かげきしょうじょ!!
現実は理不尽だ。
主役として生まれついた人間もいれば、脇役もいる。
生まれるときに神様が配役を決めたかのようだ。
個人の努力では如何ともしがたいほどの運命格差。
けれども。
一人ひとりが自分と言う人生の主人公なのだ。
だから、進むしかない。
この「かげきしょうじょ!!」は宝塚歌劇団をモチーフとした「紅華歌劇団」を舞台とし、その女優を養成する「音楽学校」に合格した7人の新入生の物語だ。
運命の選別は第1話から始まる。
紅華歌劇音楽学校は東大並みの難関校。
合格した段階で、人並外れた資質を持っているとわかる。
その7人ですら、主役になれる「華」があるかどうかが、1話目から残酷なまでに明示される。
紅華歌劇音楽学校にはジンクスがある。
紅華桜と呼ばれる大きな桜の木の下に立った子は、絶対にトップスターにはなれない、と言う伝説だ。
そのジンクスを破る二人がいる。
渡辺さらさと奈良田愛。
百年のジンクスを平然と破ることそのものが「主人公のふるまい」だ。
この二人は紅華マニアでないがゆえに、知らずに伝説を破ってしまう。そんな二人の無自覚ムーブで、紅華に入ることを人生の目標にしてきた少女たちが一瞬にしてモブにされてしまう。祖母も母も紅華スターだった少女も、男役トップになることを夢見て何年も努力し続けてきた少女も、この一瞬で脇役になる。
物語の中では、ここから彼女たちの人生が始まっていくのだが、見ている側は、1話の段階で、もう運命の選別が行われていることを知らされてしまう。彼女たちはこれからどんなに頑張っても、脇役の器なのだと。
それは私たち全員がそうだ。
舞台の中心にいるのは、いつも他の誰かで、自分は脇役としての人生を送るしかない。
けれども、配役を変えることはできない。
与えられた役に全力で取り組むしかない。
この物語には、主役になれない少女たちへの優しい眼差しがある。
厳しい現実を描きつつも、肩を貸し、ともに泣き、立ち上がれる日を待ってくれているような視線がある(先生たちが本当に素晴らしい!)。
恵まれた二人である、渡辺さらさと奈良田愛にも、大きな挫折がある。
人には言えない苦しみを抱えて、紅華の門を叩いた。
自分ではどうすることもできなかった運命を、紅華ならば変えられると信じて、音楽学校に入学した。
さらさは心の傷を人には言わない。
チート扱いされる身体能力の高さも、敗れた夢の代償に過ぎない。
天然ノーテンキにしか見えない彼女の笑顔の裏にあるものを、視聴者は知っているが、作中の子たちは知らない。
現実がそうだ。
隣にいる人のことをどれだけ知っているというのだろう?
何も悩みがないような顔をしていても、苦しみを抱えているかもしれないのだ。
自分自身だって、平気なふりをして、元気な自分を演じたりする。
みんな、隠して、演じて、毎日背伸びをしているのだ。
OPテーマ「星のオーケストラ」が素晴らしい。
まだ何者にもなれていない少女たちの、無限の可能性を鮮やかに歌い上げている。
挫折はある。何度だってある。
その度に夢を見て。転んだ数だけ夢を見て。
その度に背中を押す力はどんどん強く大きくなって、目指す場所に近づいていける。
そういう気持ちになれる。
そういう気持ちを思い出させてくれる。
EDテーマも同じぐらいに素晴らしい。
各話の主人公がその回のEDを歌うという趣向で、歌劇風にその子の心情を歌い上げたものになっている。
配信で見る人はエンディングカット設定はオフに。
1話見るたびに、彼女たちの物語に自分を重ね、次の1話が見たくなる。
この作品の唯一の欠点は、わずか13話しかなく、物語の一区切りで終わってしまうところだ。
彼女たちが目指す場所に辿り着ける日を願ってやまない。
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