第12話 元プロさん、"ならでは"すぎる立ち回りを披露する

30分が経ち、多くのFLOWプレイヤーが見守る中、アジア大会本戦がついに開始した。


ここからは配信のコメントを見ることは出来ない。


もちろんもともと見る気は無いのだが、MyTubeとも連携をしているFLOWアプリの仕様によるものだ。


大会終了まで、俺の目にコメントが表示されることは無い。


「よし、行くか」

『あぁ。あ、もうこれからは何喋ってもいいぜ。他の本戦参加者も何も見れなくなったからな』

「そっか。んじゃ、早速降下についてだが」

『あと数十秒で降下始まるから手短にな』

「おけ。とりあえず、マップ北部のヴォーリアに降りるぞ」

『了解』


いつも通り淡白に、しかし重要な要点だけをまとめた情報を共有する。


:ヴォーリアか

:珍しいところだな

:どこ?

:うげ、あそこかよ

:相当運が良くないと厳しくね?

:まぁでも、初動死を避けるっていう目的には合ってるか


そして、メンバーが事前に決まっていたこともあり、すぐに俺たちの画面は、空を飛んでいる戦闘機に切り替わった。


今回の目的地であるヴォーリアは、運のいいことに戦闘機の軌道からそれなりの距離だった。


これなら、そもそもの物資が微妙で、リングが外れたときの移動も大変なあの街に、わざわざ降りるプレイヤーはいないだろう。


「それじゃ」

「『GOOD LUCK』」


お馴染みの掛け声とともに戦闘機から飛び降りた。


そして、ヴォーリアとの距離を測り、完璧な角度に微調整を行う。


万が一降下が被ってしまったとき、武器取りに負けるようであれば元プロの名が廃れるというものだからな。


警戒は怠らない。


しかし、当初の想像通り誰一人として降下は被らなかったようだ。


『立ち回りは?』


キャラが変わったかと疑うくらい、真面目な雰囲気を纏ったアミアの声がヘッドホン越しに聞こえてくる。


「なるべく完璧に物資を整える。んで第1リングが外れたら、収縮開始ともに移動」

『接敵しないムーブってことか』


キルをしてポイントを稼ぎつつ、順位ポイントもなるべく稼ぐキルムーブではなく、順位ポイントを重視する生存ムーブなのか、とアミアから確認の声が飛んでくる。


────が。


「残念。半分正解だ」

『……ほう?』


読みが外れたのにも関わらず、アミアの声はさっきより少し弾んでいた。


ふ。本戦だからと言って退屈なムーブをしたくないのは、どうやらアミアも同じらしいな


「漁夫ムーブで行こうと思う」

『はっ、いいね。俺たちのフィジカルも生かしつつ、俺のIGLを中心に動くってことか』

「そういうこと。これなら敵の物資も奪えるし、初動の物資差も無くなる」


ニヤリと笑いながら俺はそう言った。


:エグいなw

:最強の立ち回り真似しようと思ったのに()

:漁夫とはいえキル前提かいな……w

:さすがすぎるって

:まぁでも、予選のあの動きと比べればだいぶ大人しいか


第1リングの収縮が始まった。


案の定外れてしまったので、早速移動を始める。


──そして、敵の戦闘を探る時間のスタートだ。


「──……」


耳を澄ませる。


限界まで。


ゲームの中の空気すら聞こえるくらい。


極限の──。




。リング内方向約500m」




:は?

:は?

:え?

:待て待てwwwwwwww

:???????

:500mを見つけた!?!?

:ふぁ!?

:え、待って理解が追いつかない

:人間やめてね!?


荒れ狂うコメント欄の様子など知らないアミアは、


『了解』


と冷静に短く返事をした。


俺たちにはこれが当たり前の世界。伊達に元世界王者を名乗ってないからな。


俺たちはリングの中に入ると、すぐに戦闘を見つける。


そして、こちらからも射線が通る位置にある岩に、一旦身を隠した。


「アミア、武器は?」

『ショットガンとアサルト。あ、アサルトは単発が重い方のやつだ』

「おけ。俺はSMGとアミアと逆に連射する方のアサルト」

『となればもう少し詰めたいな』

「先導頼む」

『了解』


立ち回りの話となるとアミアの方が上なので、完璧な位置までついていく。


『ストップ』

「敵影は?」

『ここから2人。ただ、銃声からしてどちらも4人残ってるフルパ

「ならシールド割れたやつから撃つぞ」

『把握』


FLOWには、体力100とシールド100が最大で存在している。


体力がなくなると死亡するが、まずはシールドが守ってくれる。


そして──シールドが無くなる割れるときには、水色の光が飛び散るエフェクトが出るのだ。


ダダダダダッ!!!!


ちょうど、今のように。


エフェクトの見えた瞬間、俺たちは同時に引き金を引いた。


そして──。


「やり」

『ナイス。まだ待機だ』


人数的にはまだ2対3。最低でもあと1人は持っていきたいところ。


戦闘の様子を見ていると、2人残っていた方のパーティーの片割れがシールドの割れるエフェクト無く死んでいった。


ショットガンによるヘッドショット、100ダメージを超える一撃だろう。


だが、そんなことよりも──!


「おい! 1対1になったぞ!」

『理想的すぎるな。おそらく右の方が削れてる! カウント1でいくぞ──1、ファイア!!!』


ダダダダダッ!!!


俺たちは一斉に引き金を引いた。


そして、瞬殺した俺たちはそのまま、


「左も行くぞ!」

『おう!』


そのまま壊滅を目指して撃ち続ける。


敵もすぐに射線を切ろうと動く──が、その移動速度よりも俺たちのエイムが上回った。


4人分の物資を、手に入れたのだ。





《あとがき》


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