第49話 おかあさんっぽい人
何やら生まれの話になった。
私にはお父さんやお母さんがいないのは理解している。
強いて言えばあの人がお母さん代わりだと思っているけど、食事を作ってくれたり、遊びに連れて行ったりしてくれたことはない。
食事は旗艦内の専用ロボットが用意してくれる。
遊びは軍用のシミュレーターや、艦内の探検なので結局ひとりで遊んでいただけだ。
しかし大元をたどれば食事を用意してくれるロボットも旗艦のメインフレームが管理している。
軍用シミュレーターも対戦ができたが、それもメインフレームが管理している。
メインフレームを統括しているマザーフレームはつまりあの人のことなので、そうなると食事も遊びもあの人が世話をしてくれたことになるのだろう。
なるのかな?
あの人はAIで当然お母さんではないのだが、じゃあなんと表現すればいいのか。
「うーん、おかあさんのかわり?」
「じゃあ、おかあさんっぽい人ってことぉ」
「ふふ、そうかも、おかあさんぽい」
なるほど、おかあさんぽい人か。なんだそれ?
そもそも人と話をしたことのないフレアにとっては、そんななんてことない会話が楽しくて、ずっとこんな時間が続けばいいのに、と思った。
だけど、忘れてはいけないのは私の目的。
ううん、あの人の目的・・・いや、見たことはないけどあの人に指示をしている艦長っていう人の目的かな。
とはいえ私はそのために生み出された。
その目的を遂行するために存在している。
「ヤツら」は神出鬼没な存在だ。
「ヤツら」の航法が不明な以上、いつどこに現れるかわからない。
私は「ヤツら」が現れたときの保険、とはいえ私以外の生体ユニットの製造は禁止されている。
なんで禁止されているのかはわからいなけど、だからこそこの役目は私にしかできない。
だから早めに話しておこう。
コレットは多分いい人だ。
人付き合いが皆無なフレアだが、何故か確信めいた自信があった。
楽しいおしゃべりの時間はすぐに過ぎ去り、もう就寝の時間になった。
結局その日は話しそびれた。
なんとなく、楽しい気持ちのまま眠ってしまいたかったから・・・。
コレットがベッドの準備をしている。
ベッドといっても幅は狭いし、マットは薄いし落ちたら痛そうだし、でも床で寝るよりはマシそうな寝床であった。
「私は床で寝るからベッドつかってもいーよぉ」
そんなことをいうコレットの寝間着の裾をつかんで
「いっしょにねる」
と言うと、一瞬コレットの動きが止まったが、仕方なさそうにベッドの端っこに寝転んだので、私もベッドにダイブした。
ベッドは硬くて、寝心地は決して良くはなかったが、フレアはなんだか安心した気持ちになり、すぐに熟睡してしまった。
そんな様子を見てコレットは、弟のことを思い出したのか、眠ったフレアの頭を自分が眠るまでずっと撫でていたのであった。
翌朝、フレアはコレットの胸に顔を突っ込んだ状態で目を覚ました。
気分は最高である。
なにせフレアは生まれてこの方、誰かと一緒に寝ることなど経験したことがなかったのだ。
旗艦内での生活において、父母や兄弟姉妹といった概念は教育により知っていたが、実際に経験したことはない。
旗艦内であれば仮想空間でそういった経験は可能であるが、それもなんだか味気ない気がして、フレアは実践しなかった。
AIもそこについては特に実践させる必要はなし、と判断したらしく、特に言及もされなかった。
生まれて初めての添い寝を経験したフレアは絶好調だった。
起きた瞬間コレットを頬ずり攻撃で起こした。
起こされたコレットは何やら「むぁぁ」と寝ぼけている様子だったがとりあえずベッドに放置し、おもむろに外に出ては小石を拾い、飛んでいる鳥にぶつけ叩き落し(厳密には投擲)、朝ごはんの一品にしてしまった(もちろん調理したのはコレット)。
そんなにぎやかな新しい村の住人を、コルテ村の村人は歓迎した。
ある者は娘みたいに、ある者は孫みたいに、ある者は妹みたいに接してくれた。
フレアは初めての経験にとても喜んだ。
家族みたいに接してくれるのがたまらなく嬉しかった。
フレアがコルテ村に来て3日目の夜。
複数の村民とのコミュニケーションにより、ネインの言語解析はほぼ完了しており、フレアも流暢に話せるようになっていた。
「フレアちゃんすごいねぇ。3日前までカタコトだったのに、もう普通にしゃべれてるものぅ」
「コレットや村のみんなのおかげだよ、ありがとね」
そんな何気ない会話をしていると、フレアは急に黙りこくった。
「どうしたのぉ」
そう聞いてくるコレットを前にフレアは考えていた。
(コレットはもう友達だよね。
だけど、あんまり仲良くなりすぎる前に言っておこう。
私の目的と将来のことを話して、ダメだったらこの村を出よう。
本当は話さなくてもいいんだろうけど、なんか騙しているみたいで私が嫌だし…。
内容が内容だけに、信用できる人にしか話せない。
言っても信じてくれないかもしれない。
村人はみんないい人達だけど、やっぱり話すならコレットがいい)
いろいろなことをぐるぐる考えていると、
《言語解析もほぼ完了しました。村を出て、他の町などでも差し障りなく活動は可能と判断します》
とネインが背中を押してくる。
そうだ、もともとこの周辺地域の情報収集と、「ヤツら」が来た時の保険、が私の主な任務で目的だ。
人と仲良くしたいっていうのは私のワガママだし、作戦に問題がでないならとあの人も黙認してくれている。
ここで受け入れられなくても作戦に問題はない・・・だけど、なんとくだけど、コレットに拒否されるのはいやだなぁ・・・。
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