第41話 祝賀会開催

 ようやく祝賀会の当日を迎えた。


 この3日間、自分でもよく充電したと思う。

 自主鍛錬はしていたものの、こんなに羽をのばしたのは、この惑星ディアナに降下してから初めてだった。


 これだけ充電したなら残った仕事もしっかりしないとな。

 この後は、エルヘイム王国内の王女エリザに反対する貴族の対応を終わらせねばならない。

 今日の祝賀会が終われば、すぐにでも取り掛かるつもりだ。


 それに来るアデルへの対応を盤石にするためにも、早くこの惑星の技術水準を引き上げなければならない。

 今の航空戦力では、現地には敵がいなくとも(テレサみたいなのは別だが)アデルが現れると太刀打ちできない。


 強化型アンドロイドなら対応できるだろうが、非戦闘タイプのアンドロイドならすぐに撃破されてしまう。

 そもそもアンドロイドはまだ配備できる段階ではなく、ロールアウトすればラクテ銀河帝国領に随時派遣予定だが、まだ1体も送り込めていない。


 単純に必要な資源コストが高いのと、航空戦力、および海洋戦力を優先しているのが原因だ。

 今実際に稼働予定なのは、マリーゴールドの躯体として製造中の強化型アンドロイドのみになる。

 なので今の帝国領は、小型航空戦力やドローンが支配しているという状況だ。


 ディアナの技術水準を引き上げる件については、若者や子どもたちを中心に教育していくことになるだろう。

 しかし子どもも良くて働き手、悪くすればストリートチルドレンが当たり前のこの世界で、技術を教えるにしてもまず義務教育の整備が必要だ。

 当然そういう制度はこの大陸には存在していない。


 王都には貴族や富裕層が通う学校があるものの、貴族の礼式を学んだり社交場としての意味合いが強く、とても教育機関としての役割を担えているとは言い難かった。

 街ではディアナ教会がたまに子どもたちに読み書きを教えているが、それも定期的に行っているわけでもないので、やる気のある子しか文字の読み書きは難しい。

 子どもは勉強より遊びが楽しい、仕事が片付けば遊びたいのはよくわかる。


(その辺の改革からか、しかしこれは帝国領でまずモデルケースを作るところから始めて、周辺各国に広げていく感じか。時間かかりそうだなぁ)


 そんなことを考えつつ、祝賀会の会場である【リーベルの庭】に向かう。

 会場の【リーベルの庭】は、城塞都市リーベルの城壁の外側、街から北東側にある元貴族の邸宅を改装した大きな屋敷だった。

 庭も広く、大きなホールを兼ね備えたこの屋敷は、以前から大規模な催し物に使われているらしい。


 街中はどうしても城壁が目に入るので、安心なのだが催し物をするには開放感が足りない。

 そういった理由で、この屋敷は城壁の外とはいえ、普段からゴルドー伯爵が手入れしており、付近の魔物も街の巡回兵などに重点的に狩られているので、危険はほとんどない場所ということだ。


 会場周辺には既に人が集まっており、警備の兵も多い。

 俺は伯爵の館から馬車に乗せてもらい、ヒルデとアルデをエスコートして一緒に会場に入る。

 この二人には昨日散々振り回されたが、まぁ二人とも楽しんでいたみたいだしよしとするか。

 今日は昨日とは打って変わって、二人とも貴族の令嬢として恥ずかしくないように振る舞っている。今や伯爵令嬢だもんな。

 しゃべらなければちゃんとして見えるな、うん。


 今日は周辺の町や領などからお偉いさまも来ているようだ。

 特にゴルドー伯爵と古くから付き合いのある貴族、すなわち王女の即位賛成派の人たちも集まっている。


 会場に入って、一通り貴族を含むお偉方に挨拶をすませた。

 特に娘を持つ貴族の面々にしきりに、結婚はしているのかだとか、側室候補にうちの娘はどうだとか断るのが大変だった。


「あんなにやんわりじゃあ、断った内に入りませんわ。もっとしっかりお断りいたしませんと!」

 といってプンスカしているヒルデに睨まれる。

「でもまぁ力のある方ですと、別に側室が何人いてもいいのです。逆に女性貴族が何人も夫を養っているということも聞いたことがあるのです」

 とアルテが言うと、

「それは特異な例で一般的ではないですわ!」

 等とヒルデが反論する。


(一夫多妻や一妻多夫が認められているのか。まぁこの様子なら一部の貴族だけみたいだな)

 

 そんなことを考えていると、立食しているテッドとネリーも見つけた。

 ネリーは私服を一度見ているので違和感はなかったが、正装しているテッドの姿は新鮮だった。

 一緒に商業ギルドのシャルもいるようだ。

 こちらに気付いたみたいで近づいてくる。


「やぁテッド、見違えたな」

「ニヤニヤしながら言ってんじゃねーよ!似合ってねーのはわかってるよ」

「馬子にも衣装とはこのことね」

 相変わらずテッドはネリーにきつく言われてしょんぼりしている。

(かわいくないぞ。あ、そうだ)

「あ、立て替えてもらってたお金かえすよ!」

「何で今なんだよ!今はいらねぇよ!」

「そっか〜」

(早めに返したいんだけどなぁ)


「ラーズさん、ご無沙汰しております。この度は男爵位を賜られたそうで、おめでとうございます」

 そう言ってシャルが挨拶してきた。

「まぁそれはなりゆきというか。シャルにも世話になったね。荷車の件のお礼もしっかり言えてなかったし」

「いえ、あれはリーベルを毒から救ってもらったわけですから。こちらがお礼を言うべきで、男爵様にお礼をいわれるなど」

「男爵様って呼ぶのやめてほしいな。むずがゆいし。ラーズでいいよ」

「わかりましたラーズさん」

 そういってシャルが笑う。

 糸目の人って、普段から笑っているように見えるよな。


 各自が歓談する中、壇上にゴルドー伯爵が登壇し、始まりの挨拶を告げる。

「皆さん今日はお集まりいただきありがとうございます。今回はラーズ殿の冒険者ギルドランクアップの祝賀会を内々でする予定だったが、同時に男爵への陞爵もしたのでそれを併せて開催したところ、思ったより規模が大きくなってしまった。おかげで準備が大変だったわい」

 といってさっそくぼやいている。


「さらにラーズ殿は、母国であるラクテ銀河帝国の総督として、元ホーチ王国領土を治めることとなった」

 そうすると会場から、おぉという歓声がわき、皆の視線が集まる。

(あんまり目立つの苦手なんだよなぁ)

 とはいえそんなことも言っていられないので、手をあげて答える。

 何故か横でヒルデとアルテがドヤ顔をしているが、放っておこう。


 伯爵の乾杯の合図で、祝賀会の幕があけたのだった。




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