第43話 閃光のマリー

 カタパルトから出撃したマリーゴールドは、きりもみ回転をするように敵艦隊のど真ん中に突っ込んでいく。


『すべて殲滅するのだわ!』

 ウィングを操り自在に宇宙空間を飛び回るマリーはまるで閃光のようだった。


 マリーはナノフレームにより構築されたレーザーライフルで次々と敵艦を撃破していく。


 一気に数百と言う敵艦を撃墜していく。

 シエナ・ノーザンディアの護衛艦も少数ではあるが、奮戦している。


 決着には少し時間がかかる。

 そう考えた俺は、自分が会場で棒立ちしている状態だったことに気が付き、室内のベンチに腰掛ける。


 俺の隣にはヒルデとアルテが寄り添い、心配そうに俺の手を握っている。

「ラーズさま。お加減が悪いのならば、退席いたしましょう」

「そうなのです。お父さまには私から伝えておくのです」

 と声をかけてくれるが、俺は

「いや、大丈夫だ。しばらくこのままで・・・」

 と声を絞り出すのがやっとだった。

 ネリーやテッド、シャルも心配そうに俺を見つめている。


 もし、マリーが破壊されれば、みんなアデルに殺されてしまう。

 もちろん俺は最後までみんなを守るつもりではいるが、敵の数が数だけに正直勝てる見込みはない。


 そんなことを考えていると、冷や汗が止まらなかった。

 しかし今は脳内でリアルタイム再生されているマリーの戦いを見守ることしかできない。




『ほらほらこっちなのだわ!』

 マリーは敵を挑発するように翻弄する。

 しかし凄まじい戦闘力だ。

 これなら何とか退けることができるかもしれない。


 マリーの凄まじい攻撃に、敵艦が密集する。

 そしてマリーに集中砲火を浴びせる。


『マリー。旗艦射線軸上より退避。殲滅します』

『了解なのだわ!』


 そう言うとマリーは急に反転し、惑星ディアナ方向へ加速する。


『収束レーザーカノン発射』

 シエナがそう言うと、密集していた敵艦隊が、旗艦シエナ・ノーザンディアの主砲で一掃される。

 アリアドネ海ですべてを薙ぎ払った光ほどではないが、最新鋭艦シエナ・ノーザンディアのレーザーカノンも超高出力である。

 旧型ばかりのアデル艦隊はなすすべもなく撃沈していく。

 敵に大打撃を与えられたようだ。



「あの光は?」

「ほら、空を見て」

「なんだ、あれは?」

「神様が戦争しているの?」


 会場の外が少し騒がしい。

 【リーベルの庭】の外側で自主的にお祭りをしていた民衆が騒いでいる。

 虫型ドローンでの映像を拾うと、会場の南の空にシエナ・ノーザンディアの放った主砲の直線的な光と、爆発する敵艦の光が直接肉眼で見えている様子だ。

 それもそのはず、現在対アデル戦が行われているのは、リーベルの上空、静止軌道上の話なのだ。

 旗艦シエナ・ノーザンディアは現在修復中であり、自ら移動することはできない

 その位置に旗艦がいるので、俺が降下したのがリーベルの付近になった、というわけだ。

 快晴の夜空なので、戦闘の光は結構はっきり見えているみたいだ。

 外の状況はまだ会場内には伝わってないが、時間の問題だな。


 とにかく、頑張ってもらうしかない、そう思いまた戦闘の状況に集中する。

 ・・・しかし、今までは善戦していたものの、多勢に無勢、さすがに敵の数が多すぎて、徐々に戦況は悪化していった。

 ロールアウトした護衛艦群はすべて撃沈、単独で旗艦を守りながら戦うマリーもかなり被弾しており、ダメージも徐々に大きくなっている。


 他に手はないのか。そう思って考えるが何も出てこない。

 もう一体強化型アンドロイドがあればシエナがリンクして戦うこともできたかもしれないが、強化型はマリーの一体だけ。

 シエナは躯体があるとはいえ、それは生体ユニット躯体であり、人間と変わらない。

 ナノマシン【ネイン】の技術を応用して、ある程度自在に武器や防具を作り出せるナノフレームがあるとしても、生体ユニットの躯体では強化型アンドロイドほどの戦闘力は発揮できない。


 単独一機。それでもマリーは踏ん張っていた。

『もうちょっと、なのだわ。ここで踏ん張らないと、シエナお姉さまのマザーフレームや艦長のいる惑星が・・・』


 ここでマリーが敗北すれば、旗艦内のマザーフレームとメインフレームも破壊され、それはすなわちシエナとマリーゴールドの消滅ロストを意味する。


 徐々に敵の数は減り、しかしマリーの躯体も限界に近づいていた。


『まだ!もう少し・・・』

 ボロボロになりながらも戦い続ける。


 すると、

『Adl-6000型旗艦級艦艇コスモクラフト轟沈』

 シエナが敵旗艦級艦艇の撃沈を確認した。

『よくやりました、マリー。もう少しです』

 シエナがマリーを励ます。

『もう・・・少し!なのだわっ!』

 AI同士である二人が、このような言動をするのは興味深いが今はそれどころではない。正念場だ。


 マリーは6本あるウィングの半数が破損しており、姿勢制御も難しい。

 右足も左手も吹き飛んでおり、躯体のそこかしこが傷だらけでアンドロイドといえど痛々しい姿であった。

 だが、マリーの気力とシエナの支援のおかげか、敵艦の数はもうあと一桁まで減っていた。

 殲滅までもう少し。

 敵は残り2艦となり、マリーが換装したロングブレードで敵のフリゲート艦を切り裂き破壊。

 残り一つ!

 その時、最後に残ったデストロイヤー艦が反転し、惑星ディアナへの降下軌道方向に向かう。


『なんで?なのだわ』

 マリーが追いかける。

 なんとか標準を合わせロックし、射撃。

 しかし今までの戦闘の影響か、命中はしたものの、敵デストロイヤーの船体の一部を破壊するにとどまった。

 しかし、破壊された箇所からアデルが飛び出し、単身、惑星ディアナへの降下軌道へ入った。


 これ以上の追撃は惑星ディアナの重力から逃れられなくなり、いくら強化型アンドロイドといえど、全壊に近い傷を負ったマリーの躯体では耐えられない。


 シエナはマリーに帰投を命じた。





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