第51話 ゴブリン討伐

 コルテ村を徒歩で出発して丸一日。

 馬に乗れれば半日程度で到着したのだろうが、コルテ村の数少ない貴重な労働力はさすがに連れてこれなかった。

 ようやく、アライアの町が見えた。


 途中でゴブリンの群れに出会ったのは本当にびっくりした。

 このあたりは中型犬くらいの大きさのフィアウルフという魔物を見かけることはあるが、あまり群れを成していることはない。もっと南にいけばフィアウルフも群れをなしているらしく、そうなると危険度は数倍になる。


 しかし、コルテ村とアライアの町の間は単体のフィアウルフをたまに見かけるくらいで、生息数もそれほど多くない地域であり、用心さえしていれば、比較的安全な道程のはずだった。

 それなのに、このあたりでは見かけることのないゴブリンの群れに遭遇してしまったのだ。


 旅に絶対はないので、そういうこともある、といってしまえばそれまでだが、本当に運がない。

 ゴブリンは人の子供くらいの大きさしかないが、ずる賢く、群れると連携してくるので厄介だ。

 しかも、ゴブリンは人間の男は殺すが、女はさらう性質がある。

 さらわれた女性は悲惨だ。


 なのでゴブリンが現れたとなればギルドが率先して討伐依頼を出すし、大きな街では騎士団が討伐に向かうこともある。

 そんな厄介な魔物が、5匹もいる。


 とてもじゃないが、女の子二人で相手するのは無謀であるし、普通であればどこかに連れ去られていくのが関の山である。

 コレットがゴブリンに気付き、草むらに隠れて声を潜める。

「なんでこんなところにゴブリンがいるのよぅ。それも5匹も」

 もう涙目である。


 コレットの家から持ってきた武器はナイフ2本と粗末な弓が一張と矢が3本だけである。

 コルテ村ではほとんど魔物が出るようなことはなく、万が一出たとしても村人総出で叩きのめしていた。

 なので農具が武器の代わりであったので、まともな武器はほぼなかった。

 コレットもアライアの町で武器を調達するつもりだったのだ。


 隠れながらフレアがコレットに

「矢は全部使っちゃっていい?あとナイフ1本かして」

 と聞いてくる。

 コレットは、

「もちろんいいけどどうするつもりぃ?もしかして戦うつもりじゃ」

 と言いかけたところ、フレアは既に弓を構えている。

 しかも、矢を3本同時に引いている。

「フレアちゃんまってぇ」

 と小声で止めようとするも矢は既に放たれ、ゴブリン3匹の頭にそれぞれ命中した。


 同時にゴブリン2匹が倒れる。

「あ、ひとつはずれちゃった」

 とフレアが言うも、一匹は頭に矢が刺さりながらもあたりが浅かったらしく、怒り狂いながらこちらに向かって走ってくる。

 無傷のゴブリン2匹もあとに続いてきているが、フレアが駆け出すと逆手に持ったナイフで手負いのゴブリンの喉を切り裂いた。


 2匹のゴブリンがフレアを囲んで、持っていたこん棒で殴り掛かるが、フレアは廻し蹴りでこん棒を吹っ飛ばし、その勢いでゴブリンの腹に蹴りをあて吹き飛ばした。

 背後のゴブリンがそれを見て逃げようかと硬直したところで、ナイフを持ち直したフレアに喉を刺され絶命する。

 蹴られて吹っ飛ばされ悶絶しているゴブリンもフレアのナイフの餌食となった。

「うーんこんなもんかな」

 と息一つ切らさずにいうフレアにコレットは唖然としていた。


「・・・すごいわフレアちゃん!一体何がどうなってるのぉ」

 ダンスを踊る様にゴブリンの群れを仕留めたフレアにコレットは大興奮している。

「すごかったわぁ。私ゴブリンを見つけたときはもうだめかと思ったのに、まるで踊っているみたいに全部やっつけちゃうなんてぇ」

「いやーたいしたことないよー」

 と恥ずかしそうに顔を赤くして、手をパタパタさせている。


「でも・・・」

 急にフレアが真剣な顔をするので、コレットがハッとした表情をするも、

「これは食べられそうにないね」

 と心底悲しそうな顔をする。

 コレットは目が点になりながらも、

「ゴブリンの魔石を売ればおいしいもの食べられるよぅ。5匹もいるからそれなりの金額になるしぃ」

 と機転を利かせて言うと、フレアの表情はぱぁっと明るくなるのであった。


 その日は見通しのよいところで野営をすることにして、代わりばんこに見張りをして身体を休めた。


 翌日の朝、無事アライアの町に到着した。

 とりあえず冒険者ギルドに向かい、冒険者登録をすることになった。

 登録用紙に名前を書く必要があったが、一緒にいるのでフレアの分もコレットが書いていいとギルド職員から許可をもらい、無事に二人とも登録を済ませた。

 試験を受けて成績が良ければ、最初から上のランクで始めることもできるらしいが、別に目的はギルドのランクではないので普通に二人とも駆け出しのFランクからスタートすることにした。


 無事にギルドカードを発行してもらい、ギルドに併設されている食堂で昼食を摂った後、武器屋で装備を調達した。

 特に武器は、剣がそれぞれほしいので、一本ずつ買うことにした。

 あとは魔物を解体する用のナイフも購入した。

 もってきたナイフは調理用ナイフで、昨日のゴブリンとの戦闘で既に一本壊してしまっていた。

 調理用ナイフでゴブリンの群れを仕留めたといっても信じてもらえないだろう。


 防具も皮の胸当てや腰当てを購入したが、あくまで動きやすい装備にした。

 フレアは防具はいらないと言っていたが、コレットは自分だけ防具を買うのはあり得ないといい、お揃いにしてもらった。


 装備を整えた二人は、昨日ゴブリンと戦闘した場所へと戻った。

 死体はそのままにしており、あとで魔石を回収する予定にしていた。

 昨日の時点では、調理用ナイフしかなく、ゴブリンを解体するのは難儀しそうだったので、とりあえず放置していた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る