最強のふたり
映画史上、最も華麗な開始5分。
夜の街を暴走する2人。何も説明することなく、主人公たちのキャラクターを伝え、互いの関係性も感じさせ、ピンチを与え、その解決方法がとてつもなくユニークで、警察が去っていく頃には、2人のことが好きになっていて、彼らのことをもっと知りたくなっている。
最高のつかみだ。
身体は自由だが、経済的には不自由なドリス。
経済的には自由だが、身体が不自由なフィリップ。
前科持ちとお金持ち、貧困階級と上流階級、黒人と白人、若者と老人。
社会の両極端にいるような二人が、親友になっていく。
この映画の特筆すべきところは、二人が最高どころか、その逆の、本当にろくでもない人間だというところだ。
黒人青年のドリスは態度が悪いし、手癖が悪いし、頭が悪い。
半身不随のフィリップは皮肉屋で、気難しく、意地悪だ。
フランス映画っぽい毒なのか、ドリスのジョークは「学力はないが愛嬌あふれる黒人青年」の域をはみ出ているし、フィリップのナイーブさも「同情されることに疲れた障害者」の域を超えている。
フィリップがレオノールとすれ違ったのも、彼女の遅刻をフィリップが被害妄想で拡大解釈してフテ腐れたせいだし、ドリスの後に雇った介護士に対する冷たい態度も度を越している。セクシーな女性に耳をマッサージして欲しいなら、そうリクエストすればいいだけの話なのに、プライドが邪魔して言えず、そのくせ勝手に怒り出すのだ。
(ドリスの下品さは書くまでもないので省略)
ドリスもフィリップも決して褒められた人間ではない。
そんな二人が主人公だからいい。
欠点だらけの二人が、たまさか出会って、ウマが合ったものだから親友になる。
気が合うことに理屈とかない。
合うから合う。合わないから合わない。
ドリスがフィリップの心をつかめたのは、ドリスの優しさもあるが、四角四面のケアしかできない介護士たちに窒息していたフィリップのイタズラ心に火をつけてくれたからだ。
自分の代わりにヤンチャなことをしてくれたり、自分のヤンチャに付き合ってくれそうな相手。
秘書たちの見えないところでね。
そんなん、契約書にない。
首になった介護士たちに全く罪はない。
ドリスはわかりやすいチンピラだが、フィリップだって金を持っているのをいいことに周囲に不機嫌を撒き散らす困った爺さんだ。
そんな割とダメな二人が一緒に行動をする中で、互いの生き方にいい影響を与え合って、お互いの人生がより良いものになって、どんどん絆を深めていく。
どこにでもいる相手から、かけがえのない相手になる。
ただの友達から、永遠の親友になる。
そこが最高なのだ。
最強のふたりとは、ドリスもフィリップも「こいつといる時がイチバン楽しい!」と言う意味だ。
こいつといると、なんでも出来る気になれる。
一人では出来なかったことが出来たり、自分の至らないところを相手がサポートしてくれる。
フィリップには教養があり、お金がある。
ドリスには行動力があり、お節介がある。
いいことはもちろん、ちょっとワルいことだって出来ちゃう。
親友でありながら親子のようでもあり、恋人よりもあけすけのない関係でいられる。
まさに最強だ。
第三者から見れば、ただの不良青年で不良老人。
変なふたりなのに、当人たちは全く意に介さずイチャイチャいちゃいちゃ。
バカップルの話なんですよ。
無難にオペラハウスのシーンの説明で済ませようかと思ったが、一番象徴的なのはナチスジョークのシーンだ。
障がい者を人間と認めなかったナチスに対する皮肉ではあるのだが、フランス人であり障がい者であるフィリップにそれを受け止める義務はないし、ドリス以外の人間が言ったならむしろ激怒していたはずだ。
ところがドリスが言うと許してしまう。
呆れたか、根負けしたか、邪気のなさに笑ってしまった。ここではドリスの不謹慎をフィリップが受け入れているが、他のところではフィリップの不謹慎をドリスが受け入れている。
映画に出てこない部分では、もっとメチャクチャなこと、二人で言い合っては笑っているはずだ。
そういうイケない部分をも共有し合える友達がいるのって、とても幸せなことだよね。
心まで許し合える他人がいること以上に幸せなことなんて、この世にはないよね。
だから、最強のふたり。
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