FLOW世界大会編
第31話 元プロさん、唐突な危機
「で、今アメリカにいるってわけ」
「俺も一緒なんだわ」
俺は、日本とは比べものにならないほど大きいハンバーガーにかぶりつきながら言う。
店の中はめちゃくちゃ賑わっていて、異国語である俺たちが大声で話したところですぐに掻き消される。
時は夕暮れ時、場所はアメリカ──ロサンゼルス。
9月26日金曜日、学校が終わってすぐの午後5時に日本を出国し、10時間の空の旅を経てアメリカについた。
その時の時刻はアメリカ時間でいうと、だいたい午後1時くらいだっけか……?
まぁなんでもいいか。
その後、俺とアミアはホテルにチェックインし、大きな荷物を置いてアメリカを観光して、今は夕飯を食べているという状況だ。
なぜ急にアメリカに来ているのかというと──
「明日と明後日だな、世界大会」
「まさかまた戻って来るとはなぁ……今回出場した理由とか、『騒がれてー』だったのにな」
「アミア、それ以上は舌切るぞ」
「なんでだよ事実じゃん……あと火力たけーなおい」
バカ話をしながら店の外を見ると、視界にまったく収まらないほどのむちゃくちゃでかい建物が。
信じられないことに、FLOW世界大会の会場はあそこらしい。
「第1回はもっと小さい会場だったけどなぁ……」
「ちょ、翔。Vlog撮影中に第1回って言っちゃ駄目だろ……」
自分の好きなことを文章で表現する一般的なブログの動画版であるVideo blog──通称Vlogの撮影をしていた俺にアミアがツッコむ。
せっかくVTuberデビューして初めての海外だから撮ろう、と思いつきで始めた。
けどやっぱ配信ほど緊張感無いから言っちゃだめな情報もポロッと言っちゃうなぁ。
「そういうアミアもめっちゃ本名で呼ぶじゃん」
「マジだわすまんレイ」
「ちょ、今録画してないからその名前で呼ぶなよ」
「はっ倒すぞ」
「最近当たり強くない?」
「翔がな?」
「需要あるかなって」
「あっても見れるの翔だけなんだわ」
「…………きゃっ」
「頭の中彼岸花かよ」
「せめてお花畑に留めてくれよ」
それはそうと、やっぱ本場のハンバーガーうまい。
なんか5年前と4年前も食った気がするけど、多分気のせいだろう。そういうことにしたい。
「ってか、あの2人まだかな」
アミアが口をもごもごと動かしながら質問してくる。
「もうそろだろ。向こうも忙しいとは言ってたけど、『今から向かう』っていう連絡も来てるし」
「あ、連絡来てたんだな。それなら、うーむ……ハンバーガーもう一個いけるか……?」
「中性爆食ショタ」
「あ?」
「ごめん、ツイッターに投稿する文章がつい口に」
「待って投稿したんか?」
「…………あ、来たみたいだぞ! ここで〜す!」
「クッソマジで投稿してたらホテルで覚えとけよー!!!」
アミアの叫びを無視しつつ、店の入り口付近できょろきょろしている2人の男性に俺は手を振る。
2人は俺に気づき、手を振りながら近づいてくる。
たしか2人とも25歳なんだっけか。
「どうも」
「初めましてやな〜、アミアくんにエルくん」
「初めまして」
「お二人とも、初めましてです」
2大会連続アジア1位に輝いた、namekoさんとし〜たけさんだ。
彼らも世界大会への切符を掴んでいたのはもちろんだが、ツイッターで同じ飛行機と知ったため、こうしてエンカを図ったのだ。
それにしても、FPSは20歳くらいがピークって聞くのに、このチームはほんとすごいや……。
どうやらアジア本戦の第一試合、俺の動きを読んで倒したのもこの2人だったらしい。
素直に称賛の気持ちしかな………………
「今、なんと?」
「おっそいわー!」
俺がやっと気づくと、し〜たけさんはケラケラと笑い始めた。
「ちょ…………俺はレイですよ?」
「あぁいいでいいで、もう隠さんでも! レイ=elleってことに気づいてる人、もう結構いるかいな!!」
スゥー………………………
俺はコーラをグビッと飲んだが、し〜たけさんのニッコニコの笑顔はそのままだった。
あぁ〜〜〜…………え????
《あとがき》
皆様、あけましておめでとうございます。
今年も本作だけでなく、もかのの作品をよろしくお願いいたします。
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