第54話 リーベルへ

 ディアナ教会のシスターの手厚い看護(主に料理)により、すっかり体調が回復したフレアとコレットは、町の衛兵詰所に来ていた。

 

「あ!あのひとっ!」

 フレアが指さすと衛兵はこちらに気付いたらしく、

「おぉ、あの時の嬢ちゃんじゃないか!二人とも傷の具合はもういいのか?」

 そう言って人のよさそうな笑顔を見せる。


「うん!もうばっちり!ありがとう」

「ギルドの換金のことも、助かりましたぁ。ありがとうございましたぁ」

 といって二人とも頭を下げる。


「そんな大したことはしてないよ。それよりあんな大怪我をしないように、もっと気を付けないとだめだぞ!」

 衛兵は二人が冒険者なのをわかっているのか、冒険をやめろ、とまでは言ってこない。

「「はぁい、気を付けますぅ」」

 と二人で素直に返事をする。


 助けてくれたお礼に、衛兵に町でみつけて買ったロケットペンダントを渡す。

 銀色で、男性がつけても違和感のないシンプルなものだ。


「おいおい、子どもが変な気を遣うんじゃないよ。高かったんじゃないのか」

 と言いながらも、二人が一生懸命選んだと考えると顔がほころぶ。


「頑張ってみつけたんだから着けてね」

 とフレアがいうと、照れくさそうにロケットを着ける。


「じゃあまたね」

「さようならぁ」

 と言うと、衛兵は「気をつけろよ」と言って二人を送り出した。


 フレアとコレットは、衛兵に言われたことを守りながら、ちょっぴり慎重に冒険に出るのだった。




 約一か月後。

 フレアとコレットはアライアの町で冒険を続けてきたが、以降特にアクシデントに見舞われることもなく、順調に依頼をこなしていった。

 アライアの町ではそれほど難しい依頼はなかったので、あらかた一通りの依頼をこなした。


「ちょっと飽きてきた」

「他の町に移動しようかぁ」

 そんなことをギルド併設の酒場兼食堂で食事をしながら話す。


 フレアがベーコンを頬張りながら、

「ここらへんで大きな街っていうと、城塞都市リーベルになるのかな」

 と言うと、コレットは

「・・・リーベルかぁ」

 と言って、何か物憂げな表情を見せる。


 フレアはそれに気が付き、

「あれ?行きたくない?」

 と言うと、コレットは少し考え込んだ様子を見せたが、静かに答える。

「うぅん。大丈夫」

 と言って顔を振る。

 コレットにとって、リーベルは亡き家族と暮らした場所で、つらい記憶から半ば逃げるようにコルテ村に引っ越してきた。

 しかし、そろそろ向き合わないといけないのかもしれない、という思いもあり、自分の中でけじめをつけるためにも、リーベルで起きたことをフレアに話す。


「病で家族が…思い出させてごめんね」

 とフレアが謝る。

 フレアに家族と呼べる者がいないことはコレットも知っている。


「フレアちゃんが謝ることなんてない。私もごめんね。でも・・・」

「でも?」

「私もそろそろ踏ん切りをつけるべきなのかもしれないわぁ。フレアちゃんが家族みたいなもんだしぃ」

「家族・・・」

 フレアは一瞬フリーズしていたが、そう言ってもらったのが嬉しかったのか、ニマーっとした笑顔を見せた。


「ウフフ…家族」

 と確認するように言うフレアに、コレットは

「それに、みんなのお墓参りもしなきゃだし」

 と言って、なにやら吹っ切れた表情を見せた。


(本当の家族のお墓参りか・・・コレットはもう親友で家族だよね。でもコレットが将来誰かのおかあさんになったら、私はどうなるのかな)

 等と考えると、フレアはちょっと寂しい気持ちになる。

 そもそも、アデルの脅威があれば、自分が自分でなくなってしまう。

 だから今を楽しまないと損だ!

 そういつもの考えに戻ったところで、

「フレアちゃん、どした?」

 と、コレットが聞いてくる。


(うん。今はコレットがいるからそれでいいや!)


「なんでもない。私もお墓参りする!」

 というと、コレットも微笑んだ。


 それから二人は、城塞都市リーベルに向かうことを決めた。

 すると話も弾んでくる。

「リーベル周辺は兵士がよく巡回してるから、あまり魔物の数は多くないらしいわぁ」

「だけど、街からちょっと離れるとこのあたりより強い魔物がいるんだよね?」

「そうそう。だからアライアよりリーベルの方が報酬も高いみたいよぉ」

「お肉いっぱい食べれるね!!」

 フレアが目をキラキラさせている。

「フレアちゃんはほんとお肉好きよねぇ。初めて会った時もうちのお肉全部食べちゃったし」

 等と盛り上がったのだった。


 数日後、アライアの町で準備を整えた二人は、お世話になったシスターや衛兵に挨拶をすませ、城塞都市リーベルまでの旅に出たのであった。

 リーベルまでは徒歩で3日。

 一応乗合馬車もあるみたいだが、一か月に数回程度で、タイミングも会わなかったので歩いていくことにした。

 魔物もアライア周辺より強いと言っても、フレアにかなうような魔物はおらず、コレットも少しづつだが冒険者として成長していたので、気楽な二人旅を選んだ。


 コレットは、

(もしかしたらあのときの旅人にも会えるかもしれないなぁ。でも旅人だからもういないかなぁ)

 などと思いながら、リーベルへと向かうのであった。

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