第26話 プロゲーマーさん、マイゲムと一悶着する
窓の外ではしんしんと雪が降っており、その白銀の世界を見ているだけで寒くなる。
15歳の冬。
9月末に2大会連続世界一に輝いたelleこと俺は、クリスマス2日前である土曜日の今日、所属しているプロゲーミング事務所──Micro Gamingに訪れていた。
ちょうど今日から冬休みが始まり、周りの友達が高校受験への最後の追い込みをしている。
まぁ俺はもう推薦で決まってるからいいんだけど。
ベージュのコートに斑点模様のようについた雪をパッパと手で払いつつ、コツコツとブーツの音を立てながら事務所の中を進んでいく。
受付などは顔パスでスルー。
そのまま暖房の効いた廊下を歩いて、おととい事前にメールで知らされていた部屋へと進んでいく。
「ここだな」
俺も何度か訪れたことがある部屋だったので、高いビルの中でも迷うことなく到着する。
ドアを開けると、パソコンと睨み合っている男が1人。
俺のマネージャーである。
「こんにちは」
ドアの音に気づくと顔を上げて、俺に笑顔で挨拶する。
営業スマイルであることはバレバレだ。
「ども。今日は一段と忙しそうですね」
「はは、子供には分からないものがありますからね」
そう言いつつ、カチッとエンターキーを押したところで作業の手を止めた。
この人のなんでも子供扱いしてくるの、結構嫌いなんだよな。
言っても何も変わらなかったので、半分諦めているが。
「あと、もっと猶予を持って連絡してくださいと、いつも言ってるはずです。あなたが俺と20歳以上離れた社会人だからって、俺をあなたの匙加減で扱わないで欲しい」
「それはすいませんね。こちらも忙しいもので。今は大人の言うことだけ聞いてください」
全く気持ちが込もっておらず、悪びれた様子も無い謝罪が来たかと思えば、また子供扱い。
言っても何も変わらないので心の中でため息をつきつつ、マネの反対側の席に腰を下ろした。
「それで、今日は何の用で?」
『来てください』というメールしか届いてないので、何についてのことで呼び出されたのかすら、俺には分からない。
「そうですねぇ…………とりあえず、世界大会2連覇おめでとうございます」
「はぁ……ありがとうございます。3ヶ月遅れなんですけど」
「忙しいもので」
出た、いつもの言い訳だ。
「とまぁ、早速本題なのですが」
マネは、こちらの様子を気にした様子もなく、というよりこちらの様子を伺おうともせずに話を切り出した。
「来年のFLOW世界大会も出られますよね?」
「……まぁ、この調子ならおそらく」
アミアとの調整もあるだろうが、多分来年もアミアと出ることになるだろう。
しかし、なぜそんな先の話をこのタイミングでするのか。
その問いに対する答えは、マネの口からすぐに返ってきた。
「それ、ナルクと出てください」
「…………は?」
「私からはそれだけです」
マネは一方的に、そしてあまりに傲慢なその態度で言い放つ。
ナルクというのはマイゲムに所属しているプロゲーマーのことで、彼もFLOWをメインに活動している。
実績としては、アジア6位でギリギリ世界大会に進んだ、というほどだ。
もちろん一般的に見たらめちゃくちゃすごいものだが、俺と組むには弱い。
いや、弱いどころか、あまりにも弱すぎる。
それに、俺がマイゲムに所属するようになったのはアミアと組んでからのはずだ。
そんなことは大前提で、考えずにとも分かる話だ。
それだというのに、こいつは今なんて言った?
「……俺が引き受けるとでも?」
「引き受けないでしょうね。ですが、引き受けなければ事務所からは引いてもらいます」
圧をかけるように言ってくる。
だが、それを言えば俺が「はい組みます」と言うとでも?
「いいですよ。そもそも俺はあんたたちから誘われたから入ったんだ。いいよチームから抜けてやる」
なんの躊躇いもないし、なんの未練もない。だからこそ、強く言い放った。
「でしょうね。はい、今までありがとうございました」
「へぇ、止めないんですか?」
「なんで私が止めないといけないんですか。あなたがチームを脱退したところで何も変わらない」
マネ──いや、男は冷徹に言った。
書類も何も渡されない。
俺が脱退することも想像していたのだろうか、裏ですべて処理を終わらせてそうだ。
本来なら許されたものではないが、もう、どうでもいい。
「それじゃ、俺は帰ります」
「さようなら。あぁ、ツイッターには注意しておいてね」
「はいはい」
適当に返事をしつつも、もうどうでもいいから何の興味もなく事務所を去った。
だが、このあとのツイッターのことは──もう語りたくもない。
あること無いこと関係なくマイゲム公式ツイッターから呟かれ、俺はツイッターのアカウントを消さざるを得なくなった。
その後もFLOWのプレイはしていたが、マッチングした味方にツイッターで晒されたりと、とてもプレイできる環境ではなかった。
無視すればいいと思われるかもしれないが、大会に出る人にとって炎上はきつい。
無視できる出来ないではなく。
アミアにも何回も相談した。その結果、俺は何も言わずにFLOWから姿を消した。
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