第34話 迎撃

 一閃。

 テレサが剣を収めたと思えば、周囲のホーチ王国兵がまとめて倒れる。


 さらに剣の届かない場所にいたはずの兵までも切られている。


「ぐ、ば、ばけもの」


 そういう敵指揮官は味方を壁にして後退する。


「死んだはずの化け物が何故ここにいる!?」


「逃がさないわよ。ホーチ王国王太子エリック・ルッド・ホーチ。あなたが、この戦争とエルヘイムに係る毒の元凶のひとりね」


「な、なぜ知っている?!」


 王太子であるので顔くらいは知られていてもおかしくはない。

 しかし、毒のことについてはエルヘイム側が知っているはずがない。

 はやり病と思っていたはずだ。


「今あなたが認めたじゃない」


「むぅ」


 テレサがエリックとの距離を詰める。




 詳しいことは、島にいたときにシエナに教えてもらっていた。

 私の標的は、ホーチ王と王太子、それから主だった貴族たちだ。


 しかし、王と貴族たちはラーズが殲滅に向かうという。

 距離も離れているし、私はこいつだけで我慢しよう。

 しかしこいつが、毒をエルヘイム各地に広めた張本人。

 エルヘイム王族殺しの実行犯ではないが、主犯であるのは間違いない。


 ・・・エリザを泣かせたのだ。

 絶対に許すわけにはいかない。


「あなたが主犯・・・許さないわ。どうやって死にたい?」

 氷のような美しい笑顔を向ける。


「ひ・・・ゆ、許してくれ。何でもやる。そ、そうだ、私の、王太子の妻になるのはどうだ?未来の王妃だぞ?」


 エリックは必至になって叫ぶ。

 それはそうだ。のだから。


「頭がおかしいのかしら?」


 テレサはあきれたような仕草をしながら答える。

「なぜあなたのような愚か者に嫁がなきゃいけないのかしら。考えるだけでも寒気が走るわ」


 そう言いながら笑顔でエリックを斬りつける。

 しなないように、手加減しながらゆっくりと傷を増やす。


「あ、ぐ・・ぇ」


「あなたは、自国やエルヘイムの無抵抗な民にもかなりひどいことをやったわよね」

 そのあたりもシエナに映像付きで見せられた。

 民を略奪し、凌辱し、殺したのだ。それも相当な数に上る。


「悔い改めなさい」


 そう言ったテレサは、あえてとどめを刺さない。

 その代わり、見晴らしのいいところにある木にエリックを磔にした。


「あなたの国はこれが流行っているのよね?」


「!・・・っ」

 エリックはまだギリギリのところで意識を保っていたが、磔にされて身動きができない。自分のまわりに小型の魔物や、鳥などが取り囲むように徘徊していることに気が付く。

 まるでテレサがいなくなるのを待つように。


 そして、テレサはその場を立ち去った。

 まるで何事もなかったかのような笑顔を残して。




「こちらは終わったわ。ラーズの方はどうなっているのかしら」

 テレサはエルヘイム王都へと帰還するのであった。





 ◇◇◇◇◇◇◇



「それではホーチ王国王都への作戦を開始する、速やかに王侯貴族を捕らえろ」


 俺はそう言って開始を宣言するが、現地に来ているのはドローンとおびただしい数の航空戦力のみだ。

 ラーズ以外に人はいない。

 しかし、王族や主要貴族の居場所は既に確認済みである。


 シエナとマリーゴールドが航空戦力を管理しているので、正直一時間もあれば十分終えられるだろう。

 その後の統治の方が時間がかかる問題だ。



 その後はあっけないものだった。

 深夜に作戦を開始したので、ホーチ王グスタブは寝室でいびきをかいて寝ているところを捕縛。


 その他の主要貴族も同様に簡単に捕縛していく。

 起きていたものもいたが、抵抗むなしくすべて捕らえられた。

 城の兵もほぼすべてが侵攻に駆り出されたため、極少数しか残っておらず、それらもすべて逃げ出してしまった。


 そして、ホーチ王グスタブと貴族たちは、それぞれ捕縛された状態で眠らさせ、大型ドローンスカイキャリーでエルヘイム王都まで搬送されたのだった。


 こうして一夜のうちにホーチ王国の中枢はすべて制圧されたのだった。


 後日、

《ホーチ王族貴族は戦争犯罪の罪ですべて捕らえられた。以後、この土地はラクテ銀河帝国が統治するものとする》


という内容の振れをだしたが、字を読めないものも多いのか、反応は薄かった。

 住んでいる民からすれば、中枢が何に取って代わろうが関係なく、今よりひどくならなければ気にもしないようだった。

 それに、主要な建物には空飛ぶ何かが絶えず旋回しており、近づきようもなかった。

 しかしそこに近づきさえしなければ、今までどおり、はできそうだった。

 実際に軍や衛兵などは一掃され、とやかくいう者もいない。

 取り締まる側がいなくなり、さっそく犯罪を犯すものもいたが、空飛ぶ何かに捕縛され連れていかれた。

 そこに人の姿はなく、民はうすら寒いものを感じながらも、もしかすると犯罪さえ起こさなければ、まともに暮らせるのではないか、という希望的観測もあって、暴動などは起きなかった。



◇◇◇◇◇◇◇

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