インターステラー
「インターステラー」は宇宙の物語だ。
最新の考証に基づいた、限りなく美しく、限りなく正しい星々の映像美を本作では堪能することができる。漆黒の宇宙、氷土の惑星、ワームホールにブラックホール、難しい話はわからなくとも、次々と目の前に現れるスペクタクルを味わうだけでも、この映画は満足できる。
話は難しいと言われる「インターステラー」だが、話は難しくない。
相対性理論だの、ニュートン力学だの、運動の3法則だの、作中にはさまざまな法則が乱れ飛び、それらが展開に大きく関わっているせいで難解な映画のように思われているが、実のところ、この物語で描かれる人類の危機は誰でも知っている、ある一つの法則、ある一つの力で解決する。
愛だ。
「インターステラー」は、最新の天文学、物理学に基づいたSFギミックによって物語が進んでいくが、最後の一点で科学を放棄する。
なぜ「どの星に行く?」という選択肢において、アメリア(アン・ハサウェイ)の直感が正解だったのか。
なぜクーパー(マシュー・マコノヒー)は五次元人(人???)の助力を得ることができたのか。
科学で説明をするなら、偶然と言うしかない展開で、この物語は解決してしまう。
偶然とは何か?
奇跡だ。
愛による奇跡が運命を変える話、それが「インターステラー」だ。
ノーラン監督は、話の結論に合理的なエクスキューズを用意しなかった。あえて穴を作っている。ブラックホールのような穴を。こんだけエクスキューズで固めた作品の中に、わざと欠落を残してある。
どういうことか?
現実の世界が法則で動くように、物語の世界は感情で動いている。
映画の世界には、物語物理学が存在する。
物語の世界においては、見る者の感情が、作中の事象を支配する。
物語を創造するのは作り手だが、作り手は見る者の感情を想像しながら、感情を最大限に喚起させる物語を構築している。
善が勝利し、悪が敗北すること。
法の網をくぐり抜けることができても、天罰が落ちること。
ありえないほどの確率で、愛する二人が再会できること。
現実ではそうそううまくはいかないことでも、作り手はすべてのつじつまを作り出せるし、確率すら支配できる。
ありえないほどの偶然を、合理的な理由によって必然に変え、二人を再会させてもいいし、
ありえないほどの偶然を、ありえない偶然のままで、二人を再会させてもいい。
前者はともかく、後者でも良いのはなぜか?
現実を超えた奇跡に、人は希望を見いだすことが出来るからだ。
見る者の心が動いた瞬間、偶然が必然になる。
それが映画だ。
ブラックホールの果てに「無限本棚」があって、本棚の隙間から、娘の姿を見ることができる。
会話をすることができないけれど、本を落とすことで、娘にメッセージを伝えることができる。
「脱出不可能」なブラックホールの中の観測データを「中にいたまま」地球に送ることができる。
それによって人類は救われる。
そこに至るまで、徹底的な考証と構成で、展開の合理性を保障し続けたノーラン監督はここで一気にファンタジーに舵を切る。
ありえん!
だからこそいい!
この連打でノーランは物語をクライマックスに導いていく。
なぜ五次元人はクーパーを助けたのか?
合理的な答えを脚本上に用意することなんてホントは簡単だ。
だがノーランは、あえて話を胡散くさくした。
クーパーに「俺たちが彼らを呼んだんだ」と言わせるだけにして、その理由は謎のままとした。
もちろんSF的な方向から補完を組み立てていくことは可能なのだが、「愛」の一言で解釈することも可能だし、この物語は「愛が地球を救った」と解釈したほうがいい(とはいえ解釈を強制しないのがノーラン映画なので、答えは人の数だけあって良い)。
なぜか?
冒頭、教授はクーパーを騙して、宇宙船に乗せる。
なぜなら人はエゴの生き物だから。
教授もまたクーパーをエゴの人間だと解釈し、嘘の話で宇宙に送り出したのだ。
しかし、物語の中ではエゴを持った人間がさまざまな災厄をもたらし、エゴを捨てた人間に正解の選択をさせている。
人類を救ったのは誰か?
まずはクーパーだ。
彼はエドマンズの惑星に行ける一名をアメリアとした。自身を犠牲にして、彼女を向かわせた。
クーパーは死を覚悟したが、ブラックホールでも生き延び、五次元人の助力を得て、娘にデータを送ることに成功し、人類を救うことになる。
次はエドマンズだ。
彼は人類が居住可能な惑星にたどり着いた(アメリアはヘルメットを脱いでいる)。だがエドマンズはコールドスリープに入るよりも自身もコロニー建設に尽力することを優先した。アメリアと再会することより、人類のためを選んだからだ。
(劇中では、エドマンズの墓標が提示されているだけなので、彼の死因は分からない。だがコールドスリープをしていれば、アメリアと共に写って然るべきなので、しなかったと解釈した)
クーパーだってエドマンズだって愛する人に会いたかったに違いない。だが、自身の置かれた現状の中で、己を捨てて、最善の選択をした。それが結果的に人類を救った。
ワームホールを超え、銀河を横断し、ブラックホールに突入し、太陽系に帰還する。
とてつもなく広大な物語だが、言いたいことはとてつもなくシンプルだ。
愛が時を超える。
愛が人類を救う。
とてもロマンティックな映画だ。
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