第15話 元プロさん、最強のIGLのもと突き進む

第3リングの収縮が終わり、第4リングの収縮がそろそろ始まる。


残り人数は14パーティーの27人。俺たちだけが1人チームというわけか。


「おもしれぇじゃん」


思わずニヤけながら言ってしまう。


:やべぇw

:なんか……すごくかっこいいです

:覚醒してから明らかかっこよくなってる気がする

:惚れそう

:男だけど俺も惚れそう

:禿同

:いつもなら否定したいけど今回は何も言えんわ


『とりあえずリングに入ろうか、狂犬くん』


せっかく俺の気分がどんどん上がっていっていたのに、アミアの冷静な声で現実に引き戻される。


「了解。リングにピン刺してくれ」

『はいよ』


アミアが返事をするとともに、ピンが刺されたことが俺の画面にも届いた。


ピンというのは、簡単に言えば仲間に何かを知らせる手段の1つである。


特定の入力でプレイ画面のまますぐにピンを刺したり、マップを開いて遠くにピンを刺したりできる。


『あっちに行こう』だとか『敵がいる』だとか『◯◯のアイテム落ちてた』だとか、そういったことを味方だけに知らせることができる機能だ。


「うげ、また真逆か」

『引き悪いよな俺ら。ただ、最短で行くなよ』

「分かってる。ルート案内は頼んだぜ」

『もちろんだ』


するとアミアは無言になる。おそらく、頭をフル稼働させて第4リングまでのルートを考えてくれているのだろう。


今回、最短でリングに行けないのには2つ理由がある。




1つが、リングの中の地形。


今回のリングはかなり過疎地よりに動いている。


リングの中にある街も、蘇生ポイントがある場所の1つだけだし、それ以外の家も他と比べて少ない。


そして、ところどころに崖などがあるエリアであり、それメインにするがために小さい障害物も少しだけ少なくなっている。


つまり、移動中に集中砲火を浴びたら防ぐまでもなくリタイアしてしまうということ。

慎重な立ち回りが要求される。


さらに、崖があるということは高低差が激しいということで、つまり坂道も多い。


上から撃ち落とされることも警戒しなければならないという鬼畜ルート。



そして2つ目が、リングの大きさに対する人数の多さ。


第3リングが閉じきった時点でマップ全体の1/3の大きさなのだ。


少し高レベルな試合になると20人くらい残っていることもあるが、大抵は10〜15人が妥当。


しかし、今回のアジア本戦ではまだ27人残っている。控えめに言っても異常だ。


俺が引退する前最後にアミアと出場した第2回世界大会でも、第3リングはこんなに残ってなかった気がするが…………。


時間とともに立ち回りとかも研究されていったのか。


まぁそれはそれとして、これによって何が起こるか。


──そう。この移動で大幅に人数が減る。


残り人数が多い=接敵するリスクが上がる。事故る可能性が爆上がりなのだ。



『──これでいくか』


辺りを警戒しながらほんの少し待っていると、アミアの声が聞こえてきた。


「さすがの速さだわ。どう行く?」

『まず始めに、このリングだと北側が崖が多いエリアで、南側が街エリアになっている。今俺たちはこのリングよりさらに北側にいる』


そう、今回のリングはずっと南に下がり続けている。


最初の降下では最北の街ヴォーリアに降りたため、常に下り続けている形である。


リング収縮が始まってしまったので、俺はリングの縁を辿りながらアミアの言葉を待つ。


『んで、崖エリアはどデカい崖の周りに小さい崖もいくつかあって、1人で隠れるのには最適だ』


崖エリアは相当入り組んでるもんな。


FLOWでは1年おきにマップが入れ替わるが、初期と比べてこういうのが増えたのは面白い。


『────だから俺たちが目指すは、だ』

「了解」


の選択だったので、特に驚くことなく頷く。


:……ん?

:え、今の流れ完全に崖エリアだったのでは?

:やっぱおもしれぇな、aMaのIGLは

:レイさんも分かっていたようで……?

:そうか、今のaMaの方法は悪く言えば誰でも思いつくこと。んでそれは大会出場者も同じ

:それに南にリングが寄り続けてるってことは、さらに南の街には人が少ない……!

:あ、1人チームがいるってのはバレてるのか

:たしかに

:1人チームなんていう都合のいいカモは全員狙ってるもんな

:1人は崖に隠れるって考えるし、そこに人が集まる

:んでそいつらを同士討ちさせる、と

:aMa天才すぎるだろ

:この量を1人で、しかも今の数十秒で……?

:こいつ衰えるどころか成長してるだろ……


リングの縁を辿るように外回りして、俺は街にまで辿り着く。


俺の耳と俺の観戦画面となったアミアの目によって、一切接敵することはなかった。


バレなかったこともかなりデカい。


「建物の中か?」

『そうだな。1番デカい建物で2階の出入り口になるべく近いところがいい』

「おっけ」

『先客がいないか、しっかり耳すませろよ』

「分かってる」


俺は建物に入るとすぐにしゃがんで、足音を立てないように気をつけながら慎重に歩く。


幸い人はいなかったようで、ハイドスポットにつくことができた。


残り人数は23人。崖エリアのおかげで生き残った人が多そうだ。


そして──第4リングが閉じきり、第5リングが決まった。


────またもや南に下がり、俺のいる街がすっぽり入った。


「『しゃあっ!!』」


俺とアミアの、今日1喜ぶ声が重なる。


やっとリングの運に恵まれたのもそうだが、それ以上に最高のシチュエーションなのだ。


『崖エリアが外れたの、マジでデカいぞ……!』

「これはもしかして、?」


:めっちゃ喜んだ

:リング入ったけど、それ以上に喜んでるw

:アレ?

:アレってなんだ?

:また高度な会話をしようと……?


数十秒が経ち、第5リングの収縮が始まると、はすぐに始まった。


「『きた……!!』」


:えっえ?

:待て待てww

:ふぁーーー!?!?

:えどゆこと????

:えぐwwwww


俺たちが喜んだ1番の理由、それは────




大量のキルログが一気に流れまし、残り人数が急速に減っていくことだった。




崖エリアは入り組んでいて抜け出すのが難しい。


そのため、崖エリアで身を潜めていたプレイヤーが全員はやめに移動を開始する。


──そして大量に遭遇しているのだ。


今あの場では漁夫の漁夫がたくさんあるのだろう。


そしてもちろん──


『──想像通り』


世界最高のIGLは、この展開まで読んでいた──。






第5回FLOWアジア大会本戦 第一試合


第4リング収縮完了 残り人数9 5チーム

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る