第37話 交渉

 エリザ王女に促されると、先ほどの青年が前に出る。


(やはりこの青年がなんらかの鍵か)

 トランはそう思いながら耳を澄ませる。


「ラーズ・ロンフォールと申します。エルヘイム王国男爵位を賜っております」


「皆様、この者は我が国エルヘイムの救世主です。皆様もご覧になったと思いますが、このエルヘイム城を含め、王都の各所がホーチ王国軍に蹂躙、破壊されました」


 とエリザが会場に集まった者たちにラーズを紹介する。


「確かに、城壁からなにからひどい有様だったな」

「復興中とはいえ、あれはかなり時間がかかるだろう」


 そう言った声が会場に響く中、エリザは続ける。


「王族もすべて殺され、もうエルヘイムも終わりかと、ここにいる我が兵たちは思ったことと思います。しかし、ロンフォール卿に救われました。3万のホーチ軍に占領されていた王都を、ひとりで殲滅してくれたのです」


「は?」

「3万を一人で?」

「さすがにそれは・・・」


 会場から信じられないといった声や、苦笑まじりの声でざわつく中。


 青年の横に浮いていたものが空中を動き出した。

 エルヘイムの兵が大きな丸太を床に置く。

 なんだなんだと皆が丸太に注目した時、

「ビッ」

 浮かんでいるその物体から光が発射され、丸太を貫通していた。


「なっ、なんだこれは」

「魔法・・・大魔法かっ!」


「皆様上をご覧ください」

 エリザが会場の上を指さすと、


「!!!!」

「これはっ!!」

「ひぃ」


 さっきまではいなかったはずの無数のその物体が空中を飛んでいる。


「ロンフォール卿はこの力でエルヘイムを救ってくれたのです」

 エリザがそういうと、続く様にラーズが

「俺はこいつ等を思うように動かせます。この力でホーチ軍を殲滅しました」

 そう言って、すべてのドローンを会場から退場させた。


「なんということだ」

「おそろしい。間違いなく大魔法だ」

「『閃剣』以上の化け物なのでは?」



 エリザが構わず続ける。

「ロンフォール卿はエルヘイムの貴族ですが、この度の働きに報いるため、ホーチ王国の全土を彼に委ねます。

 そしてかの地を【ラクテ銀河帝国】と称することを認め、我がエルヘイム王国との国交樹立、並びに同盟と不可侵条約の締結をここに宣言いたします」


「なっ、なんですと!」

「新国家の独立を独断で決めるのか」

「それはエルヘイムが後ろ盾になるから、あの青年を国家元首とする新国家を認めろということか」

という声が会場に響く。


 中には、

「大昔はホーチ王国はエルヘイム王国の一部じゃったから、それが元の鞘にもどるということかの」

という意見もあった。


 ひと通りの声を聞いた後、ラーズは

「俺はエルヘイム男爵を賜っておりますが、もともとラクテ銀河帝国の軍人です。俺の国ははるか遠くにある国ですので、皆さん知らないと思います。あくまで代理、代官として統治することになります。皆さんの意見はもっともです。できれば交流をもち、お互いを理解できればと思いますが、それができない場合は仕方ありません」

と語りかける。


「武力にものをいわすということか」

「大陸の外に存在する国なのか?」

「やはり帝国と言うからには、かなり力を持った国なのだろうか」

「しかし、本当に誰も知らない様子だな。本当に存在する国なのか?」

「実質は総督ではないか、後々各地を占領するつもりじゃないだろうな」


 明らかに反対の者から理解を示す者まで様々だったが、エリザは関係ないといった様子で、

「先ほども言いましたが、これは決定事項です。覆すことはありません。とはいえ、我がエルヘイムとラクテ銀河帝国は周辺諸国と争いを望むものではありません。帝国は新たな産業を提供する用意があるとのことです。周辺国の皆様とも貿易や文化交流などを通じて仲良くしていきたいと考えております」


 エリザは微笑みを浮かべてそう締めくくった。



 その後は、エルヘイム城内において晩餐会が開かれ、エルヘイムの郷土料理や、再現可能な銀河帝国の料理などでもてなされた。

 各国の代表も、今後のエルヘイムやホーチ王国にとって変わった帝国と称する国の行く末について、悲喜交々であったが、酒が入ると新たな産業や貿易に興味が移り、会場の空気も晩餐会らしいものとなっていった。

 特に、注目されている帝国の料理は、当然この地にない味付けで、物珍しさもあり、各国に好評であった。


 そんな中、ディアナ正教国大司祭トラン・ファーラムは別室に呼び出されていた。

 お付きの者は外で待機するように言われ、それに従い室内に入ると、王女エリザと宰相フリード、それと先ほどの青年、ロンフォール卿が出迎えた。


「先ほどは大司祭様に対してはいささか失礼な物言いとなり、申し訳ありません」

 そう言って、エリザ王女がソファに腰掛ける。


(教会をないがしろにするつもりはないということならば大事にせずに済むのだが)

 そう考えながらも促されて、トランも着席する。


「しかし、先ほどの言葉は私の本心であり、発言を覆すことはありません。教会とは協力関係を築ければ、と考えております」


「ふむ。しかしですな、私も教会の人間。本国よりエルヘイムとホーチの仲立ちを期待されて派遣されておりますゆえ」


「ホーチとの和解はありえません。もし教会側がそれを求めてくるというのなら、エルヘイムとしては教会との協力は不可能ということになります」


「それは正教国を敵に回しても、ということですかな?」


「その通りです」


(覚悟を決めた目をしている。決まり口上を述べたところでこれ以上は何も引き出せないだろうな)

 トランはそう考え、攻め方を変えてみる。


「わかりました。では教会としてはどう協力させてもらうのがよろしいでしょうか?」


「私の女王戴冠式をお願いしたく思います」


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