第19話 VSドリアード(2)
打開策と思われた魔法すら対策されていたことを知り膝を屈する運を見て、ドリアードたちはさらに笑い転げていた。
「キャハハ~、この子すごーい! まさか罠がバレちゃうとは思わなかったな~」
「もう少しで花火だったのにな~」
運は拳を地面に叩きつけた。
「ちくしょう、八方塞がりじゃねぇか」
「ま、バレたところで打つ手なしじゃ状況は変わらないけどね~」
「デュフフ、この知的な幼女が快楽に汚されていく様をそこで見ているでごじゃる」
不気味で影のある笑みを浮かべたドリアードが、うねる植物の触手を久遠に向けていた。
「いやあ~! お兄ちゃぁ~ん!」
「そんなことはさせねぇよ!」
運は気力を振り絞って再び立ち上がった。
――しかし物理攻撃無効とは俺様のトラックには致命的だな……しかも魔法攻撃にしたって炎属性はダメ、そのうえ発動条件もいまいち良くわかってねぇときたもんだ……。
「あれあれ~? 立ち上がっただけ~?」
「きっともう限界なんじゃ~ん?」
――そもそもなんで俺様の魔法は普通の名前じゃねぇんだ? そのうえ俺様自身には魔法適性もないときてる……。
考えを巡らせて動かない運を余裕の態度で嘲笑するばかりで、ドリアードたちもすぐには動かない。
――もしかして魔法適性なしってのは、俺様自身は本当に魔法を使えないってことなんじゃないのか? だが、それでいてさっきはケツから火が出たのも事実……。
「イイコト考えた! 兄妹で捕らえて背徳ごっこさせちゃうでごじゃる!」
ひとしきり笑い転げたあとのドリアードたちであったが、そのうち一人の発言を機に、それは名案とばかりにギョッと殺気立った視線を運に集めた。
「だ、だめ~。お兄ちゃんとそんなイケナイこと……」
だがそんな状況にも関わらず、久遠は吊るし上げられながら赤面した顔を隠す両手の指の間から運を見ていた。
「久遠お前、なんでちょっとニヤけてんだ」
「ち、違うもん!」
兄妹間の茶番を挟みながらも、ふたたびドリアードたちの魔の手が運に迫ろうとしていた。
「とにかく、そいつも捕らえるじゃ~ん?」
「くそっ」
運は仕向けられた蔓を転げるようにかわし続けながら、それでも思考を続けていた。
――魔法適性はないのに魔法っぽい炎は発動した。そのうえで考えると一般的な魔法じゃないってのは俺様だけの特徴……? すなわちそれはトラックに関係するってこと……?
「キャハハ~! そろそろ無呼吸も無理だよね~?」
「ついでに腐食粉で装甲もやっちゃう?」
「よ~し、兄妹そろって着ぐるみ剥いじゃうぞ~!」
「フォカヌポゥ! それがイイでごじゃる!」
――トラックに由来! そうだ、それならこの魔法の名前にも説明がつく。ケツから火が出たのもイメージとしては合ってる。つまりほかの魔法もトラック運転のイメージで放てば……。
「あ~! もうメンドイ! 全方位攻撃、いっちゃえ~!」
「りょーかいでありますっ!」
とうとう逃げ場のない全方位からの蔓が運に襲い掛かったときだった。
――チッ! バックファイアが封じられた以上、ぶっつけ本番でもこの場はこれっきゃねぇ! ええい! やってやる!
