機動戦士ガンダムSEED FREEDOM

ありがとう、しかない。

ただただ感謝の気持ちがあふれていく、そういう映画だ。


一度は制作を中断した作品を復活してくれたという意味でもそうだし、登場人物たちの個性が輝く場面をたくさん見せてくれたという意味でもそうだし、この20年という時間は意味あるものだったんだと思わせてくれたという意味でもそうだ。


20年という時がくれたのは、見ている側の気持ちの変化だ。


深すぎる愛は、怒りにも変化する。

例えば自分は「Destiny」の結末が許せなくて、シンの不遇が許せなくて、放映当時ははっきり言ってキレていた。最後がダメなら全部ダメとばかりに、好きだったものも見えなくなってしまった。


20年も過ぎると、愛しか残らない。


作り手もまた、20年分の変化を見せてくれる。

作画、特に2Dと3Dを融合させたメカ作画の進歩を一番として、魅せる演出も素晴らしい。


本作でもシンはアスランに噛み付くし、キラの引き立て役というポジションは変わらないが、それがちゃんとシンの愛嬌になっている。キラには憧れ、アスランには甘え、そして愛機デスティニーへの思い入れが十二分に描かれている。


シンだけではなく、主要キャラ全員がそのように描かれている。


サービス過剰なところは、作り手からファンへの感謝状みたいなものだろう。

最終決戦はもはや、主人公たちの大立ち回りを魅せるためのエンターテイメントショーだ。


38万キロ離れた地球の大都市を焦土と化すほどのビームをゼロ距離で受けて無事なアカツキ。

自機の幻をみせるレベルではなく、文字通りのメカ分身を果たしてしまうデスティニー。

そうはならんやろ、のムーブばかりを決めていくズゴック(の中のジャスティス)。

ただでさえ最強の機体に、さらに最強の追加装備を追加して敵を圧倒するフリーダム。


ツッコミどころがあるレベルの話ではない。

ツッコムところしかない。


コズミック・イラ世界のリアリティを、作り手みずからブチ壊しにかかっている。

リアリティをブチ壊すようなフィルムを作っても、ファンの中にある「コズミック・イラ」は壊れないことを知っている。


いわゆるファンサービス。物語が終わった時点で世界のリアリティは元に戻る。

いわゆる「夢でも見たのでしょう」案件。これは作り手とファンの共同正犯なのだ。


ハチャメチャも、20年分の愛に対する感謝の利息。


そして一番の感謝は、監督から、亡き妻であり「SEED」シリーズの脚本家・両澤千晶に捧げられたものだ。


物語の中盤、主人公キラは心の限界に達して、仲間たちに当たり散らすシーンがある。


福田監督の出世作「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」の主人公である風見ハヤトを彷彿とさせるナイーブさ、無様さも弱さもすべて曝け出して内心をブチまける描写の巧みなまでの上手さに、ハヤトやキラは監督の分身なんだな、と思った。


だとすれば、本編のラクス描写は監督の妻への愛情が重ねられているのだろう。


過去作と本作を比べて、人物描写が一番深くなったのはラクス・クラインだ。


「必要だから愛するのではありません。 愛しているから必要なのです」 


彼女がこの物語のテーマを体現する。

いくらでも安全地帯にいていい彼女が、みずからプラウドディフェンダーに乗り込み、最前線に出撃する。ひとりで戦うキラに寄り添おうとする。危険を分かち合おうとする。しなくてもいいことをする。遠隔操縦で送り込めるディフェンダーにわざわざ乗り込むのは、愚かなことだが愚かなことではない。


敵の最強ビームの真っ只中にパイロットスーツで飛び出すのは、ほんと、どうかしてると思うけど……。


それすらも、愛だ。


作劇の上では、ラクスからキラへの愛として描かれている様々なことは全て、監督から亡き妻への愛だ。自分を支えてくれた彼女の献身に対する感謝が、ただただラクスの描写に重ねられている。


監督だけではない。

この作品を埋め尽くしているのは、双方向の感謝だ。


作り手からファンへの感謝、ファンから作り手への感謝、キャラクターへの感謝、キャラクター同士の感謝、物語の続きを見せてくれたことへの感謝、見事な映画を作ってくれたことへの感謝、いろんな感謝の気持ちが、見始めた瞬間から、見終わる時まで続いていく。そして今も。


やはり、ありがとうしかない。

ありがとう。

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