第30話 元プロさん、心機一転して事務所の先輩とタイマンする
ナルクは俺を、マイゲム本社にある配信やゲームの環境が整った部屋に案内してくれる。
「すっげ、VTuberにも対応してるんですね」
「もちろんっす! なんてったってプロチームだからな!」
「……ですね」
何の理由にもなってなかったが、そんなに元気に言われれば何も言い返せない。
この部屋には俺とアミアとナルクの3人のみ。
マネの男の行方は……まぁ忘れよう。
「もう1回確認するっすけど、エルってことは黙ってればいいんすよね?」
「それでお願いします。今更バレたらなんかいろいろと荒れそうなので」
最終確認も済ませたあと、ナルクのチャンネルでコラボ配信が幕を開けた。
【下剋上】あのRayとタイマンするぞ!【#FLOW】
「ごめんっす。始める前に聞いておくべきだったっすけど、この『下剋上』って俺が下なんすよね?」
「そっすそっす」
「活動歴、俺の方が長い気がするんすけど……あ、どうもマイゲム所属のナルクっす」
「あ、レイです」
「あ、アミアだぞ」
:草
:wwwwwww
:なんでレイがいるとこうもすんなり始まんねえんだよw
:ぬるっと挨拶すな
:「あ、」じゃないんだわ「あ、」じゃ
:待ってアミアもいるの!?
:あ ん た は 聞 い て な い
:あの……FLOWの日本トッププレイヤーのコラボってかなり大型だと思うのですが……
:大々的に告知するものなんだよなぁ
:お前ら…………ナルクだぞ?
:そっかごめん
:ほなしゃーないか
よかった、やっぱそういうキャラであってたんだ。
てか、言われてみればたしかに、世界大会常連と第2回世界大会の優勝者と、不服ながら期待の新人だもんな。
そんなことを思いつつ、改めてスマホで俺のアカウントを開く。
7分前
@Nalc_MicroGaming のチャンネルに出演します。
あ、今からです。というかもう始まってます。
……ふむ、素晴らしい告知だと思うがな。
まあいいか。
「んじゃ、早速戦おうぜ!」
「そんな野球しようぜみたいなノリで始まるんだ」
「え?」
「いやなんでもないです。やりますか」
:こいつ……ナルクの扱いがもう分かってやがる
:あんま扱いって言わんほうがええな?うん
:ナルクのおかげでサクサク進むな
:↑ぽじてぃぶぅー
1対1での戦闘を何回か行い、先に◯勝した方が勝ちであるタイマンをFLOWで行う場合、射撃訓練場というモードを利用する。
これは実戦と同じマップを自分1人で使ったり、パーティーを組んだ人と一緒に遊べるモードだ。
敵に邪魔されることがなく、また設定をいじればリング収縮も無くせるため、エイムや立ち回りの練習に最適である。
ちなみにelle式の研究もここで行っている。
「青コンテナでいいですか?」
「おけっす!」
俺はマップ右奥にある、タイマンを行う定番の場所を提案する。
お互いが青コンテナを挟んで立ち、ピンなどの合図でファイトを始める。
今回はアミアの合図だ。
「あ、リスナーのお前らに言っておくがアミアは今回観戦だからな」
「そうっす!」
「なんかナルクバカっぽいな」
「ちょアミア、言ってやるなって」
「バカっぽいってことは────バカではないってことすか!? やったっす!」
「…………おいレイ、こいつ発想の天才じゃね?」
「いやアミア……それ思った」
:草
:バカすぎて感心することあるんだw
:ナルクのバカさには我々リスナーも大変困惑しております
:迷惑はしておりません
:おバカすぎておハーブですわ
そんなことを話しながらタイマンスポットに移動し、コンテナを挟んでお互い立ち位置についた。
「お前ら、いい?」
「「おけっす!」」
「レイだけは普通に返事してくれよ」
「まるで俺が普通じゃないみたいな言い方っすね」
「ナルクはちょっと特別すぎて」
「なるほどっす! やっぱ俺はすごすぎるってことすね!」
「…………」
「レイ、黙らないの。まぁいいか始めるぞ────3、2、1、ファイト!」
アミアの掛け声とともに、タイマンが始まった。
この場所でのタイマンは、コンテナ以外の障害物がほぼない。
近くに崖と木があるが、コンテナからは離れているため、『岩蹴り』などを使う前に撃たれてしまう。
そのため、足音などをよく聞いて相手の動きを把握しつつ、コンテナをうまく利用して戦わなければならない。
「さー、両選手どう動くでしょうか!」
:耳が妊娠する
:あまあま実況ええですなぁ……
:実況asmrがあると聞いて
:おいアミアのエグい視聴者たちが流れてきたってw
:ノリノリアミアいいね
今回のルールは両者武器は好きなのを1つのみで、俺はSMGを、ナルクはショットガンを持っている。グレネードや簡易シールドなどのサブは無い。
また、アビリティの使用は可能となっている。
まぁタイマンで使えるのなんてそんなにないんだけども。
よって攻め方は、コンテナの左右どちらか、または上に登って攻めることになる。
俺は自分のエイムに絶対の自信があるし、また散弾銃相手に上から撃たれるのはかなり厳しいので、上1択だろう。
しかしナルクは、俺が『elle』であるという大きすぎる情報を持っている。
3年前のこととはいえ、俺の考えることはナルクの身体が覚えているだろう。
となると、最初だけしゃがんで進むことで左右どちらに行ったか混乱させて、急に攻撃して先手を取るのが最善手────
「でもそれ、面白くないよなぁ?」
俺はコンテナに登りながら言った。
「おーっとレイ選手! なんかいろいろ考えてそうだったが、結局面白さに全振りだー!!」
:草
:いいねぇレイらしい
:レイ「ごちゃごちゃうるせえー! 正面突破じゃー!!」
:↑そこまで脳筋じゃないだろ……えっだよな?
