あんのこと
純粋に彼女の人生に涙し、社会の暗部に暗澹たる気持ちになり、悪への深い憤りを感じ、自分と彼女の違いは「運」でしかないことを思い知らされる。入魂の作品。
どんなに頑張っても、どんなに努力をしても、ちょっとしたことで台無しにされる。DV親の家に生まれたら、善人の顔をした悪党を信じたら、新型コロナのような疫病が流行したら……。
スクリーンで苦しみもがく彼女と映画なんて見ていられる自分を分けているのは「運」でしかない。
キャスティングが素晴らしかった。あんという難しい役を演じ切った河合優実、邪悪の化身というべき毒母を演じた河井青葉、善と悪の二面を持つ刑事の佐藤二朗、ナイーブな正義感で全てを台無しにするジャーナリストの稲垣吾郎。バッチリだった。
母親は本当の本当にひどかった。最初からレベルマックスにひどいのに、想像を超える邪悪さを見せつけてくる。「この母親さえいなくなれば」と何度思ったことか。(素晴らしい脚本と演技だということです)
最後のブルーインパルスも皮肉が効いていた。空虚な善意。なんとかなる人が励まされる程度の、薄いパフォーマンス。かろうじて生きていた彼女の、最後の一本の糸が切れる瞬間に、これ以上のものはない。
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