運は回避を諦めて全神経を魔法を放つイメージに集中させるように目を閉じた。そして迫りくる蔓が運を絡めとろうとしたとき、ギリギリのところでそれは力強く見開かれた。
そして運は片手を前方に突き出して叫ぶ。
「チルド!」
パキィ! と音を立てて襲いくる蔓が凍りつき、その動きを止めた。
「うそっ!? そんな魔法もありっ!?」
その一瞬の出来事でドリアードたちの動きが止まった。
「やっぱり! いける! こいつをもっと広範囲に放てれば……」
運は突き出した手をガッツポーズのように引き戻した。
「ヤババッ! みんな一時避難しよっ!」
動揺の広がるドリアードたちは一斉に樹の陰に隠れようと動き始めたが、その一瞬の好機を運が見逃すはずはなかった。
「させるかよっ! みんなまとめて一網打尽にしてやる!」
そして運はさらに力を込めて叫んだ。
「チルドルーム!」
瞬間、周囲一帯を時間や音をも凍りつかせるかのような冷気が包み込んだ。
「フゥー……」
凍りついて景色の変わった森の中心で、運は静かにゆっくりと白くなった息を吐き出した。
「はぁ……はぁ……どうだ……?」
運は力を使い果たしてその場に倒れ込んだが。
「うわ~! 動けないよ~!」
「私も~! 凍っちゃった~!」
「木々が凍っては退避できないでごじゃる~!」
「キャハハ~! 見事にやられちゃったね~!」
ドリアードたちの行動は氷漬けによって一人残らず制限されていた。
「はは、どうやらなんとかなったようだな……」
凍りついた地面に腰を落としながらようやく安堵の表情を見せる運。
「やったぁ~! お兄ちゃん! とうとう魔法が使えるようになったんだね!」
「ギリギリの状況だったがなんとかな。待ってろ、今降ろしてやる」
運は久遠を拘束する蔓を断ち切り、久遠を救出するとそのまま抱き抱えて地上へと降ろした。
お姫様のように抱っこされる久遠は顔を赤らめて運にしがみついていた。
「あ、ありがとお兄ちゃん」
「俺のほうこそ、状態異常にかかったところでヒールがなければ完全にやられてたよ。いや、そのあとの罠にもまんまと引っ掛っていただろうな」
「私たち、ナイスコンビネーションだねっ!」
「おう! 何年離れていてもやっぱり兄妹なんだな」
「うん! ……へっくちっ!」
「お、どうした? 寒かったか?」
「そりゃ寒いよ……周囲一帯が氷漬けなんだもん」
「あ、そうだったな」
「でもダメ! ドリアードたちを封じておかないと! 私はお兄ちゃんにくっついてるっ!」
「お、おい! ……ま、今回はいっか」
「うん! えへへ~」
久遠は満面の笑みで運の背中に貼りついた。
「さて、お前らドリアードだっけ。俺様の妹に手ェ出した以上、どうなっても知らんからな」
そして勝利が確定したところで運の視線は黒い光を放つようにドリアードたちへと向かった。
「「う」」
「「え」」
ドリアードたちの顔は徐々に青褪めていく。
「まずはお前らのその葉っぱの服を全部剥いでやる」
「い、いやぁ~!」
「せ、精霊だって裸は恥ずいんだからね!」
「おいおい、誰が服を剥ぐだけで許すって言ったよ?」
「や、まさか……イヤぁ~!」
「陵辱は好きでもされるのは嫌でごじゃる~」
ドリアードたちは泣きそうな顔をして、首を横に振ったりと抵抗を試みていた。
「お兄ちゃん、そのくらいにしときなさい」
忍び寄る運の背後から久遠がチョップで止めた。
「いて。なんだよ久遠。いいところなのに」
「そんなことするつもりないくせに」
久遠は運の背中にしがみついたまま呆れたように言っていた。
「そりゃそうだけど……こいつらにもちょっと反省してもらわないとだな……」
運や久遠の態度をを見てドリアードたちはキョトンとした。
「え……? もしかして、許してくれるの?」
「何も酷いことしない?」
怯えるドリアードたちの前で、運はあえて武装を解いてから微笑みかけた。
「お前らすまなかったな。わざとじゃないにしろ、先に森に火を点けちまったのは俺たちだからな……まずはそこを謝るよ」
「もちろん、焼けちゃったところは私が治すからね!」
「ホント!?」
「本当だよ。私はなんでも魔法で治せるんだから! ……見ててね、ヒール!」
久遠のヒールでたちまちに樹の焦げた部分が治っていく。
「ホントだ。やっぱりこの子すご~い!」
「ゴメンさない。私たち、ちょっと勘違いしてたみたいでごじゃるよ……」
ドリアードたちは驚いたり反省したりと、それぞれで様々な態度を見せていたが、そのすべてから敵対行動と思われる動きは見られなかった。
「ん。誤解が解けたのならもう拘束しておく理由もないな」
運は周囲の凍結を解いた。
「キャハハ~、動けるようになった~」
「悪い人たちじゃなかった~!」
運と久遠のまわりを嬉しそうに飛び回るドリアードたち。
「ごめんね~。お詫びに森で採取できる植物はなんでもあげちゃうよ~」
「そのぶん私たちが生やしておくから、安心していっぱいいっぱい採ってね~」
「わ。本当!? それってとっても素敵!」
「お役に立てれば嬉しいよ~」
「これから仲良くしよ~ね~」
楽しそうに二人のまわりを飛び回るドリアードたちに久遠は満面の笑顔を向けた。
「うん。よろしくね! お兄ちゃんも、良かったねっ!」
「おう。なんとか一件落着だな」
運がそう言ったときだった。
「あれ? みんなこんなところでどうしたの?」
そこに現れたのはフィリーだった。
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