第46話 帰還
あれから数日経った。
エリザ王女から戴冠式の日取りが決まったと連絡が来たので、その日のうちに、リーベルの面々にしばらく留守にすると説明した。
そして戴冠式に出席した後は、帝国領等の視察をするという名目を伝えた。
また帰ってくるので、活動拠点にできるような良い物件を探しておいてほしい、とネリーに伝えると、少し安心した様子だった。
さらに数日後、俺はエリザ王女の戴冠式に出席、滞りなく式は終わり、正式にエルヘイム王国のエリザ女王が誕生した。
ディアナ教会は結局、大司祭トラン・ファーラムを派遣した。
本来であれば、教皇とまではいかなくとも枢機卿あたりが戴冠式を執り行うのが通例だが、教会内部でも色々あったのだろう。
エルヘイム国内の他の貴族は、今のところおとなしく、表立って反対する者は居なくなり、中立を保っていた者も女王の顔色を窺うようになってきたみたいだった。
俺は式典が終わるとすぐに出立するとエリザ女王に伝えると、寂しそうにしていた。俺から言うまでもなく、《女神の裁定》の噂は届いているらしく、そこから何となくテレサが事情を察し、エリザに助言してくれたみたいだ。
そして俺は、南東の孤島、ディアナ・ポートにやってきていた。
シエナから説明を受けていたが、実際に来るのは初めてだった。
まだまだ開発する余地は残っているが、最低限必要な設備は整っており、拠点としてはもってこいの状態まで開発されていた。
まぁまわりは海しかないのだが。
ここまで自力飛行で先に到着していたシエナと合流する。
この前の戦闘時とは違って、フレームアーマー等の装備は解除されており、普通の女性の姿となっていた。
南国の気候なので、涼しげなワンピースに麦わら帽子までかぶっている。
ここ数日で数体のアンドロイドがロールアウトされて配置されている。
このディアナ・ポートで製造されたものだが、戦闘用ではなく、細かな作業を担当したり、他の作業用ロボットなどの指揮を担うことになった。
シエナが言うには、あと少しで島内に建設したマスドライバーの調整が完了するらしい。
アデルの脅威が迫っている今、シエナはすぐにでも軌道上にある旗艦へ戻らなくてはならない。
もしアデル艦隊が現れた際の対応はもちろん、アデルが地上に降下した際にも、宇宙からならシエナによる追撃が可能と証明されたからだ。
マリーの躯体の修理も当然急ピッチで進んでいる。
ある程度ではあるが資源の確保ができた今、俺も
マスドライバーの完成により、ある程度なら資源を旗艦へ持ち帰ることができるようになった。
大量の資材は無理だが、地上で採れるレアメタルなどの希少物質を運び、旗艦を補修強化していく予定だ。
ピストン輸送の形で、できる限りの資源を送る。
基本的にはマスドライバーは物資の運搬用として使用予定で、数百メートルで第一宇宙速度に加速するため有人運搬には向いていない。
しかしそこは、【ネイン】と【バブル技術】の応用で有人でも打ち上げることが可能だ。
しかし、体内にナノマシンを有しない人の利用は厳禁だ。
他には、徐々に宇宙空間での活動範囲を広げていく予定で、惑星ディアナの衛星の資源開拓にも乗り出すことになっている。
ディアナ軌道上に漂着したばかりの時は、衛星までの往復は不可能だったが、ディアナにマスドライバーが完成したので、その開拓も視野に入った。
便宜上この衛星を『ディアナ・ムーン』とか『月』と呼んでいる。
輸送航宙船が完成すれば、ディアナの『月』から、アルミニウムやチタン、ヘリウム3などの資源を採集予定である。
月の地表上に基地を建設する計画も立案中で、シエナの仕事量は増え続けているが、マザーフレームであるシエナにとってはまだまだ余裕らしい。
マリーもいるし、その辺は二人が高スペック過ぎて心配いらないみたいだ。
だからこそ二人を失うような事態は避けなければならない。
俺一人では、アデルに対抗するなど無理だろう。
ディアナ・ポートに滞在中に思ったのが、ここの飯はうまい、ということだ。
惑星ディアナにおりてから、あまり多くの食材に出会ったわけではないが、ゴルドー伯爵の館で出された料理でさえ、正直いえばまぁ普通、といったところだった。
エルヘイム王都の晩餐会で出された料理は確かにうまかったが、帝国のものとは比べるべくもない。
それらに比べると、ここディアナ・ポートの料理はうまい。
素材として島内の魔物を捌いているらしいが、味付けが俺好みのもので、香辛料なども調達しているみたいだ。
シエナも生体ユニットの躯体で、人間と変わらない。
その維持には食事が必要なので、俺と一緒に食事をしたときに「ここの飯は美味い」というと、いつもの無表情ながら少し嬉しそうにしていた、と思う。
シエナがいうには、治療のためテレサがここに滞在していた時も、「美味しい」と言っていて、かなり気に入っていたみたい。
なので、惑星ディアナの人間が俺と味覚が違うわけでもないようだ。
それと、テレサが滞在中にテレサの魔因子について調査をしたらしい。
まだすべて調査し終えたわけではないらしいが、ある程度調査を進めた結果、
『何もわからないことがわかった』らしい。
つまり、この惑星に存在する魔法は本当に我々の常識では理解できないファンタジーだということだ。
解明はできないものの、その成り立ちについては、我々の科学と符合するような点も多いらしく、「何か法則が、もしくは法則そのものが・・・」とシエナが呟いていたが、正直俺にはサッパリだった。
あと、テレサは実は魔法も使えるらしい。
ただ、魔法の応用として、体内の魔力を循環させ身体能力を強化することの方が多いようだ。
それと単純に、騎士だからわかりやすい魔法を使わないらしい。
その辺に妙なこだわりがあるとシエナも感じているようだった。
まだ少しマスドライバーの調整まで時間があるということで、出発は明日の朝と決め、余った時間を使ってシエナと二人で島の海岸を歩いてみた。
夕方だったので、強い日差しも和らいで幾分か過ごしやすい。
旗艦にもどると完璧な温度調整によって自然を感じることも当分できないだろう。
島の砂浜で俺の少しあとをシエナがついてくる。
振り返るとシエナのプラチナ色の髪が風になびいてとても綺麗だった。
恥ずかしいので口には出さないが、宇宙ではこういうのもないので結構新鮮だった。
いつか脅威に怯えなくてすむようになったのなら、ゆっくり自分の足で冒険でもしてみたいなぁと思う。
その時に、シエナやマリーや、この惑星で出会った仲間たちと一緒に冒険できたら、とても素敵なことだろうと思い描く。
「ゆっくり冒険したいなぁ」
とボソッと呟くと、それを聞いたシエナが
「そんなときが来たのなら、私も一緒に」
と答える。
AIとは、いったい何なのだろう、と思う時がある。
現に今の反応はAIのそれではないように思う。
束の間の自然をゆっくり楽しめた俺は、明日からのことを考えなくてはならない。
そして、翌日。
ついにマスドライバーの調整が完了し、旗艦に戻る時がきた。
俺とシエナを乗せたマスドライバーのシャトルが打ち上げられ、見る見るうちにディアナの地表が遠のいていく。
この瞬間もシエナは複雑な計算や微調整を続けているはずだが、そんなことはおくびにも出さない。
そして、俺たちはとうとうシエナ・ノーザンディアへの帰還を果たすことができたのだった。
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というわけで1章はこれで完結となります。
読んでくださっている皆様本当にありがとうございます。m(__)m
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