孤狼の血 LEVEL2
日岡、まんまと騙される(3年ぶり、2回目)。
レベル2というのは、日岡(松坂桃李)はひよっこという意味も込めたダブルミーニングだ。
まだまだレベルが低い。
瀬島がスパイである可能性に気づいておきながら、まんまと騙された。
自分から疑っていたことを自白し、チンタ(村上虹郎)を死なせる原因を作ってしまった。
まだまだ大上さんの背中は遠かったということ。
だからオオカミを探し求める日岡の姿でエンディングとなる。
綺麗な、いや、今回も汚い映画でした。
期待通りに汚い映画でした。
鈴木亮平に尽きます。
大上さんのドラマに匹敵する話を作るのは無理と判断して、ヤクザの狂気を描くことに徹した。
作戦勝ちです。
眼球潰し。
ヨクモマア、ツギカラツギニ、エゲツナイコト、カンガエツキマスネ。
とにかく上林成浩(鈴木亮平)が狂っている。
出所直後にお礼参り。ムショでいたぶられた腹いせにソイツの妹を殺す。
兄がどんだけ酷いやつなのかというと、実は刑務官。
暴力的すぎる上林を押さえつけていただけで、逆恨みもいいとこ。
最初からフルブースト。
会長たちに挨拶に行く。
会長たちのほうが腰を抜かす。
親分と奥さんを焼こうとする。
殺しておいたのに、生きてることがわかる。
でも焼く。
笑う。
めちゃくちゃすぎる……。
ところがただのキチガイではない。
嘘はつかない。
卑怯なことはしない。
快楽の人殺しはしない(おクスリは打つけど)。
彼なりの筋はあるのだ。
上林からすれば、五十子の仇討ちが「人として成すべきこと」で、金儲けにうつつを抜かしてる連中に偉そうなことを言われる筋合いはないし、邪魔してくるつもりなら殺すしかない。それが上林なりの「まっすぐ」なのだ。
おそらく五十子の親父だけが、上林に蔑みの目を向けなかった大人だった。
居場所をくれた大人だったのだ。
上林が相手の目を潰すのは、おそらくは自分に向けられる視線が嫌だったからで、上林を人として見ていない目だったのだ。父親からの暴力は理不尽なものだったに違いない。上林が弱いから、子供だから、親に逆らうなとばかりに殴る蹴るをされたのだろう。
その理不尽を跳ね除けるには暴力しかなく、暴力を振るうことで暴力を喰らい、例の目を向けられる。
刑務官が上林に向けた視線も、そういうものだったに違いない。
悪循環ではある。
上林にも悪循環の自覚があって「死神が憑いている」と言う。
真っ直ぐに生きようとすれば、殺し殺されの世界になる。
どっちが間違ってるか、生き死にで決着をつけるしかない。
ありていに言えば、ツッパリなのだ。
狂ってる社会に対して上林は目一杯ツッパって見せているのだ。
ツッパらないと潰される。
狂ってる連中に潰される。
もちろん上林のしていることだって狂っている。
だが上林にしてみれば、親を殺さないと自分が死ぬと思ったときにもう世界は狂っていて、まともに生きられる場所が暴力団しかないこと自体が狂ってるし、そのヤクザすら金に魂を売って狂ってしまった。
上林もまた、孤独に戦う狼、孤狼なのだ。
上林は子分たちには優しい。
おそらくは五十子にしてもらったことを、自分もしようとしていたのだろう。
だからチンタにも愛情を見せるし、だからこそ裏切りは許さない。だが裏切ったチンタに対しては冷酷非情にはなりきれていない。打ち付けるような重い雨の中、チンタに「みじめじゃのう」と告げる言葉には、チンタへの怒りとともにスパイなんて仕事を押し付けられた彼の境遇に対する憐れみが感じられる。
二人は同じ在日韓国人だ。
残飯でも食わないと生きていけないチンタの人生に、マッポにシッポを振らないと生きていけなかった彼の人生に、上林は自分に近しいものを感じたのかもしれない。一発で死なせたのも上林なりの情けだったのかもしれない。彼は泣きはしないだろうが、雨なのでわからない。
上林にとって日岡は五十子の親父の仇であり、チンタを道具のように扱った極悪非道だ。
日岡にとっても上林はチンタを殺した極悪非道だ。
決着を付けるしかない。
日岡も上林も最後まで相手を理解し得なかったし、日岡は罰されることを承知で上林を殺した。
殺したのは復讐であったり、警察や司法に対する絶望ゆえだろう。
だが、死によって上林を解放した。
ひと足さきに彼を自由にした。
日岡は死ねなかった。
のどかな農村に左遷されて、平和なお巡りさんに甘んじているが、胸のうちにやどる炎は消えることなく燻り続けている。それがオオカミを探しに向かうエピローグだろう。
孤狼は戦い続けるしかない。生き続けている限り。
*
前作の感想
https://filmarks.com/movies/72802/reviews/187188158
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