ラストマイル
もしAmazonの荷物の中にランダムで爆弾が入っていたら?
その爆弾テロに深い社会の闇が隠されていたら?
たくみに仕掛けられた謎によって、事件は二転三転し、退屈する間を与えない傑作ミステリ。
もちろん映画では架空の会社になっているが、誰がどう見てもAmazon的なネット通販がもたらしたブラック労働がテーマ。数にものを言わせ、非正規社員と物流会社を奴隷のように扱う超大手ネット通販会社が引き起こした事件を主題としている。
ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の登場人物が多数登場するが、ドラマの知識はいっさい必要ない。いきなりこの映画を見ても大丈夫な作り。
さりとてカメオ的な扱いではなく、遺体解剖が物語を大きく展開させる作りにしているなど、ちゃんと彼らが出てくる意味になっている。次の作品で羊急便やデリファスが登場すれば、さらに作品世界のディテールが深まることだろう。
欠点と言えば、劇中に良心を託せる登場人物がなかなか出てこないところ。主要登場人物がいずれも曲者で、善と悪を行ったり来たりするので、安心して気持ちを乗っけることができずモヤモヤする。
名探偵役の出てこないミステリとでも言うべきか。
この映画、刑事を視点にして事件を追わせれば、すっごく見やすくなる。
それをしなかったのは物流をテーマにするにあたり、映画の観客も物流の闇に加担している側である以上、刑事という安全な第三者視点からではなく、当事者の視点でモヤモヤしてほしい、みたいな意図があるのかもしれない。
MIU404の映画にしても成立するプロット(404の誰かの大事な人が巻き込まれた形にする)だが、あえてそうしなかったのだろう。おかげで謎が謎を呼ぶミステリとしての純度がとても高い。
あと「悪が成敗されてめでたしめでたし」な結末でもない。映画としてのコントロールはちゃんと効いていて、一旦緊張を解いた後に「最後の爆弾阻止」でクライマックスを作っている。
最後に倒される悪がいないことによるマイナス評価は承知の上なのだろう。
誰かを逮捕して終わりにしなかったのは、この問題を解決させてしまうと、物語が映画だけの絵空事に閉じてしまいかねないからだ。自分たちの暮らす世界とは別の世界の話に。
闇は晴れないが、希望を描いて終わる。
映画に爽快感を求める人には不向きなところはあるが、上映時間中、自分はずっと引き込まれていたのでスコアは高めにつけた。
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