:あの……ちょっと否定できない()
俺がコンテナに登ると、案の定ナルクも登ってきた。
「ちょちょちょ……! ショットガン相手に真っ向勝負っすか!?」
ショットガン──散弾銃はその名の通り弾を散らばらせながら撃つ銃で、近距離限定となるがその分一発の火力が高い。
だが、それは散らばる弾をすべて当てた場合の話。
カス当たりになればなるほど、ダメージはかなり下がる。
つまり、ナルクが反応出来ない速度で動けばいいわけで──
「──……アビリティ、発動」
「はぁー!?」
俺が発動したのは、大会でもめちゃくちゃお世話になった最高速度のアビリティ。
「ちょちょ……! コンテナの上とかいう狭い範囲で使っても弱体化っすよ!?」
「先輩それは戦ってから話しましょうよ」
ダンッ!というショットガンの音が聞こえるが、俺に入ったダメージは僅か20。
あと10回当てれば倒せるが、ナルクが俺のスピードに対応する前に──俺のSMGが火を吹く!!
コンテナの横を端から端まで駆け抜けながらナルクへエイムを合わせた俺は、ジャンプしながら空中で引き金を引いた。
ダダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!!!!
その間にナルクはコンテナから降りつつショットガンを撃つ。
さすがのエイム力でその弾はしっかりと俺に命中するが、距離減衰により倒し切ることは出来ない。
だが、この距離はSMGの射程圏内!
装填された弾を使い切る頃には、ナルクはダウン体となっていた。
「ハイ1本」
「なんすかそれぇぇぇ!!!!」
「何って、今回は普通の戦いだが……」
「あんたの普通は俺たちの普通じゃないんすよ!」
:珍しくナルクがまともな事言っててワイ感動
:これだけで感動されるナルクにワイ涙(爆笑)
:笑い泣きかいww
:レイつえーマジで
:タイマンでおふざけとかじゃなくてアビリティ使う人ひっさびさに見たわ……
:マ? 俺初めて見た
今回のタイマン対決は5本先取なのでその後も数試合行われたが…………結果は言わなくてもいいだろう。
また、工藤さんの指示のもと、その後2日ほどかけてマイゲムの内情が調査されたが、私情で動いていた者は数人しかいなかったらしい。
そのためすぐに再編され、俺たちの希望もあって公にされることなく幕を閉じた。
強いて言えば、ナルクが「俺もSTAR SKY行きてぇ!」と言っていたが、せめて4期生のデビューに合わせようねとなだめられていた。
夏休みラストは激動の日々だったが、そんなことを気にするまもなく退屈な学校が始まった。
──しかし、それもすぐに終わりを告げる。
なぜなら────!
世界大会が9月末に決定したからだ──!!!!
《あとがき》
elle vs 過去編、これにて完結です。
「面白かった!」
「ナルクはよSTAR SKY入れ!」
と思ってくださった方、ぜひ星を、また星1星2の方は1つでも上げてくださると幸いです。
新年より、皆様お待ちかねの『FLOW世界大会編』開幕です!!!!
また、2024年も最後ということで、以下少しだけ挨拶を述べさせていただきます。
2024の12月より連載スタートした本作を応援してくださりありがとうございました!
たくさんの読者様に愛されながら年を越せること、本当に嬉しく思います。
本作は連載1ヶ月が経ち、ランキングも少し落ちてきましたが、今後も【今】応援してくださっている読者様の期待に応えられるような作品作りを頑張ります!!
2025年もよろしくお願い致します!!!
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