第48話 フレアの視点

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 んむぅ。眠い。


 眠いというか、今は夢の中なのだが、まどろみの中にいてもフレアは眠たがっている。

 気持ちよく眠っていると、何やら肩をゆすられている。


 眠い目をコシコシしながら起き上がると、14、5歳くらいの女の子がこちらをのぞき込んでいる。


 何やら言葉を発しているようだが寝起きなので(寝ぼけているので)聞き取れない。


 あぁ、この惑星の住民とファーストコンタクトだわ、と心の中で思っていざ、


「おはようございます」


 と答えるも、彼女は一瞬きょとん、として


「$$$$$$」


 何言ってるかわからない!


 と思ったのも束の間、


「あっ」


【ネイン】の言語解析機能OFFだった・・・。


 ◆◆◆◆◆◆◆


【ネイン】とは、ラクテ銀河帝国内で流通している軍用ナノマシンのうち、最高性能のものを指す。

【ネイン】を起動させると言語解析はもちろん、身体能力の向上や、演算速度の向上、その他フレームアーマーへの換装や、【ネイン】同士の遠距離での意思疎通まで可能になる。

 ただ、超常的な力を発揮する際には、レアメタル等の摂取が必要となるので、無限に使用し続けることはできない。

 しかし、遠距離への通信や短時間の身体能力の向上程度であれば、通常の食物の栄養素から補給が可能であり、時間をかければ病気の完全治癒や欠損部分の蘇生までも可能である。


 帝国軍がある未開惑星に帝国への編入を勧めた際、現地人がナノマシンの超常的な現象をみて、


〈何もないところから物質を作り出している〉


 と考え、「虚無」を意味する「ネイ」という言葉をもじって【ネイン】と呼ばれ始めたのが語源だそうだ。

 また、【ネイン】とリンクする目的で帝国軍人については脳内に極小サイズのインプラントを埋め込む。

 また、一部の金持ちや貴族なんかは生まれた瞬間に脳内インプラントの埋め込み手術をする。

 脳内インプラントがあれば、【ネイン】とのリンクにより、汎用AI並みの演算速度を個体で実現できるほか、戦艦などのメインフレーム等に直接アクセスが可能となり、いざ戦場ともなれば一騎当千の働きが約束される。

 理論的には、生身の人間や生体ユニットをAIとして稼働させることも可能である。




 文明レベルの低い惑星からすれば、ナノマシンの力は魔法のようなもので、特にナノフレームへの換装なんかは、変身しているようにも見える。

 一方、現地人への説明不足のまま【ネイン】を使用したり、使用方法がマズイ(悪事に使ったりする)と、現地人から悪魔の使いと間違われたり異端審問にかけられる恐れもあるので注意が必要である。

 もし仮に、そんなことがあっても、【ネイン】を体内に宿しているのであれば。単独で制圧可能なほどの戦闘能力は有していることになる。

 蒸気機関程度の文明であればひとりで国を消滅させることも可能であるが、当然、帝国憲法違反である。


 ◆◆◆◆◆◆◆



「あなたとても綺麗な目をしているのね」


 ネインの言語解析機能をONにしたところで、先ほどの女性の言葉を翻訳すると、まるで物語で読んだ口説き文句のようなことを言われていた!


 だけど、これって悪い反応じゃないよね?

 とりあえず自己紹介しないと。


「わた・・し、ふ、れあ、あなた、だれ?」


 あんまりうまくしゃべれないな。

 ここで自己の体内にあるナノマシン【ネイン】に話しかける。


《既にこの周辺地域における言語解析はある程度完了しておりますが、独特の訛り等には対応できておりません。また、現在体内の【ネイン】はスタンドアローン状態です。ダウンロード分のインストールが終わればあとは自己学習になります。話す機会が多ければ多いほど細かな言語習得が進みますので、この個体にたくさん話しかけてください》


 個体て。まるでモノみたいに言うなぁ。



「なんだぁ、言葉しゃべれるんじゃない、なんかたどたどしいけどぉ」


「はい、だいじょうぶれす」


 このようなやり取りの中でも、ネインの言語習得は高速で進んでいた。




 どうやらこの娘の名前はコレット、というらしい。


 得体のしれない宇宙人を拾って、いきなり夕食まで用意してくれるなんていい人に違いない!


《そのように獲物を油断させる生物が多く存在しますので気を付けてください》


 ウルサイなーもー。


 ネインに注意され、唇を尖らせていると、コレットがじっとこちらを見つめていた。


 この娘はどうやらこの小さな家で一人で暮らしているようだ。


 この集落は、一応コミュニティとしての最低限の機能は果たしているようだが、若いうちから同年代の人間と接していないのは人として人格形成に障害が出る可能性が高いと教育係のあの人から学んでいた。



 とはいえ、フレア自身も友達がいたことはない。

 旗艦のバイオプラントで生まれ、統括AIから施される教育と訓練に注力していたのだ。

 艦内には人間がいたわけでもなく、他のバイオプラントから生まれた者もいなかった。

 そもそも友達になれるものがいなかったのだ。

 友達がいなくて当然である。



 むしろ、異星人であれ、初めての友達をつくるチャンス・・。

 ん?異星人・・・私はこの惑星の軌道上にある旗艦内で生まれたから、異星ではないような・・・ん?私は軍籍はあって、体は生身の人間と変わりないけど、何星人なんだろう?

 教育係のあの人からはそこんとこは教わらなかったな・・・ま、いっか!


《・・・・・》

 ネインが何か言いたそうだったが、気にしても仕方ないので放置した。

 

 この切り替えの良さがフレアのいいところである。

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