第27話 元プロさん、動き出す

 8月23日、金曜日。


 夏休みの終わりが近づくこの日、俺は東京都港区に訪れていた。


 熱い日差しが燦々と降り注ぐ中、それをなんとか避けようとビルの日陰を必死に探して歩く。


 大量のビルが立ち並んでいるおかげで日陰も多く、かなり涼しい。


「……で、これはどこに向かってるんだよ」


 俺がスマホである人に連絡を取りながら無言で歩いていると、隣を歩くアミア──もとい、秋月あきづきれんが口を開いた。


 整った顔立ちに、さらさらの髪で整えられたセンター分けがそよ風に揺れる。


 白をメインとした服装も相まって、爽やかなイケメンだった。


 これで甘い声なんだから、ギャップでもぉなんというか……うん、ヤバい。


「……ちっ、イケメンが」

「せやろ。今まったく関係ないけど」

「否定しないのうぜー」

「いやでも、エ──かけるもイケメンの部類だろ」

「お世辞乙」

「それだからモテないんだぞ」


 黒のズボンと白のTシャツの上に羽織った薄手のコートを揺らしながら俺は言う。


 髪質は自分でもかなりいいと思うくらい艶々のストレートで、襟足のあるロングヘアには自信があるが、顔はアミ──蓮が言うほど整ってるとは思わない。


「んで、マジでどこ行ってるんだよ」

「Micro Gaming本社」

「おうぇ?」


 アミアが聞いたこともないような声を上げた。


「バカっぽい」

「うるせぇバカ野郎」

「ほう?」

「くっそ、こいつほんとにバカじゃねえからバカって言えねえじゃねーかよ」

「やーいばーかばーか」

「俺も県模試の順位二桁くらいはあるのに、こいつにだけ煽れねぇ」


 バカ話をしつつ街を歩いていると、少しずつマイゲム本社が見えてきた。


「おい、マジで行くのか?」

「もち」

「そんな無鉄砲に行っても……また、3年前みたいに──……」


 アミアはいつにもまして弱気で、ずっと心配してくれる。


 俺の知ってるのは、アミアだけだもんな。そりゃ心配にもなるか。


 だが────今の俺は、あの時とは違う。


「大丈夫だ。何も心配はいらねえよ」

「だが……」

「策は、大量にある」


 タン、とメッセージを送信し、スマホをポケットにしまいながら俺は言う。






 あの時の俺は、1人でなんでもできると思ってた。


 FLOWの大会だって、デュオになったから仕方なくアミアとチームを組んだだけだ、と。


 事実、チームを組んだ当初は「人として見られてる気がしなかった」とアミアからもたまに言われる。


 だが、アジア大会が近づく頃には、1番の親友となっていた。

 友達と、仲間とゲームをする楽しさを、アミアとだから知れた。


 あの時から、俺の機械的な人生に生命が宿ったのだと思う。


 ──それを壊すだけでなく、心機一転0から頑張っていたRayにまで手を出した。




「──……指でもくわえて待ってろ」




 冷え切った俺の瞳の奥にある『怒り』という真っ赤な炎は、目の前にまで迫った事務所を鋭く睨んでいた。





《あとがき》


「まだマイゲムで確定じゃなくね?」というツッコミは一旦お待ち下さい。

今後解き明かされます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る