第32話 元プロさん、作戦会議

「……なぜ気づいたんです?」


 俺とアミアの向かいの席に座り、ドリンクとバーガーを頼んだnamekoさんとし〜たけさんに俺は質問する。


「なぜって……昔のままのプレイスタイルに声と話し方と『狂犬』という二つ名、そしてelle式の完璧な使い手……えっ、隠す気あったん?」


 流暢な関西弁で正論をまくしたてられ、俺はぐうの音も出ない。


 いや、声ってだって……俺が表舞台で話したの、世界大会で優勝した時のインタビューだけだぜ?


『狂犬』だって、第1回のときのインタビュアーの声優さんが一瞬ポロッと言っただけだし……。


 elle式は────


「え? elle式3年前から更新してないのに、使い手少ないんですか? あ! さすがにelle式よりいいキャラコンが開発されてると思いますし、elle式が廃れただけってことですか!」

「ちゃうで?」

「えぇー…………」


 いや、elle式は俺が開発したものだし、めちゃくちゃ強いとは思ってる。


 ただ、それでも4年前の技術であることには変わりない。


 ……いや、これはあれか!

 世界大会前に、敵に情報は渡さない!っていうし〜たけさんの戦略か……!


 っは、迂闊だったぜ……。


「ただ、それだけで確信持てるものなんです?」

「いーや? 全員が全員ってこととはちゃうと思うで。ワイはエルとアミアの大ファンやったから、大会とか何回も見返してたからな〜」

「……ぽっ」

「かけ……エル、多分そういう回じゃない」

「アミアは同性婚反対派ってことか」

「違うな? あと今のご時世はそれ叩かれるかもから止めなさい」

「はははっ! 何やー? あんたら付き合っとんのか?」

「「それだけは無い」」

「なかええな〜」


 し〜たけさんはオレンジジュースをストローでちゅーっと吸い上げて飲む。


 ちくせう、大人に言い勝てない。


「あれ、てか『結構いる』ってことはし〜たけさんとnamekoさん以外にもいる、と……?」


 今更ながらさっきし〜たけさんが言っていたことを思い出し、恐る恐る聞いてみた。


 さっきも思ったけど、俺がelleってことに気づくのはだいぶ限られた人だから、言うほどたくさんはいないと思うが…………


「え、うん。まあまあいるで」

「まあまあ……!?」

「いや、それはちょっと盛ったかもしれんな。エルはちょっと異次元すぎたせいで、プレイ研究をずっと続けたプレイヤー自体が少ないからなー」

「つ、つまり……!?」

「せやなー、俺がDMで確認されたのは世界的に見ても2、30人くらいやし、たしかその全員が今回世界大会に出場してるな」


 いや思ったよりいるぅ……いや、でもそれだけいてまだ騒がれてないってことは、もしかして──


「もしかしてみんな黙っててくれてるんですか?」

「うーん、半分正解?」


 この噂になっていないという事実に対して、まだ半分不正解の要素が残ってるのか……。


「俺が黙っとけーって忠告しといたで!」

「あ、あぁーなるほど……ありがとうございま、す?」


 ちょっと微妙な反応を返してしまった。


 ……みんな、気を遣って黙っててくれてるのなら、「言っていいよ!」って伝えて、『期待の新人はまさかのelle!?』って騒がれようと思ったのに。


 し〜たけさんとnamekoさんの配慮なら無駄にするわけにもいかないし、今回も我慢するか……。


 そして夕飯を食べ終えた俺たちは現地解散して、各々ホテルへと帰った。




 午後9時。


 俺の部屋にはアミアが来ていた。

 世界大会前日の作戦会議を行うためである。


「翔よ」

「どうした相棒よ」

「この部屋に椅子が1個しか無くて、それを俺に譲ってくれたのはありがたいと思ってる」

「きゃーエルさん優しいー」

「んで、お前がベッドに座るのも分かる」

「ならいいじゃん」

「せめて起き上がれよ。せめて服くらい着てくれよ。あと、俺のバッグを枕にするな!」


 ふむ、人の部屋なのに騒がしいやつだ。


 閑話休題。


 服を着てベッドに座り直した俺は、スマホでFLOWのマップとツイッターを開く。


「さて、蓮──いや、アミア。明日はどうする?」


 はっちゃけた雰囲気から一転、真面目な口調でアミアに問う。


 どの大会も得意のフィジカルでゴリ押す俺たちには珍しい、綿密な作戦会議である。


「降下表明ってどのくらいされてる?」


 FLOWの世界大会では、第2回世界大会でとあるチームがツイッターに「本戦ここ降ります」というツイートをした。


 そのチームは対面がつよすぎたこともあり、本戦ではその街に誰も降りず、物資を独占するということがあった。


 それ以来、FLOWの世界大会では『降下表明』なる、独自の習わしができたのだ。


 全てのチームがするわけではないが、かなりのチームがしてくれるおかげで、戦略の幅が広がる。


 ちなみに、第2回世界大会でそれをしたチームっていうのは、俺たちのことであるが。


「おお、すっげ。今じゃこんなにしてるのか」


 世界大会で解説を務める方がまとめてくれていたのでそれを見る。


 すると、30チームの内24チームは既に『降下表明』をしていたのだ。


「うっわ、セントラル付近はだめだわ。前回大会の世界王者がセントラルで、2位も近くの街に降りるっぽい」

「激戦区すぎるな……んで、ヴォーリアは?」

「いないな。ま、予想通りか」


 俺たちはヴォーリアに降りるチームはいないだろうと踏んでいた。


 大会では物資の乏しい過疎地も生存できるという意味で人気になるが、そんなところにアジア大会で俺たちが降りたからだ。


 し〜たけさんから、俺たちは世界中から注目されていると聞いていたため、なんとなく想像していた。


「どうする?」

「難しいな……」


 FILM-0接待のようだが、俺たちは即決をすることはない。


 いくら表明している人がいなくて、生き残れる確率が高いとはいえ、『物資が少ない』ことには変わらないのだ。


 アジア大会では漁夫の利を前提だったからよかったが、世界大会で漁夫の利をするのは難しいだろう。


 それにリングが外れたときの移動難易度も、アジア大会とは比じゃない。


 ──アミアの判断に任せよう。


「……エル」

「ん?」

「自分の実力落ちたと思うか?」


 空白の3年があっての質問だろう。


 だが、そんなの即答だ。


「アジア大会を見てどう思った?」

「人外」

「それはちょっとひどいけど、そういうこと。俺はいつまで経っても世界王者だ」


 淀みなく、俺は言い切る。


 俺がにっと笑うと、アミアもくしゃっと顔をゆがめて笑った。


「うっし、なら決定だな──!」


 この20分あと、俺は『ヴォーリアに降ります』とだけツイートした。

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