第4話
それなのにお母さんが『結婚結婚』と急かしてくることが、非常に鬱陶しい。
結婚したい優子に言わせれば、わたしは『虚しい女』らしいけど。
「勿体ないよねぇ。朱莉、可愛い顔してんのに結婚願望がないとかさぁ。料理もできるし、お裁縫も出来るし、家事スキル最高なのに化粧っ気がないからなぁ。もっと自分を磨けばいいのに」
悪かったわね、オシャレとか興味なくて。
大学生の頃はそれなりに化粧とかオシャレとかしていたが、社会人になったら着飾ることが億劫になった。茶髪に染めたり巻いたりだとかしていた髪の毛も、プリンになると面倒臭いので真っ黒な地毛に戻し、手入れが楽なショートボブにして自分にかける時間を大幅に減らした。その分家事スキルを身に付けたというわけだ。自分よりも住み心地最優先。お家大好き。
「逆に優子はどうして結婚したいの?」
そんなに結婚結婚と言うんだったら、わたしを納得させるような理由を述べてほしい。食べ終えた焼き鳥の串を串入れに入れて、優子を見た。彼女は人差し指を立てて「そんなの1つしかない」と言い放った。
「寂しいから」
あんたの方がよっぽど虚しい女じゃないの。内容に中身がなさ過ぎて、わたしの気持ちが傾くことはなかった。
「ねぇ、そういえばイケメン新人くんはどう?」
優子はカウンターの向こうにいる店員さんに「焼き鳥盛り合わせ2人前追加で」と注文した後、レモンサワーを一口含んで訊いてきた。
優子に総務部へイケメンが入社して来たと言った時、わざわざ岡田くんの顔を確認しに来た。彼女の評価は『確かにイケメンだけど、あたしは佐野部長派』らしい。
「どうって……相変わらず無愛想で何考えてるかわかんない」
「ミステリアス系年下イケメンねぇ……やっぱりあたしは爽やか系年上イケメンで色気ムンムンの佐野部長推しだなぁ」
あんた両手にイケメンって総務部最高じゃないの、なんて言われた。わたし、仕事にイケメンも色気もいらないと思うの。
追加注文した焼き鳥が目の前に出された。次は塩に手を伸ばす。
「でもコミュニケーション取れないから正直やりづらいんだよね……なんで総務部来たんだろ」
「コミュ障の奴は営業には向いてないね。どこの部署志望で入ったのか知らないけど、社長がイケメンくんは総務部に向いてるって判断したんじゃない?」
確かにうちの社長は人を見る目があった。なんでも、設計希望で来た人を『君は営業部に向いてる』と言って入社させて、辞めずに昇進の道を歩んでいる人がいると噂で聞いたくらいだ。離職率も低いし、仕事の満足度も高い。申し分ない会社に就職できたことは、本当によかったと思っている。
「まぁ、まだ1ヶ月だし、これから徐々に打ち解けていくよ」
「だといいけど……」
わたしと優子は同時に串を串入れに入れた。
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