立派なもんだったじゃないか」
「でもね。結局はレベル、スキル、能力値……って、自分の強さだけにこだわってた」
「だけど、それはエヒモセスじゃ生き抜くために普通のことなんだろ?」
「それはそうだけど……でも、お兄ちゃんは違うよね?」
「俺か? 俺は別に強さなんかどうだっていいからな。……ま、結果的にみんなを守るために必要があるなら強くもなるだろうが」
「……ほら。そういうところ」
「ん? どういうことだ?」
「……誰かのためが一番最初にくるところだよ」
久遠は運転中の運の横顔を見つめた。
「もう! これ以上惚れさせんなっ。血は繋がってないんだから」
久遠は自分の頭を運の肩に寄せた。
「おい、だから運転中にくっつくなよ」
「やだもん。離れないもん」
「危ないだろ」
「離れたくないもん」
「ったく。いったい急にどうしたんだよ……」
トラックの旅には、ときに言葉少なめのときもあるようだった。
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