第13話 元プロさん、欠ける

FLOWのようなFPSゲームは、実力がalmostである。


ソシャゲであれば、もちろん戦略も大切であるが、その根本にあるのは強いキャラを持っているかどうかである。


運が良い者が、そこから技術を伴って強くなる。


ゲームに限らずその他の遊びでも、サイコロやコイントスなど、さまざまなところで『運』が絡み合ってくる。


音ゲーなど、完全に実力しかないものもあるが。


そして、FPSゲームには『運』がかなり少ない。


エイムに関しては、瞬間的に上手くマウスのカーソルを合わせられる人など、本人の実力が関わる。


相手の弾を避けるのには多少の運も絡むが、弾避けというキャラコン技術も重要な要素である。



しかしそれは、"almost"であって"all"ではない。



乱数運、というものはどのゲームにも存在している。


FLOWでは弾が当たるかどうかに乱数運が関わってくる。


カーソルが完璧に合っていても、全弾当たらないことや、多少ズレていても全弾HITすることだってある。


その瞬間だけは────



FPSゲームは、実力が9割のゲームから運が9割のゲームに早変わりする。





◇ ◆ ◇



かなり盛大に銃声を鳴らしてしまったので、ぱぱっと敵の物資を漁ると俺たちはすぐに移動した。


今は第2リングの収縮が始まっていて、俺たちはそのリングの中の比較的高所を陣取っていた。


『さっきの物資は?』

「まだ横取りに来てる輩はいないな」

『了解』


高所を陣取ったのには第3リングにすぐ動けるようにというのもあるが、先ほど倒した敵の物資を奪いに来た敵をワンチャン殺りたいなという思惑もあった。


ま、全然来ないんだけども。


そしてそのまま、第3リングが決まった。


うげ、真逆か。


『くー、ここで真逆はめんどいな』

「ちょっとは被弾覚悟しないとかもしれないなぁ」


この広さのリングで真逆を引く、つまり大移動をしなければならないということ。


もちろん今すぐ移動を開始するが、当然かなり遅れてしまうので、先にリングに入った敵たちに撃たれることになるだろうな。


『なるべく迂回しながら行くか』

「だな」


そして俺たちは、リングの縁を走り、なるべく敵に見つからないようにリングへと向かった。


幸いにもその移動の道中、接敵することは一切無かった。


────が。


『…………いるな』


1チームが既に、リングの中で待ち構えていた。


「スナは結局無かったんだっけ?」

『あぁ』

「……となると、強制的に数敵有利を取ることも厳しいか」


俺たちは近づけるだけ近づき、待ち構える敵の射線が通らない岩裏に一旦身を潜めた。


撃たれることは無かったが、まだ第3リングというそれなりの広さがある中で、。あの位置を陣取っている。


それは、こちらに気づいていないという可能性を0にしているようなもの。


「どうする?」

『……難しいな』


:難しい局面だな

:ここでリタイアなんてことは無いだろうが……

:さすがのこの2人とはいえ、被弾は極力抑えたいよな

:スナ無いのきちー

:あの4人とも持ってなかったもんなぁ……

:大会じゃ強くないからな

:このレベル帯だと弾ケアも弾避けも次元が違くてマジで持つ意味ないもんな

:※彼らを除いて

:草


第3リングが完全に閉じきるまで──俺たちが何かしら行動を起こさないといけない時まで、あと1分。


『別ルートは……いや遠いな。それにどこから射線が通るかも分からねえ……となるとやっぱ──正面突破か』


熟考の上、アミアはそう結論づけた。


「あぁ。俺もそれがいいと思う」

『よし。んじゃアサルト構えて。より甘えて顔出してきた方に撃ちながら、俺が止まるまでついてこい』

「おけ」

『3、2、1、────GO!!』


アミアの掛け声に合わせて、俺たちは同時に駆け出した!


待ち構えていた敵はすぐに銃を構え、俺たちの進路を弾幕の嵐に変える。


『レイ! 左の敵ッ!』

「もう撃ってる」


ダダダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!!

ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!!!!


違う種類のアサルトライフルによる一斉射撃が、ほんの僅かに甘えた敵に吸い付いていく。


そして、シールドが速攻で割れたところで、地獄の弾幕が止んだ。


「最善値じゃね?」

『だな!』


:うめぇwww

:エッグいキャラコンしてんなぁ……w


それなりに被弾はしたものの、2人ともシールドが割られなかったのはかなり最高だろう。


『もうちょっと走るから、弾避けしつつあいつらの様子警戒してくれ』

「りょうか〜い」


アミアの言葉通り後ろを振り返りながら走っていく。




その、つもりだった。




────ドンッッッ!!!!!


さっきの敵が一瞬、ほんの一瞬だけ顔を出して、一発の弾丸を放ってきた。


先ほどの弾幕の中では鳴らなかった、腹の底に響くような



──スナイパーであった。



エイムをあまりせず、というかほぼなしに撃ってきた弾丸はどんどんこちらに突き進み────




「…………え」




:え?

:は?

:ちょまっっっ!?!?

:待て待て!?!?

:うっそ何があった??

:は? え? は?


俺の困惑の声と驚きと焦りが混ざったようなコメント欄を、まるで掻き消すようにキルログが流れてきた。




aMa……ダウン スナイパー(187m)




あの速さで顔を出し、ほぼエイムすることなく引き金を引き、命中する。


乱数の神様は、どうやら俺たちの味方ではないようだ。






第5回FLOWアジア大会本戦 第一試合


第3リング収縮中 残り人数29人 15チーム

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