第50話 決意

「フレアちゃん、どうした?」


 まじめなトーンで聞いてくるコレットに、フレアはようやく決意した。

 全部を話すわけにはいかない…けど、話せるところは話しておきたい。

 起こりうる未来のことは伝えておかないと、このまま仲良くなってしまえば、お別れの時にコレットが悲しむかもしれない。



「んーとね、未来のはなしなんだけど」


「うん」


「いつかはわからないんだけど、明日かもしれないし、ずーっと先かもしれない」


「うん」


「私はいるんだけど、いなくなっちゃうの」


「うん、うん?」


 コレットの頭に?マークがとんでいる。

 それはそうだ、この会話だけでは、控えめに言って意味不明だ。


 それでもコレットは真面目に話を聞こうとしてくれている。


 フレアがなにやら緊張した面持ちで、おずおずと話す様子に、コレットは出会った直後のことを思い出す。


 フレアは続ける。

「私はお母さんがいない、生まれたんじゃなくてつくられた、それはある目的のため」


「目的って・・・つくられたっていうけど、フレアちゃんはどこからどうみても人間だよ?ちょっと運動神経とかすごいけど・・・」


「うん、そういうふうにつくられたの。それでね、そのつくったひとが必要だって判断したときに、私はこの身体を返さないといけないの」


 突拍子のない話ではある、だが、真剣に話すフレアの話を、コレットも真剣に聞いているように見える。

 コレットが疑問を口にする。


「必要な時ってどんなとき?」


 さすがに宇宙人が攻めてきたとき、なんてことは信じてもらえないだろう。

 そもそもこの大地以外に人が住んでいるなんてことを、一介の村娘であるコレットに理解できようはずもない。

 初対面時に空の上から来たことをカタコトで伝えたが、微妙な反応だったし…。



 「戦争になったとき…かな」


 しばしの沈黙ののち、

 コレットはバンッ、とテーブルを両手で叩いて立ち上がり、


 「・・・・・フレアちゃんは戦争のためにつくられたっていうこと?」


 うつむいたままだがコレットにしては強い語気で言う。

 怒りを抑えようとしている様子が見て取れた。

 

 初めて怒っている様子を見せるコレットに、フレアは体を硬直させる。

 でも、こんな突拍子のない話を真剣に聞いてくれている、と嬉しい気持ちが半分、友達を怒らせたことで悲しい気持ちが半分…。

 こんな複雑で入り混じった感情を感じるのも初めてだった。


「身体を返すとどうなるの?」落ち着きを取り戻すために深呼吸をしてコレットが問う。


「私の自我、ていうのかな、心は消えてしまってなくなっちゃう、でも体は残って、みんなを守るって・・・そう聞いてる」



 正直理解できない。

 内容もそうだが、そんなことが本当にできるのか?できるとすれば、精霊様とか、神様とか、そんな存在でないと考えられない。

 コレットちゃんの言うおかあさんぽい人って、もしかして女神様なのかしら。

 でも、精霊様とか女神様なら、フレアちゃんの身体を使わなくてもなんとかなるんじゃないの?

 とコレットは考える。


「じゃあフレアちゃんの身体は元々、フレアちゃんをつくった人?のものって言いたいのね」


 いつもの間延びしたコレットの話し方ではない。真剣に理解しようとしてくれている・・・と思う。


「まるで、精霊様か女神様のような人ねぇ・・・本当にそんな存在がいるとすればだけど」



「信じてくれない?」


「なんというか、フレアちゃんのいうことは信じたいけど、話が理解できないかなぁ」


 ・・・ダメだったか・・・


 しょんぼりするフレアを前にコレットは


「でも、そんな日が来ないかもしれないんでしょ?」


 フレアは大きく目を見開く。


「なら、そんな日が来ないことを信じて・・・いえ、戦争なんか起こさせないようにしてやろうじゃない、一緒にね!」


「‼・・・・・」


 あぁ、話してよかった。コレットちゃんなりに何か答えを出してくれたみたい!

そう思って、心底安心した。


「あ、あれ?」

 涙があふれてきて…止まらない。

 あふれ出る涙を抑えきれず、嗚咽が部屋にこだまする。


 そうか、こんなに嬉しいんだ。


 コレットに感謝の気持ちを伝えたいが、涙と嗚咽でもうぐちゃぐちゃのフレアはそのまま泣きつかれて眠ってしまった。

 フレアをあやす様に抱きしめていたコレットも一緒に泣きつかれて眠ってしまった。






 翌朝、フレアが目を覚ますと、コレットがあわただしく何やら出かける準備をしている。


「コレットでかけるの?」


 昨日の様子はどこにやら、何言ってるのぅ?といった様子でコレットが答える。


「戦争をさせないためには、ずっとここにいてもだめでしょぉ。いろんな国や町を回って、情報を集めるなりしないとぉ!」


 確かにそうだが、二人で動いたところでたかがしれている…わけではない。

 実際にはフレアが本気になればこの惑星の国の一つや二つ滅ぼすくらいはできる。

 そんなフレアの実力を知ってか知らずか、


「まずアライアの町にでも行って、冒険者登録しないとねぇ、フレアちゃんも早く準備してぇ、ほらぁ」


「えっ!今から出発するの!?」


 急展開についていけないフレアであった。


 でも嬉しい!


 あとから聞いた話だけど、冒険者になるというのはコレットがコルテ村にきて立ち直ったあと、うすうす考えていたみたいで…。

 私と出会った翌朝、私が小石で鳥を叩き落すのを見てほぼほぼ決心しちゃったみたい。

 村のみんなにも根回し済みなんだとか…。

 私がもし村を出なくても、折を見てひとりで旅立つつもりだったみたい。


 なんという行動力、宙兵にでもなれば、かなり優秀なんじゃないかな?なんて思ったり。


 ともかく、そんなこんなで冒険者として活動することになったフレアとコレット。

 まずは、近くのアライアの町まで徒歩で移動することになった。

 コルテ村には実質4日しかいなかったわけだが、とても濃密な人生経験を積んだフレアは、決意も新たにするのであった。



 ・・・・・

 

 もしかしたら明日に『その時』が来るかもしれないし、100年たっても来ないかもしれない。

 でもいつでも役目を果たせるように、自分を鍛えて、準備をしなければならない。

 私の替えはいないのだから。


 でも『その時』がくるまでは私の時間。

 私はそれまで楽しく生きたいし、いろんな場所に行ってみたい、自分にしかできないような経験をしてみたい。

 悩むこともあるかもしれないけど、それも含めて楽しみたい。


 それくらいいいよね?


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