第29話 元プロさん、まさかの展開に大困惑

「く、工藤代表取締役社長……! 本日はどうしてここに……いや、それよりも、代表取締役社長がなぜただの高校生と共に──」

「君にはとりあえずこれを渡しておく」


 マネの男の言葉を遮るように工藤さんは2枚の紙を渡しながら言った。


「これは……?」

「開示請求の結果と解雇予告通知書だ」

「ッ!? 私が何をしたと言うのですか!?」

「しらを切るのはもうやめろ。この件には既に警察が関わっている。そもそも、elleの優しさでお前に猶予を与えてただけで、有無を言わせず会社ここから追い出すこともできたんだぞ」

「…………あなたは、どこまで知ってるのですか?」


 マネの男はついに抵抗を止め、生気を失ったような様子で質問した。


「ふむ、どこまで、か…………あぁ、お前が担当している選手が世界大会に行けなかった逆恨みでエルを追放したことはもちろん知っているぞ? あ、言い忘れていたがマイゲムの社長にも解雇予告通知書を渡してるからな」

「!?」

「ちょっと真面目に調べれば、お前ら2人が繋がっていることくらい分かる」


 パサッと紙が落ちる音がして、俺はマネの男に視線を送る。


 彼は天を仰いでいた。


 もう抵抗する必要もないのか、それとも────


「えっと、話は終わりすか?」


 俺がいろいろと考えていると、ずっと空気となっていたナルクが口を開いた。


 そういえばナルクは結局どっち側なんだ……?


「あ、あなたがあのエルなんすよね!? ってことはその隣のあなたがあのアミア……?」

「あーっと……」


 アミアは言葉に詰まりながら工藤さんを見る。


 まだ敵か味方か分かってないやつに正体を明かして良いのか悩んでいるのだろう。


 視線を送られた工藤さんは。


「……まぁ、いいんじゃないか?」

「おい適当すぎんだろ」

「アミア、敬語」

「はは、いいぞお前ら。今日だけな」

「うっす。らしいぞアミア」

「だからってすぐに敬語外すのはどうかと思うぞ、エル」


 さっきまでの地獄のような空気と打って変わって、茶番を始めてしまった。


 だがナルクを見ると目を輝かせ、肩を震わしていた。

 なんというか、まるで憧れの存在を目にした子供のようだった。


 …………もしやこいつ、敵とか味方とか理解してないただのおバカでは?


「あははははは!! ナルク、あなたが忌々しく感じていたFILM-0の2人です! 今あなたが感じているその感情をぶつけなさい!」

「……うす!」


 マネの男が狂人のように笑いながら言った。


 まさかその眼の輝き──ナルクが怒り狂ったからだったのか!?


 俺がそんなことに気づいたときには──もう遅かった。


 俺に向かって駆け出したナルクは誰も止めることが出来ず近づいてきて────!




「俺と────タイマンしてほしいっす!!!」




「……うぇ……?」

「「え?」」

「ふふふ。いいな若者は、血気盛んで」


 え、いやいや工藤さん? ちゃいますやん、その反応は。


「な、何を言ってるのですか!? あなたは──」

「え、いや感情ぶつけろって言ったじゃないっすか? 俺の感情、最強と戦いたいっていうワクワクをぶつけたんすけど……」


 ナルクはきょとんとした様子でマネの男に言う。


 こいつ、愛されおバカってやつじゃん……好きだわ。


「こいつは私が対処しておくから、若者は遊べ」


 工藤さんはにっと笑いながら言った。


 えーっと…………


「……じゃ、配信しながらやる?」

「あざっす!」

「…………」


 はいそこアミア、頭を抱えない。







《あとがき》


この展開は誰も想像してなかったでしょう()

元プロさんは、どんなストーリーでも最後はゲームで決着をつける運命なのです(?)


次回、カケラも無くなりましたが、大晦日に過去編最終話です。

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