第35話 ホーチ王国の終焉
そして、ホーチ王国制圧から一夜明け、エルヘイム城内謁見室。
「ラーズ様の手にかかればあっけないものでしたね」
まるで夢か何かを見ているように、本当にあっけなく、不思議な気分だった。
しかしラーズの言う通り、ホーチ王国国王のグスタブや取り巻きの有力貴族を軒並み捕らえ、今は地下牢の中だ。
しかもそれを一夜にして完遂したということが、エリザはいまだ信じられなかった。
しかし、現実にラーズの言ったとおりになっている。
その実力を目にしていたエリザは、疑っていたわけではなかったが、まさか国の制圧を一日で終わらせるなど、自分の常識が邪魔をしてなかなか飲み込むのが難しかった。
だが、現実を突きつけられて気合を入れなおす。
大変なのはこれからだ。国内の復興や、各国との調整、そして1か月後に控えた断罪の時、うまくやれるか心配だった。
それに、心配事はまだある。
ホーチ王国内の確認できる有力貴族の一族郎党をすべて捕らえてきたので、それなりの数になって、収容場所にも難儀している。当主の妻、子どもについては、王国内の宿を貸し切り、そこに軟禁している状態である。
当主の断罪は当然として、その妻や子どもをどこまで断ずるのか、これに関してラーズは「被害者はエルヘイムだから」という理由でエリザにすべてを任せると言った。
そのあとで「手に負えなければこちらで処理をしてもいい」と助け船を出されたが、
エルヘイムの問題をラーズに任せるのは違う気がした。
それになんだか試されている気がして、ここで頼れば対等な関係ではなくなってしまうような予感があった。
だが、やることが山積みなエリザは、それでも頑張れるという確信があった。
「どうしたエリザ?ポヤーとしてるぞ」
やさしくテレサが話しかけてくれる。
テレサと再会したのはついさっきだったが、その瞬間は抱きついて泣き崩れてしまった。
ラーズの言った通り、テレサは無事に帰ってきた。
あんなに傷だらけだったのに、今は傷一つなく、打ち付けられた手のひらも元通り綺麗になっているのを手袋を外して見せてくれた。
手をヒラヒラさせて微笑むテレサに何度しがみついて喜んだことか。
それを何度も優しく受け止めてくれたテレサの温もりを感じながら、ラーズへの感謝の気持ちがとめどなく湧き出てくる。
「うん大丈夫。やってみせるわ」
それから度重なるラーズとの打ち合わせ。
断罪の際の各国の要人の招待。
教会との折衝。
国内の復興。
やることはたくさんある。
エリザは改めて気合いを入れなおすのだった。
そして約1か月後。
手かせを付けて座らされているホーチ王グスタブ、それから王を助長させてきたホーチの主要貴族たちが自分の前に並べられている。
それは、エルヘイム王女エリザによる、ホーチ王国の断罪の時。
謁見の間は断罪の会場となっている。
周辺各国の大使を呼び寄せ、エルヘイム王国の行く末について、立会人として見届けてもらう。
さすがに元首自ら来る国はなかったが、ホーチ王国の王侯貴族の捕縛や、大魔法の件など、それらを確かめるために各国とも要人が到着している。
なにより平和ボケしていたエルヘイムが一方的にホーチ王国を断罪する事態に困惑し、ことの成り行きを見届けようとしているようだった。
中には、異常な嗅覚を発揮し、国のナンバー2を大使として参集させた国もあった。
この日に合わせて到着した、ディアナ教の大司祭トラン・ファーラムも見届け人として参加している。
異様な空気をまとうこの場に、
(ホーチ王国の王侯貴族がエルヘイム王国の王女の前に座らされている。話を聞いたときは半信半疑だったが、まさか本当にこんなことが。罪状だけ聞けばホーチ王国のしてきたことは許されることではない。しかし、予告通りに民に犠牲を出さず、王族貴族だけを捕らえてくるとは。いったいどんな魔法を使えばできるのだ)
と、トランは思案する。
(エリザ王女は以前にお会いしたことはあるが、苛烈な方ではない。親衛隊長の『閃剣』ならできそうな気もするが、全員を捕まえてくるというのも無理がある。エルヘイム貴族も平和にかまけているし、突出して目立ったことをする者は記憶にない。いったい誰だ?誰がこの場を仕込んだのだ)
ふと、王女の傍らに控える青年が目についた。
一見、豪華な装備をしている若手貴族のようにも見えるが、何か雰囲気が一介の貴族のそれではない。
反対側に控える『閃剣』にも見劣りしないような空気がある。
(それに・・・青年の横に浮いているアレはなんだ?
魔法の類だろうか?召喚魔法なら見たことはあるが、あんな形状のものは見たことがない。
もしかすると、神話にある大魔法か・・・。)
会場の各国の大使も青年の横に浮かんでいる物をみて騒然としている。
構わず王女が開始の合図を告げる。
「では、ホーチ王国の罪状を述べます。宰相、よろしくお願いいたします」
そう言ってエリザ王女が一歩さがると、かわりにフリード侯爵が前にでる。
「では罪状を読み上げます。ホーチ王国グスタブ・ルッド・ホーチ並びにその王太子エリック・ルード・ホーチについては、長きにわたり我がエルヘイム王国内においてはやり病と見せかけ、毒を井戸に流し、無辜の民を大量に虐殺したこと」
会場がざわつく、はやり病は各国の悩みの種だ。
もしかしたら自国も病に見せかけられた毒を仕込まれていたのかもしれない。
そういった空気が会場に広がる。
「もしかすると、我が国で昨年流行った病も、ホーチの毒なのでは?」
会場各所からそのような声が聞こえてくる。
「馬鹿なっ!毒を仕込んだのはエルヘイムだけだっ」
ホーチの貴族の男が、自白する。
グスタブは余計なことを言うなというような視線をその貴族に向ける。
すると、
「誰が発言を許可したのかしら」
そう言って、その貴族の首筋には長剣の刃が突きつけられていた。
先ほどまで、王女の後ろに控えていたはずの『閃剣』がいつの間にか発言した貴族の横に笑顔で佇んでいる。目は笑っていない。
会場に参集したものの中でラーズ以外、誰も目で追えた者はいなかった。
「おぉ・・・」
会場がどよめきに包まれる中、フリード侯爵が続ける
「さらに、我がエルヘイム国王、王妃、それにエルド王子を惨殺を主導したこと。実行犯は既にロンフォール卿が処刑しております」
「ロンフォール卿?」
各国の大使が聞いたことのない名前にざわつく。
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