第42話 急転直下

「ラクテ銀河帝国とはどんな国なのですか?」

「とても強い国なのでしょうか?」

「特産品は何なのでしょう?」

 来賓の貴族にさっそく取り囲まれ質問攻めにあう。


「とても遠い国です。元ホーチ王国を占領しましたが、母国の方は遠すぎてもう帰れません。なので、占領地を開発、発展していく予定ですよ」

 と答える。

 俺が帝国のことについてそれ以上話さないでいると、来賓の皆も話題を今後のことに切り替えてくれた。


「私は出回り始めた帝国製の食器を買いましたが、あれはすごい。落としても割れないんだ」

「私も商業ギルドを通じて帝国製の服を買いました。とても精巧で、もっと高くてもいいのではないかと思っています」


「まだまだ新製品は開発中です。まずリーベルから卸していくことになるでしょうから、ここにいれば新製品は手に入りやすいと思いますよ」

 とリップサービスすると、結構な数の人がおぉと声をあげて盛り上がった。


 帝国製品は、出来上がった分をリーベルの商業ギルド、すなわちシャルのところに卸している。

 今後も販路は拡大する予定で、シャルとは今後も色々と打ち合わせが必要だろう。


 今のところ、集まってくれたみんなも楽しんでくれているようだし、一通りあいさつも済んだので、俺も楽しむとするか。


 ウェイターからワインをもらい、少し口に含む。

 すると腕を組んできたヒルデが、

「あぁ、わたくし少し酔ってしまいましたわ。一緒に夜風にあたりに行きませんか?ラーズさま」

 と言うと、反対側に同じように腕を組んできたアルテが、

「あれー私も酔ったのです。私も一緒に行くのです。ね、ラーズさま」

 と言う。

「アルテはまだお酒飲めないでしょ!」

 と言ってヒルデがふくれている。


 この姉妹がいると、これがいつもの風景となっている。

 右と左から姉妹で何やら言い争いをしているが、俺はワインのことを考えていた。


 このワインも悪くはないのだろうが、やはり帝国のものとは雲泥の差だな。

 こういった食事や酒に関しても少しづつ生産していってみようか、などと頭の中で考えていた時、








 ――――――― Emergency ―――――――




 急にけたたましいアラートが頭の中に鳴り響く。

 俺の目の前に【緊急事態】というウィンドウが展開される。

 といっても、俺の視野に映りこんでいるものなので、周りの人間は気が付かない。

 俺は、あまりの唐突さに立ち止まり、たぶん顔面もこわばっているはずだ。

 嫌な予感が全身を駆け巡る。


 俺の異変に気付いたヒルデが、

「ラーズさま、どうかいたしましたか?」

 と心配そうな顔で聞いてくる。


 俺は、

「いや、なんでも・・・」

 と答えるのが精いっぱいで、姉妹は首をかしげている。


『どうした?!シエナ、何があった?』

 その問いに絶望的な返事が返ってくる。






『艦長・・・アデル艦隊です』




 俺は一番恐れていたことがこんなに急にやってきたことに顔面蒼白になる。

 わかっていたはずだった。

 神出鬼没なアデルがいつ現れてもおかしくないと。


 しかし、早すぎる!現状まだ戦力が全く足りていない。

 ホーチ王国程度ならドローンや小型航空戦力だけで十分だったが、アデル艦隊となると話が違う。

 まだまだ戦力が足りない。


 万が一に備えて、総旗艦シエナ・ノーザンディアの修理を急ぎ、旗艦を守る航宙戦力も少しづつロールアウトしていたとはいえ、戦力的にはまだ全く不足している。

 シエナも同じ認識のはずだ。


『艦隊規模は?!』

『約3,000です。

 Adl-6000型旗艦級艦艇コスモクラフトをはじめ、Adl-1000型準駆逐艦フリゲート約1,500隻、Adl-2000型駆逐艦デストロイヤー約1,000隻、Adl-3000α型軽巡洋艦ライトクルーザー約300隻、Adl-3000β型重巡洋艦ヘビークルーザー約200隻で編成された中規模艦隊です。』


 まずい・・・。

 いくら帝国の英知の結晶である最新鋭艦シエナ・ノーザンディアといえども、まだ50%以上も復旧していない状態である。

 それにロールアウトした護衛艦もまだまだ数が足りない。

 だが諦めるわけにはいかない。

 ここで俺たちが食い止めなければ、この惑星ディアナは瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。


『シエナ、戦力分析!』

『はい。現有戦力による総力戦を行ったとして、生存確率は30%以下です。しかし、敵艦隊の中に新鋭艦は存在しないようです。もし敵新鋭艦が数艦でも存在した場合、生存確率は一桁%未満でした』

『ぐ、だが30%以下では絶望的じゃないか』

『こちらにはまだ手があります。マリーの強化型躯体が完成しております。細かい調整はできませんでしたが、マリーをこの躯体にリンクさせ出撃させます。それで生存確率は約50%まで上昇します』

『それしかないかっ!よし、マリーゴールドのリンクが完了次第出撃だ』

『了解しました』


 頭の中にマリーゴールド専用強化型アンドロイド躯体の様子が投影される。

 見たところ、それほど人間とかわりなく作られている。

 シエナのこだわりもあってか、この躯体はかなり精巧に作られたようだ。




《Main frame code:MARRY GOLD Neuralink system start up》



 強化型躯体のまわりにメインフレームのリンクを示す文字が浮かび上がる。

 座らされていた躯体が自ら立ち上がり、金色に近い黄色だった髪がリンクと同時に深いオレンジ色に変化し、その瞳はオレンジ色と金色を混ぜたような色に発光する。

 更に躯体の周りにナノフレームアーマーが構築され、背中には6枚のウイングが顕現する。


『マリーのリンクが完了しました。マリー、躯体への初リンクでいきなり戦闘となりますが、ここでの敗北は本艦と惑星ディアナの消滅を意味します。メインフレームとしての役割を果たしなさい』

『了解なのだわ。シエナお姉さま』


『艦長。マリーを出撃させます』

『いきなりですまないマリーゴールド。しかし今は君に頼るしかない。頼んだぞ!』

『艦長もマリーと呼ぶのだわ!準備完了なのだわ』

『わかった!マリー頼むぞ!』


『マリーゴールド・・・発艦!』

『了解なのだわ!』


 シエナの合図で、マリーはウィングを大きく開き、オレンジ色の光を淡く放ちながら、カタパルトによって勢いよく旗艦から出撃した。

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