第40話 息抜き
テッドと昼間から飲み明かした翌日。
リーベルに滞在中の安宿で目を覚ます。
昨日はかなり飲んだが、体内のナノマシン【ネイン】のおかげで二日酔いもない。
科学のすばらしさを噛みしめながら、朝食をとろうとカウンターを通ったところ、宿のおやじさんから声をかけられた。
「おぅ。起きたか、昨日ギルドのねーちゃんが来て伝言を預かってるぞ。昼の鐘が鳴る時にギルド前の広場に来てくださいだと。約束がどうのって言ってたなぁ」
(ネリーか。昨日の食事の約束だろうな)
「わかった。ありがとうおやじさん」
おやじは「おうよ」と言って、その後に若いっていいねぇとか俺も若い時は、とか言っている。食事奢るだけなんだけどな。
あ、そういえばテッドに金返すのも忘れてるな、イカンイカン。
テッドには次に会ったときに返そう。
いつも通り、黒パンセットを完食した俺は、昼まで時間があるので、宿の裏側で剣術や他もろもろの鍛錬をする。
(魔法ってどうやって使うんだろうか。まだ実際に魔法見てないんだよな)
一通り汗を流した後、宿のおやじさんに湯を沸かしてもらい清拭する。
そうしているうちにそろそろ昼なので、ギルド前に向かうことにした。
ギルド前の広場に着くと、既に噴水の近くにネリーが待っている。
いつものギルドの制服と違い、清楚な感じの私服を着ている。
服も変われば印象も変わる。まるでいいとこのお嬢さんのようだった。
「ごめん、待たせたみたいだね」
「いえ、今来たところなので大丈夫ですよ」
そう言って、歩き出したので私服をほめる。
すると少し顔を赤くして微笑みながら「ありがとうございます」と言っていた。
いつもは仕事のイメージもあってしっかり者の印象だが、こう見ると年相応の女の子に見える。
目的地の店につくと、
「ここちょっとお高いですけど大丈夫ですか?」
と心配されたが、正直鉱山から生み出す利益だけでも結構すごいことになっているので財布的にはまったく問題がない。
資源を加工して商業ギルドを通じて売却しているのだが、その辺の収支計算はシエナに任せていた。
俺は、例えば食器やら農機具などの元になる商品のアイデアを提供するぐらいで実際の加工もシエナ頼みだ。
アイデアといっても既に帝国での既製品なので、自分で新しいものを発明したわけではない。
なのに、すごい便利なものを発明したともてはやされるので、何か一種の罪悪感があった。
そんなことを考えながら店に入ると、確かにギルドの酒場と違って上品な雰囲気の店だ。
席まで案内されるが、店の客が少しざわついて皆こちらを見ている。
どうも解毒剤の件で少し有名になってしまったらしい。
「みんなラーズさんを見てますね」
と言って嬉しそうにしているが、俺はなんだかむずがゆい。
とはいってもさすがに上品な店だ。
ここで話しかけてくる者は居なかったので助かった。
食事を終えると、
「今日ってまだ時間空いてますか?」
とネリーが聞いてきた。
正直、明後日の祝賀会までは自己鍛錬くらいしかすることがない。
ホーチ王国改めラクテ銀河帝国領に行くには時間が微妙だし、シエナにも
『生身の身体には休暇が必要です。休んでください』
と言われたので、ちょっと暇を持て余していた。
「祝賀会までは空いてるよ」
そう言うと、
「じゃあ今日は夜まで付き合ってもらいますよー」
とノリノリだった。
そんな話をしながら店を出た瞬間、
「「あー!ラーズさまっ!!!」」
という聞き覚えのある大声が聞こえた。
振り返ると、ゴルドー男爵改めゴルドー伯爵の娘、ヒルデとアルテが立っていた。
どうも二人はコルテ村に護衛を引き連れて視察にでていたという。
状況からして今帰ってきたのだろう。
護衛が後ろに控えている。
そんなことは関係ないとばかりに二人は指さしてすごい勢いでこちらに近づいてきた。
「もうお帰りになっていたなんて、ラーズさま!わたくし達ももっと早く戻ればよかったですわ!」
ヒルデは、左手を腰に手を当てながらポーズを決めている。
「ラーズさまっ!今日は一体こんなところで何をしているのです?!」
アルテは両手を腰に当てて俺をのぞき込むようにしている。
「ああ、今回の一件でネリーに色々とお世話になったのでお礼に食事をしていたんだよ」
というと、
「?!・・・そ?!そっそそそそそれって!!デッ・・デ、デー、デーッ!!?」
「お姉さま少しだまってくださいなのです」
相変わらず騒がしい姉妹だが見ていて飽きない。
しかし一方でネリーがシュンとした様子だったので、
「お二人ともすまない。今日はネリーとの約束なので」
というと、アルテがハッとした表情をしてヒルデに何やら耳打ちしている。
すると、真っ青な表情だったヒルデの顔色がみるみるよくなり、
「今日のところはおとなしく引き下がりますわ!ただし!!」
そう言って一呼吸おいて、
「明日はわたくしとアルテをかまってもらいますわよっ!!」
といって仁王立ち、アルテは横でフンフンと頷いている。
「それでは失礼いたしますわっ!!」
といって護衛の人たちを引き連れて帰っていった。
嵐のような姉妹が立ち去ったあと、ネリーは
「ラーズさんは今や有名人ですもんね。仕方ないかー」
と言っていつもの笑顔に戻っていた。
そのあとはネリーと買い物や観劇などして過ごし、ネリーも満足している様子だった。
翌日、二人のお嬢様に振り回されたのは言うまでもない。
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